第21話 動点

文字数 1,834文字

「あれがレイルか、さすがに迫力があるな」
レイルの最も近くにいた男はまだ手が震えていた。
「まったくだ。肝を冷やしたぞ。何人か切りそうな空気だった」
「バルガスを探してたようだな」
「あれは見つかったら生きちゃ帰れんな」
全員はレイルが離れるとホッとしたのかバルガスについて話し始めた。
「グラントの隊も何でバルガスなんて使ってんだ。やつはまだ新参だろ」
「地元のもんじゃないとどうしても情報の質は下がるな」
「まあいちいち地元の情報屋を雇ってたんじゃ金がいくら合っても足りんからな」
男の一人が他人事なのか楽しそうにつぶやく。
「バルガスの奴、逃げれるかな」
「レイルには言わなかったが奴はいつも中に誰がいるか裏口で確認するからな」
「だとして逃げ切れるかな。レイルはできそうなの3人は連れてたぞ」
「やつの逃げ足次第だろうな。面白くなってきたぞ」
男達は高みの見物を決め込もうとしていた。
リコは一部始終を聞いていたが、ふと背中を引っ張られた。
見るとレンドがリコの後ろに立っていた。
「行くぞ、レイルより先に捕まえられるかもしれん」
そういうとレンドは裏口にこっそり周り、店員と何やら話をしていた。
「銀貨3でどうだ」
レンドはそう言って店員に銀貨を払っていたが店員はこんなにもらえるとは思っていなかったようで喜んでいた。
その後レンドは何やら耳打ちされると、うなずいて裏口に張り付いた。
リコも一緒に待っていると8時をまわったあたりで裏口のドアを2回ほどノックする音が聞こえた。
レンドはそれに一度のノックで返すと、一言『誰がいる?』という声が聞こえた。
レンドは
「今日は銀の爪が来てるぞ」
と返事をした。するとドアが空いてバルガスが入ってきた。
レンドはその瞬間バルガスの口を即座に封じると、バタつくバルガスを外へ追いやった。
そして一緒に外に出て、暴れるバルガスに一言『レイルがいる』と告げた。
とっさに抑えられ暴れていたバルガスだったが、その一言をきいて少し驚き、暴れるのをやめてレンドにこう聞きかえした。
「何が目的だ?」
レンドはバルガスに触れたまま返事をする。
「いくつか質問をする。お前は全て『はい』でかえせばいい」
特殊な提案にバルガスはかなりいぶかんしんでいたが、レンドが今ここで奴に突き出しても良い
という旨を伝えると、大人しくいうことに従った。
「お前はバルガスで間違いないな?」
「はい」
「グラントに嘘をついたか?」
「はい」
「情報提供者は男か?」
「はい」
「情報提供者はあの街の出身か?」
「はい」
「大人か?」
「はい」
「子どもか?」
「はい」
ここまでバルガスに特に変わった要素はリコには見えなかったがレンドは何やら答えの記録をつけていた。
「獣についてグラントに意識的に伝えていないことがあるな?」
「はい」
レンドはそこまで聞くと『もう十分だ』とバルガスに言った。
バルガスは特に尋問されるわけでなかったのでかえって疑問に思ったようだった。
「レイルは怒っていたか」
とバルガスはレンドに尋ねた。
レンドは『ああ』と返して、入り口からは3人で待ち伏せされていることを協力したお礼として話していた。
バルガスはそれを聞くと一目散にかけて行った。
リコはレンドを見ていたがバルガスが行こうとする際に一瞬赤い点のようなものが
バルガスの足から地面を伝って、レンドの足に入るのを見た。
レンドとリコは元来た道を引き返してリクソスに帰ることにした。
道中リコは気になったことを聞いてみた。
「さっきの何?全部『はい』で答えたらわからなくない?」
「いやむしろ全部『はい』ではないと意味がないんだ。なぜだと思う?」
リコは彼の能力について考える。
「音の違いを聞いてるの?」
「そうだ、嘘の時や動揺してる時は声帯の筋肉が緊張して、それが声の震えに変わる。俺の能力を知らない相手にはこれが効果的だ」
リコは先ほど見た赤い点の移動についても質問してみる。
「さっきの赤い点がバルガスからレンドに移ったのは…」
「よく見てるな。この入れ墨が相手にあると、相手の体の中の音を聞くことができる
動点と呼ばれる技だ」
「さっさの質問の答えはほぼわかったの?」
レンドは少し考えてから答える。
「ああ、あいつは3つの質問に矛盾を感じてた。おそらく『いいえ』ってことだろう。
そして一つの質問に対しては他と違い単純に動揺していた。
今からリクソスの酒場に戻ってその情報を元にもう少し手掛かりを探る」
リコはその詳細を聞きたかったが、レンドはあまり教えてくれなさそうなので残念そうに先を急いだ。
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登場人物紹介

少女:リコ

小太りの男:カルケル

入れ墨の男:レンド

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