第26話 方針決め

文字数 2,133文字

長は愉快そうに答える。
「当然の疑問だ。だがそれには少し経緯の説明がいる。奴らの裏に人がいることは当然10年前奴らが出てきたときに気づいた。ほかの獣とは明らかに生態が違うからな。
お前らは俺がやつらの死骸を集めていることは知っているだろう」
長は狩の終わりに定期的に表れては死骸をいくつかもらっているらしかった。
伝承型は死ぬと死骸が完全な形で残らず大半は崩れ落ちてしまうため、長は各地を回ったり、
時には銀の爪に死骸の中で残っている組織を届けさせたりもしていた。
皆はそれを少し気持ち悪がりつつも、長の性格を把握していたので特に何も思わなかった。
「奴らの死骸でかなり興味深いのが、伝承型はいくつかの動物のパーツが組み合わさった構造になっているということだ。腕は熊でもその背中の骨格は馬に近いといったようにね。ここからどんな推測が成り立つ?ゴルド?」
ゴルドが答える。
「伝承型、と言われている動物はいくつかの動物を組み合わせて作られていると?」
長はうなずき、今度は質問を投げかける。
「他にお前らが気付いていることを挙げてみろ。イザベラ」
二人組の女の方が答える。
「伝承型が出る地域に、獣が出る数週間前にその地域の住人じゃない人間…獣の専門家を名乗ってる人が訪れるって話は聞いたことがあるわ。でもその手の目撃情報が出るのは決まって…黒の伝承型の時だったはず。そうでしょ?セイリス」
女に促され、二人組の男の方が答える
「ええ、お嬢様。しかも範囲はリーブ地区から東にかかる半径30キロほどのエリアに限定されます。ですよねゴルド」
リーブ地区周辺にはゴルドの息のかかった部下が大勢いることは銀の爪の間では周知の事実だった。
「ああ、だがそこの地区の黒を狩りつくしたのはグルイン、君だったはずだ」
グルインは表情を変えない。
「食べ応えがあったな…確かにそこの地区は。他の伝承型と比べても…だが奴らには妙な共通点があった」
ここでレンドが反応する
「なんだその共通点って」
グルインはまるでその時の戦いの思い出に浸るようにぼうっとした顔になる。
「奴らは手を出してこない。俺たちが手を出すまではな」
「一匹残らずか?」
「リーブ地区で上物だった獣は残らずだ」
レンドが一連の情報をまとめる。
「共通の性質、黒、目撃者、地域、指し示しているのは一人の人間が害獣を作り出してるってことか」
長は満足したようにうなずた。
「ようやくお前らに伝えれてうれしく思うよ。確定するまでは伝えるつもりはなかったからな」
サラが尋ねる。
「どうしてです?」
「俺の教えを忘れたか?一度に考えるのは一つまで、だ特に命がかかるときはな
確定していない情報でお前らの判断を鈍らせるわけにはいかない」
「製作者のことがよぎると私たちの狩りに影響すると?」
長はサラの質問に逆に質問で返す。
「たとえば、獣と戦ってる間に製作者が逃げるとする、お前らならここでどうする?」
イザベラが反応する。
「どうって…」
長はその逡巡を見逃さずにイザベラを指さした。
「そう、今お前は迷っただろう。その一瞬の隙で獣にやられる確率はぐんと上がる」
レンドは長がこのタイミングでその情報を明かした意図を考えていた。
「じゃあ今日それを俺らに言ったってことは…」
長が先を続ける。
「そう、今後は通常の獣狩りと同時にこの任務を全員に課す。製作者の素性をつかんで来い」
サラが考え込む。
「おっしゃったとおり、獣の狩りと製作者の情報が二者択一の時は?」
長が答える。
「当然の疑問だ。ここも厳格に決まりを作る。お前たちが戦場で迷わんような」
「決まり・・・ですか」
「そうだ。製作者の情報集めは、本格的な戦闘の前に限定しろ。仕留めに行くその前に、調査の報告をいつものようにまとめておくんだ、そして戦闘中は製作者がいても、追うな。一切無視してもらう…かその時動ける誰かに任せるんだ」
サラは難しい表情をした。
「なかなか厳しい条件ですね」
「できない連中であれば、こういう指示は出さない。お前らはもう十分いろんなことに線引きができるはずだ。イザベラが少し心配だが、まあお前にはセイリスがいる」
言われてイザベラは面白くなさそうな顔を浮かべる。長はそれをほほえましく見つめながら、
うなずき、そのあと全員を解散させた。
リーブ地区からかなり離れた地域ということで、完全な条件に当てはまっているわけではないが
今回の獣が黒でかつ、攻撃を自分から仕掛けない等の条件に当てはまっていることから、レンドはかなり最初の方から、製作者の影を追っていた。
そしてようやく、直接的につながっていそうな人間にたどり着いたのであった。
一連の説明をきいて、リコが口を開く。
「製作者が彼とつながっていると?」
「ほぼ確実だろうな。奴はそれを言う気はないだろうが、何か知っているのは間違いない。」
リコは単純な疑問を口にする。
「どうして獣の肩を持つんだろう」
「大方、飼っていた犬に情が移っているというのが思いつくところだろうな。害獣になっても、昔かわいがった獣への愛情は残ることもある」
「それでこの後はどうするの?」
「おそらく、奴はいずれグラント達に見つかる。俺は奴がグラント達に何を言うか少し興味がある」
そういうとレンドは宿の自分の部屋に入っていってしまった。

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登場人物紹介

少女:リコ

小太りの男:カルケル

入れ墨の男:レンド

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