第60話 召使

文字数 1,951文字

クレアが囚われてからおよそ半日が経とうとしていた。
サルドは特にクレアがその時持っていた手記をとりあげなかったので彼女ほ手記のほぼ全ての内容を読みきってしまった。
これがあの口下手なリクードの手記かというほど気持ちや感じだ事などが雄弁にかたられていたのでクレアは少し驚いた。
だか、途中から彼はどうにかして移住者の助けになりたいという思いが強く見えると、やはりリクードだなという感じもしていた。
彼ら親子は口には出さないが故郷を愛しており、仕事にしろ生活も常に周りの皆の事を考え、その助けになるように行動していたところを彼女は見ていたし、口数少なく、自分のやるべきことを淡々とする。そんな所に彼女はひかれたのだった。
でもどうしても彼女は彼自身が生きる事や自分とともにあることを優先して欲しかったと思わずにはいられなかった。
移住者のためになることは大事だがそのために彼が犠牲になることなど彼女は望んでいなかった。
そしてもう一つ、例の持ち出してきたお守りをクレアはサルドに気づかれることなく持ち続けていた。手記を一通り読んだ後、クレアはそのお守りの中身を広げてみると中からは一つの指輪が出てきた。
クレアはなぜかこれに見覚えがあった。
だがそれは彼女の家にまつわるものではなく、リクードの家の物だった。
二人がまだイパルにいて付き合って少しした後の事、リクードの母が病で亡くなった時の事である。
リクードの母はとてもやさしい人でクレアもよくなついていた。そんな彼女が死ぬ前に最後にリクードに預けたのがこの指輪だった。もともとはリクードの父が彼女に渡したものだが、彼女はそれをお守りの中に入れて大切に持ち続けていたのである。
リクードの母はそれをいつか大切な人に渡してほしいとリクードに渡していたのだ。
クレアはそれを握りしめた。
夜になると召使いがクレアの元に夕食を運んできた。
召使いは最初にクレアに部屋を案内した人で無愛想なのは変わらなかったが、夕食を出されたクレアがありがとうと声をかけると後ろ姿のまま立ち止まった。
「どうしてですか?」
クレアは少し驚いて尋ね返した。
「何のこと?」
召使は振り向くと起こった表情でクレアの折まで近づく。
「どうして、こんなバカなことを?あなたは玉の輿に乗れて将来安泰になったのに、なんでわざわざ地下室なんて…」
クレアは何となく召使が不愛想だった理由を悟った。彼女からすればクレアは女であることを利用して領主に取り入った女でしかなかったのである。
みればその召使はクレアとほぼ同年代の女性だった。
「私の目的ははじめからここに来ることだったからよ。彼と結婚なんてするつもりはなかったけど、ここに来れる可能性があるなら、やってみようと思った」
召使は少し驚いた。
「どうして?ここに何があるっていうの?」
クレアは手記を手渡す。
「ここに私の愛した人が捕まっていた可能性があったの。わたしはどうしてもそれを確かめたかった」
召使は受け取ると、納得した表情をした。
「ここには領主様もサルド様も基本的には私達をあまり近づけなかった…でも食事を運ぶ時だけ交代で食事を届けていたの。領主様は罪人とか、ひどい神様に取りつかれているからあまり近づくなって、そう言っていたわ」
クレアはため息をつきながら訪ねる。
「私のことも?」
「あなたのことは地下室を無断で入ったからとだけ言っていたわ…」
召使と少し打ち解けられたと感じたのでクレアは続けて尋ねる。
「ねえ、3年前ここに男の人が入れられていなかった?その人が私の愛する人かもしれないの…」
召使は少し迷っていたがクレアのあまりに必死な様子に押され少しだけ話し出した。
「3年前には確かにここに何人かが牢屋に入っていたわ。あなたと同じくらいの世代の男の人もいたと思う…」
クレアは興奮何とか抑えながら聞いた。
「3年前にいた人の中におじさんはいなかった?50歳くらいの」
召使はうなずいた。
「いつも詩を歌っていたわ。気味が悪くてみんな怖がっていたけど」
クレアは納得してうなずいた。
――やはりここにベルさんとリクードは連れてこられていたのね。
クレアはふと召使の言葉が気になっていた。
「何人かって、今の二人以外にもいたの?」
召使はうなずいた。
「たしかそのころ、小さい子供もいたと思うわ。いつも帰りたい…って泣いていた。」
召使は悲しそうな顔をする。
彼女たちもどこかおかしいと思いつつ、それを誰にも言えなかったのだろう。
クレアはもっとも聞きたかったことを聞いてみる。
「その人たちはどうなったの?」
召使は言ってもいいのか戸惑っていた。彼女の基準から言えばもう十分話過ぎの領域だったのだろう。だが恐る恐る彼女は話し出した。
「あの時、確か外から人が来て、その人たちに連れていかれた。って他の女中から聞いたわ」

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登場人物紹介

少女:リコ

小太りの男:カルケル

入れ墨の男:レンド

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