第11話 黒と白と決着

文字数 2,542文字

レンドはふと獣に感じている違和感を口にする。
「黒ならもう少し戦う意欲を見せるんだがな。」
「黒ってのは瘴気の色のこと?」
リコは記録を読んで瘴気のことも基本的な分類や害獣との関連も知っていたが、
レンドの獣の知識を引き出すために、あえて聞いてみる。
「獣の瘴気の色は黒と白に分かれてる、その色の違いで奴らの習性は大きく違う。」
「黒は攻撃的なんだよね。」
「ああ黒は攻撃的で殺傷能力も高いのが多い、だいたいが特殊な攻撃方法をもってる。
 あいつだとあの稲妻がそうだろうな。」
レンドは言いながら害獣を指さす。
リコはさらに質問を続けてレンドから知識を聞き出そうと試みる。
「じゃあ白は?」
「その逆だ、白は攻撃そのものは大したことないが、とにかく殺しづらい、特殊な手順を踏まないと殺せない奴がほとんどだ。」
リコは獣の記録を見たときに気になっていたことを聞いてみた。
「それって伝承型で白だったらどうなるの?」
「ああ、そこがやっかいなところだ。伝承型は別の場所の心臓をやらないと死なないが、
 白でかつ伝承型だった場合は心臓を殺すのにも特殊な手段がいる。」
「じゃあ白で伝承型が最強なの?」
レンドは首を横に振る。
「確かに倒しづらい、だが殺傷能力が低い分やりようはある、もちろんそれでも普通の動物に比べれば十分強いがな。」
リコは思ったことを口にする。
「黒と白のいいとこどりとかできないの?」
レンドは思わぬ返事にまた少し考える
「今まで遭遇したことはないが、いずれお目にかかるかもな。そうとうやっかいだろうが。」
リコは今までの会話を踏まえて最初のレンドの疑問に立ち返る。
「だからあの獣が攻撃的じゃないのが気になってるの?」
「奴はほぼ一回も自ら攻撃してない、全部攻撃を返しただけだ。そんな黒は見たことがない。」
「でも強かったよあの雷、グラントの隊の人みんな死んでるし。」
「黒の拡大であのサイズならあの程度じゃすまない、攻撃の質としては白の拡大型か
黒の伝承型に近い。」
「じゃあやっぱり黒の伝承なんじゃない?あの獣いくらやっても全然死なないし」
グラントの隊は確実に獣の動きを封じ始めており、時折放たれる雷の攻撃に関しても、徐々に攻撃範囲がわかってきたのか当たらないようになっていた。
「レンドが一番戦いたくない相手って黒の伝承型?」
「なんでそう思う。」
「攻撃も強くて心臓も離れてるんじゃ倒しづらいんじゃない?」
「正直一長一短だな、黒の伝承型は確かに攻撃にはすぐれてるが心臓の場所さえわかれば直接奴らと戦う必要はなくなる。そういう意味じゃ純粋に攻撃能力の高い拡大型の黒の方が戦いづらいこともある。」
リコとレンドが話をしていると、突然鐘の音が村の方角から鳴り響いた。
鐘の音は何度か繰り返し流れ、一瞬グラント達の集中もそちらに削がれた。
すると獣の様子が先ほどまでと一変した。
瘴気は獣自身の体の近くに収束したが、動かなかった先ほどまでとは打って変わり、グラントのいる方向にめがけて突進してきたのだ。
「避けろ!」
かなりとっさのことにグラントは面食らっていたが、ひるまず隊に指示を出す。グラントは特有の指示方法を持っており、声と同時に腰の銅を二度鳴らした。
これはグラントが帝国時代に覚えた隊の指揮方法でとっさの攻撃や不意を突かれた時に音に合わせて陣形を変えていく手法だった。
これにより硬直していた部隊は即座に動きを変えて獣の突進方向から避けるように右にそれる。
「さっきとはまるで別だな。」
レンドは興味深そうに見ているだけで特に動きはしなかった。
獣は避けられてもなお、方向を変えてグラント達に突進する。
獣の動きは素早く、今度は避けられずに隊の前衛が獣の突進を食らって、ばらけた。
何人かの部下が獣を止めようと、剣で襲いかかって、獣の動きを止める。
しかし獣は口を開けると三つある目の二つを閉じ、グラントめがけて口から光線をはなった。
突然の光線にグラント自身はほぼかわすことができなかったが、とっさにグラントの近くを固めていた部下の数名が盾を使ってグラントをかばった。
盾のおかげで光線の軌道がわずかにそれ、グラントには当たらなかったが、銅製の盾は完全に溶け堕ち、とっさにかばった傭兵のひとりの頭から上半身の斜め半分も完全に無くなっていた。
獣は稲妻をずらされたが、なおも突進を続けて、グラントに向かっていき、部下をなぎ倒してグラントの下へたどり着くと牙をグラントの鎧に突き立てた。
グラント自身も剣で牙をはじこうとするが、弾ききれず牙がグラントの鎧を突き通りグラントの右の大腿部に突き刺さる。
部下の兵士は獣をグラント引きはがそうと必死で剣や槍で引きはがそうとするが、獣はグラントの足にかみついたまま暴れてなかなか離れそうになかった。
「死んじゃうよグラント。」
リコは心配そうにグラントの様子を見つめている。
レンドはめんどくさそうな顔をしていたが、
「奴がいなくなるほうが話が複雑になりかねないな。」
と言って、先ほどの銃を構えると、メモを見ながら右についているつまみを瞬時に調整する。
「賭けだが、やらないよりはましだ。」
というと空中に向かって引き金を引いた。
耳をつんざくような轟音が鳴り響くと、獣は一瞬止まり、まるで動かなくなった。
暴れていたことで、なかなかグラントから獣を引きはがせなかった傭兵たちだったが、
動きが止まったことでなんとか獣をグラントから引きはがした。
グラントは出血が多く、もうほぼ意識がなかった。
それをみたグラントの部下は全体に銅の音で撤退を促す。
グラントの傭兵軍団が一斉に引き上げていくのをレンドとリコは冷静に見つめていた。
「さっき何をしたの?」
とリコは耳を抑えながら聞く、とっさの轟音によってリコは耳を少し痛めていた。
「これは空砲の時は出す音を調整できる。」
レンドは二つの鉄塊からできた銃を見ながら答える。
「あのうるさいの?」
「そうだ。」
「鐘の音に似てたね。」
とリコが言うとレンドは少し驚いた顔をした。
「おまえ、意外と耳が良いんだな。」
「じゃあやっぱりあれは鐘と一緒なんだ。」
「奴の様子がかわったきっかけは鐘の音だったからな。仮説ではあったが。」
獣はグラント達が引き上げる間は攻撃は一切せず、レンド達と、時計塔のある方角を見つめていた。
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登場人物紹介

少女:リコ

小太りの男:カルケル

入れ墨の男:レンド

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