第13話 祭りの約束

文字数 1,807文字

「なんであなたがリクードとのことを知ってるの?」
サルドはゆったりとこたえる。
「彼の父、カルムは街の大鐘楼の補修をしてくれていてね。私の父ともとても仲がいいんだ。
自慢していたよ。最近息子にきれいな彼女ができたとね。」
嘘だ。とクレアは思った。リクードの父カルムは彼に似てあまりしゃべらない。
趣味の絵や工作をしている時は嬉しそうに作業をしているが、普段よく会うクレアでさえ、少し話をしてくれるようになったのは最近だった。
「全くサルドさんに自慢するなんて。」
母はカルムのことをよく知らないのか、サルドのいう事を信じている様子だった。
「嘘よ、リクードのパパがそんなこと言うはずない…。」
サルドは気にせず続ける。
「私たちの間には父の代からの特別な付き合いがあってね…彼も君みたいな子が息子と一緒に入れることが誇らしいんだろう。」
サルドの魂胆がみえないクレアはやり込められまいと必死で反論する。
「どのみちサルドさんには関係ないわ、私は知っての通りもう相手がいるから、サルドさんにはふさわしくないし。」
サルドは顎を触る。
「実はそのことで少々ご相談したいことがありましてね…。」
クレアの母が食いつく。
「あら、どうしたんですの?サルドさん」
「例年行われる祝祭ですが今年は特別な催しをする予定なんですよ。二方とも知っている通り、この街は他の地区から移り住んできた方が多い。帝国の政策でね。」
確かにリクソスには帝国の支配下に置かれた地区からの移住者が多かった。
その多くは帝国に住処を政策で奪われ、住み場所を変えざるを得なかった者たちで、
クレアたち親子も同様に、3、4年ほど前にここに移ってきたのである。
リクソスの街も帝国の支配下ではあったが、比較的土地が広く多くの民が移り住んでくるのには最適だった。
しかしサルドの話の本筋が見えないのでクレアは怪訝な表情をうかべていた。
「いつもはただの祭りですが、今年は大いに盛り上がることをして、移り住んできた地区の人にこのリクソスの街になじんでほしいのです。」
サルドは嬉しそうに話をつづけた。
「そこで今年はいつもの祭りの後に街の若者たちが参加できる踊りの催しをしたいのです。」
「それと私と何の関係が?」
クレアはうんざりしながら尋ねた
「クレアさんにはぜひ私と祭りに出ていただきたいのですよ、街の代表としてね。」
クレアはあまりのことに口がきけないでいたが、母親は飛び上がってよろこんだ。
「まあサルドさん、祭りにうちの娘とだなんて…こんなに素敵なことはないわ。もちろんうけるわよねクレア?」
「ちょっとママ何言ってるの?サルドさんも私の話をきいてなかったの?もう私には将来をきめた恋人がいるの。」
「もちろん!!そこは否定しません。しかし彼、リクード君には当日別の役目が与えられていましてね。きっとあなたと一緒にいる暇がないと思われるのですよ。」
「役目?彼は大工よ?祝祭当日にしなきゃいけない仕事なんてないはず…。」
サルドはこの一言に我が意を得たりといった表情を浮かべる。
「彼が来られないのであれば、この提案を断る理由はありませんよね?」
クレアはサルドの強引なやり方に疑問を投げかける。
「なぜそうまでして私と?」
「私たちはこの街の統合の象徴になれる。あなたも他の地区からの出身であることは皆が知っていますからね。そうすれば帝国の方々に私たちの街が目を付けられる心配も減ります。」
クレアは初めて彼の意図が見えたような気がした。
リクソスの村には移住者が多いが、移住者は皆住処を奪った帝国に不満を抱えているものが多く
帝国の反乱軍や、帝国の圧政に抵抗する新興宗教に入る者が後を絶たないのである。
そんな中で、移住者であるクレアが領主の息子と結ばれたということを帝国に見せれば、
リクソスは移住者が多いが、皆街にうまくなじんでおり、帝国に不満はないというアピールになるとサルドは考えているようだった。
だがその考えがわかっても、クレアは乗る気にはならなかった。
仮に乗ってしまえば、リクードを悲しませることは明白だったからである。
「どのみち私はあなたとは行かないわ。リクードが大変なら彼を手伝わなきゃ。」
そういうとクレアは逃げるように2階へ向かおうとした。
「あなたに手伝えるといいのですがね…」
サルドはバカにしたように笑いながらクレアに捨て台詞をはいた。
最後の言葉が気になってはいたが、クレアは2階に上がって仕事の準備を始めた。

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登場人物紹介

少女:リコ

小太りの男:カルケル

入れ墨の男:レンド

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