第49話 少年の家

文字数 1,450文字

ピントの両親のいる家は街の中心から少し外れたところにあった。
レンド達が向かうとちょうど父親のサルバが割った薪を運んでいるところだった。
レンドが話しかける。
「あなたがピントの父親か?」
サルバは珍しい訪問者に驚く。
「そうだが…あなたは?」
「俺は銀の爪のレンドという、こっちは…」
レンドはリコに自己紹介を促す。
「私はリコといいます。よろしくお願いします」
「銀の爪…聞いたことがある。名うての獣狩りとか…獣狩りがうちに何の用だ?」
サルバは妹の一件移行、見知らぬ訪問者にかなり不快感を示すことが無意識に多くなっていた。
「あんたは犬を飼っているのか?」
レンドの不意な問いにサルバは驚く。
「犬?いいや今は飼っていない」
「今、ということは昔は飼っていた?」
「ああ、あの犬は私たちというよりは子供の方によくなついていたが…」
レンドは続けて尋ねる。
「その犬はどうしたんだ?寿命で死んだとか?」
サルバはおかしなことを聞くもんだとレンドをいぶかしんだが、少し考えてから答えた。
「いや、気が付いたらいなくなっていたな。妹の方になついていたから、いなくなってさみしくなったのかもしれないな」
ピントの妹の記憶は苦痛を伴うのか、少し悲しそうな顔をサルバは浮かべていた。
家のすぐ外で話していると、音を聞きつけたのかは母親のデルメが出てきた。
「何?お客さん?」
「お前、出てきて大丈夫なのか?」
母親はやつれていたが、心なしか表情はすっきりとしていた。
「今日は調子がいいの。そこで立ち話もなんでしょうから、うちに入ってください。お茶をいれます」
サルバは心配そうな顔をしていたが、うながされるまま、三人とも家に入った。
「で、何の話をしていたの?」
サルバが説明する。
「なんでもエルについて聞きたいらしい」
リコがエル?という表情を浮かべると、サルバがそれは犬の名前だ。という形で説明する。
「エルはあの時、気づいたらいなくなっていたよな」
サルバは探り探りで話しているように見えた。おそらく妹のことをなるべく触れないようにしているのではないかとリコは何となく思った。
だがデルメは明確にサルバの言うことを否定した。
「いいえ、あの時、ピントとレイが一緒に出ていくときに一緒に出て言って以来エルはうちに戻ってきていないわ」
サルバは少し驚いていた。最近は落ち着いていたとは言え上の空だったデルメがこんなにはきはきとしているところを久々に見たからである。
レンドは踏み込んで聞く。
「あの時というのは生贄の儀式のときですね」
サルバはレンドになぜそれを知っているのかという視線を浮かべる。
「そうあの時、帰ってきたのはピントだけ」
言いながらデルメは悲しそうに遠くを見つめる。サルバはそんなデルメの肩をさすった。
一方でレンドは考え込んでいた。
「犬がいなくなったことについて、ピントは何か言っていましたか」
と二人に聞いた。二人は顔を見合わせたが、デルメが答える。
「どうだったかしら。あの子もレイの事ばかりで…いなくなったことに気づかなかったみたいな話をしていたと思うんだけど…」
レンドはうなずいた。
「ありがとうございます。つらい記憶を思い出させてしまって。」
と彼は深々と頭を下げると、リコとともに二人の家を出た。
家を出ると、レンドはすぐに宿舎に戻った。
そしてリコに今日はもう話しかけるなと、告げると自分の部屋に閉じこもって何やら作業を始めた。
帰り際、リコはレンドの部屋からたくさんの声が漏れ出てくるのを聞いたが、今は何も教えてくれなさそうだったのでいったん帰ることにした。
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登場人物紹介

少女:リコ

小太りの男:カルケル

入れ墨の男:レンド

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