第37話 リクソスの伝承

文字数 2,661文字

ベルグール率いる討伐隊の敗北から1日後、グラントはピントを問い詰めていた。
「お前は知っていたはずだ」
ピントは反論する
「何をですか?」
「あれはただの心臓部じゃないと。」
ピントは必至に答える。
「本当にしらなかったんだ、おれはただあの人の言うことをそのまま行っただけです」
グラントは鼻で笑う。
「ふん、そんなことが信じられるか。」
「心臓はあったじゃないか、嘘なんてわざわざつかないさ」
ピントの反論は合っている部分もあったため、グラントは少し黙る。
「適度な真実の混在…」
グラントのつぶやきにレイルが反応する。
「なんです?それ。」
「相手に自分の行動を信じさせたいときにやる手法だ。」
ピントはそれを聞いて少し苦い顔をする。
「問題はそれがすべてお前のでたらめなのか、それとも、お前の言うほかの人間が仕組んでいるのか、というところだ、そいつはどこにいるか教えてもらおう。」
ピントは少しうつむいて答える。
「その人はもうこの街にはいないよ。」
「当然だろう、だが…どこに行ったか聞いているんだろう?」
ピントは彼と最後にあった時の事を思い出す。
クンクラの森で彼はピントと二人で寝転がる獣を見ていた。
「こんなに大きくなるんですね」
ピントが話しかけると彼はうなずいた。
「そうだな。俺も初めての試みだったけど何とか安定した」
獣はゆっくりと二人をみて、また眼を閉じた。
「これからどうするんですか?」
彼はこの地区ではあまり見たことのない黒い服を着ていた
そしてピントの問いにどこか爽快に答える。
「ここでの俺の役割はおそらくもうおわった。次の所に行くだけだよ」
ピントは興味本位で聞いてみた。
「次の所?」
「そう。もともとは帝国領を回る予定だったんだ。せめてもの罪滅ぼしというか。そんなところかな」
ピントは彼が悲しそうな表情を浮かべていることに気づいたが、それ以上は聞かなかった。
ピントは今の記憶を踏まえてグラントに行き先を伝える。
「帝国領に行くって彼はそういってた」
グラントは残念そうな表情を浮かべる。
帝国領になった国は過半数を占め、リクソスの周りにもいくつかの帝国領がある。
ある国が帝国領となるとそれは国から帝国の一地区へと変化する。
グラントは今からそれをすべて回って、ピントの言う人間を見つけるのはかなり厳しいと感じていた。
一方レンドはリコを連れて酒場にやってきていた。
酒場について座るとレンドはリコに質問をし始める。
「お前の力を使う必要が出てきた」
「何が知りたいの?」
「この街の伝承についてだ」
「リクソスの街の伝承についてね」
リコは目を閉じる。
記録師と呼ばれる人々は皆、一つの記録を共有している。
だが、それは書面でどこかに格納されて管理されている類のものではない。
だが彼らが記憶したり、新たに得た知識はある一つの場所にすべて格納される。
それは『叡智の記録』と呼ばれていた。
記録師は、1人前になると背中に入れ墨を刻まれる。そしてその後彼らは叡智の記録へとつながることができるようになるのだ。
つながっているとき、リコはまるで図書館で本を探しているようなそんな気分になる。
実際彼女は他の地区で、本が集められている図書館と呼ばれる場所に行ったことがあったが
『叡智の記録』とつながっている時と似たような気分になった。
『叡智の記録』に対して記録師は、様々な処理を行うことが許されているが、
リコはまだ記録師としての位が高くないので新たな記録の『登録』と限られた記録への『参照』のみが許されていた。そして今、リコは『参照』を実行しようとしていた。
イメージの中で『叡智の記録』へと自分を直結させる。そしてリクソスと書かれた本を見つけると、それを開いてみる。
本は伝承や儀式などのカテゴリーに分かれてまとまっていた。
「リクソスの街に目立った伝承は少ないのね。でも土地の神様への信仰にまつわるものが多いみたい」
「土地の神?それはどんな姿をしている。」
「明確な姿についての記述は特にないみたい。ただクンクラの森に神はいるとされていて、だから5年に一度土地の神に生贄をささげる儀式があるらしいわ」
「生贄か、それは動物?もしくは…」
「人間とされているわね。リクソスには巫女の一族がいて、基準に従って生贄を選ぶらしいわ」
リコの言い回しがひっかかったレンドがそれについて尋ねる。
「基準?」
「そう、諸説あるのだけど始まりは街や地域の繁栄を妨げてしまう人を巫女が予見してその人を生贄として選ぶらしいわ」
「繁栄を妨げる…ね、かなり特殊な選び方だ。無垢な魂をささげるというのは聞いたことがあるが…」
レンドは何か考え込むような表情を浮かべた。
「リクソスの街には雷にかかわる伝承や言い伝えはないのか?」
リコは探してみるがあまりそれらしきものは見つからない。
「うん、ここら辺一帯には雷にかかわるものは特にないみたい、自然についての記述の中にも雷については書かれていないわ」
「そうか…」
二人が話していると、後ろからクレアが飲み物を運んでくる。
彼女は二人が一緒にいるのを珍しがって話しかけた。
「知らない間にずいぶん仲良くなったのね。」
レンドはそっけなく返す。
「仲良くなったわけじゃない。仕事上こいつが使えるだけだ」
「獣狩りって、こんな小さい女の子が必要なの?」
クレアの皮肉をレンドは笑っていなしていた。
「この子にひどいことしたら承知しないからね」
とクレアはレンドに言って、リコにウインクする。
以前あった時よりクレアが元気そうだったのでリコは少し安心していた。
席を離れようとするクレアにレンドが質問をする。
「お前に一つ聞きたいことがある。」
クレアは突然の事に少し身構える。
「何?」
「この街には移住者がいる。と聞いたことがある。移住者の事情に詳しい奴はいるか?」
それを聞かれるとクレアは少し悲しい顔を浮かべる。
「それなら私が、それにあたると思うけど」
レンドは納得したようにうなずく。
「移住者は皆同じ街から?」
「ええリクソスに来ている人はみんな、イパルという街に住んでいた人たちよ」
「イパル…聞いたことがある。カリヤの国にあったんじゃないか?」
「ええ、でもカリヤは今はほとんど帝国領よ」
クレアの言葉にレンドはうなずく。
「そうだな…もう一つだけ、イパルの街に雷にかかわる伝承や言い伝えはないか?」
「そう言うことなら多分私よりもっと詳しい人がいるわ」
そういうとクレアはレンドにある人の名前とその場所を教えた。
レンドとリコは酒場を出ると、街のはずれまで向かった。
そこに唯一ある家を二人が尋ねると、中からオレガノが出てきた。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

少女:リコ

小太りの男:カルケル

入れ墨の男:レンド

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み