第71話 魂の声

文字数 2,992文字

「いけるか?」
グラントの問いかけにレンドはうなずきながら、三つの金属を瞬時に組み立てて重砲へと形状を変える。
「ああ、まずは心臓を犬に戻す。龍の意識を一瞬そらしてくれ」
そういうとレンドは龍の光線をかわしなかわら重砲に弾を装填した。
グラントはレンドとは違う方向に交わし、部下ににボウガンで龍を狙うように指示する。
龍にボウガンの矢が降り注ぐが、龍は一回転してそれを弾く。
そのタイミングで、レンドは龍めがけて振動弾を放った。
龍は一回転した分、一瞬避けるのが遅れ、尾の部分に振動弾が炸裂した。
龍は空中から地面に落ちて、振動に身を悶えさせていた。
それを見計らい、一斉にグラント達が剣とボウガンで龍を攻め立てる。
絶え間ない剣とボウガンの矢の嵐の中で龍は動くのをやめて瘴気を出し始めた。
レンドはそれを見ると、エルに重砲を向ける。
エルは凶暴な状態に戻っており、レンドに向かって突進してきた、レンドはそれを避けずに重砲をエルの口の中に突っ込む。
だがエルの牙の一つが抑えきれずにレンドの右足の足先を貫いた。
レンドは動じずに、逆に刺さった牙でエルを逃さないように固定して、振動弾を一発口の中に打ち込んだ。
撃ち込んだ衝撃で刺さっている牙が抜け、エルはその場に倒れここんだ。
レンドはグラントに指示を出す。
「龍を囲んだまま、犬にボウガンを打て!」
グラントも同じように指示を出し、いっせいにボウガンの弾がエルに降り注ぐ。
みんなレンドに当てぬよう、なるべくエルの胴体に照準を合わせていた。
エルは苦しみ悶えながら、龍の様子を見て、龍の周りに人が固まっているのをみると。龍に向かって光線を放った。
グラントの隊は避けたが光線は龍に当たり、瘴気が一気に龍から噴き出して、すぐさま収束した
グラントはそれを見て大声をだす。
「全員よけろ!!」
龍から黒い雷がグラントの隊とレンドに向かって放たれる。避けきれずに5人程かがやられる。
グラントは間一髪で交わしていたが、龍の攻撃に驚いていた。
――あの犬、龍にわざと攻撃して無理やり瘴気を出させやがった。
そしてエルはそれを見届けるとまた、動かなくなった。
その瞬間レンドは重砲を口から抜き空に向かって一発打った。
そして重砲を重剣にすぐさま切り替えると、ワンテンポおいてエルに銃剣を突き刺した。
しかし、エルからは瘴気が溢れ出している。
反対に動いていなかった龍が動き出しエルに集中しているレンドに狙いを定めて、光線をはなとうとしていた。
グラントは驚く。
――自殺行為だ。やけになったか…
だがその瞬間、鐘の音が丘に鳴り響いた。
鐘の音が続くと、何とエルから瘴気が消えた。
これに丘の上で見ていたリマは驚いて立ち上がった。
「まさか…」
そして次の瞬間エルの喉元に深く重剣がつきささった。
エルは金切り声をあげてうごめく。龍は光線を放つどころか、動かなくなっていた。
グラントは何が起きたのか、わかっていなかった。
――なんで犬の方が苦しんでるんだ。まさかあの音で?
街の鐘のところにはピントがいて鐘を鳴らしていた。
ピントもまたレンドに指示を受けていた。
「この音を聴いたら鐘の音を鳴らしてくれ」
レンドはピントとレイルには違う音を聞かせて、その音を区別できるようにしていた。
レイルの最初に合図に使われた音はかなり低音で、逆にピントに使っていた音はかなり高音だった。
鐘の音を鳴らし終わるとピントは泣きながらその場に崩れ落ちた。
「ごめんな、エル。許してくれ…」
一方のエルは必死にもがいていた。
エルの中の精神世界では獣の元になった全員が手を繋いでいた。
犬のはずのエルは黒い子供のような姿で、そして残りの人はみな獣になった時の姿そのままだった。
手をつないだままエルが痛みに苦しむ。
『痛い…』
リクードは心配そうにエルを気遣いながら状況を確認した。
『なんで、エルの体の中にもどったんだ』
メイもまたエルが心配そうだった。
『あの音を聴いてからだよ』
ベルが同意する。
『あの鐘を聞くといつもエルに戻っちまうんだよなぁ』
エルは苦しみ続けていた。
エル『いたい、逃げたい』
リクードはベルに周りを確認するように促す。
リクード『祠か龍に心臓を移せないか?』
ベル『だめだ、あの男長い槍を手放さない…』
祠では瘴気からレイルに向けて黒い雷が放たれ続けていた。
だが、そんなレイルを仲間たちが盾を構えて守っていた。
「てめえら、もういい死ぬぞ!」
レイルは仲間を気遣っていたが、人望が厚いレイルを部下はかばい続けた。
「いいからそれをはなすな!お前らレイルさんを守り抜け!」
「おう!!」
リクードが方針を決める
『龍に戻ろう、あと少し待てば移動できる』
エルは必死に悶えていたが、瞬間動かなくなった。
そしてまた龍の方が動き出す。グラントが叫ぶ。
「クソが、なぜ死なねえ!」
グラントが剣で龍に向かっていく。
一方でレンドはエルに刺した重剣の左の取っ手をひく。するとエルに刺さっている刃の横から銃口が出てきた。
「戻ってこい」
そう言うとレンドはエルに重砲を打った。
だが中身は空砲で鐘の音と同じ音が鳴り響く。するとまた龍は動きを止め、犬の方が動き出した。
メイが反応する。
『だめだ引き戻されちゃう』
エルはかなり痛みに苦しんでいた。
『いたい』
リクードは何とかエルを励ます
『大丈夫…俺たちはまだ死なないはずだ』
リマは注意をしながらこれを見ていたが
「まだだ。彼の構造を知らない限りは…」
とつぶやく。必死な表情に変わったのをみてルブーも心配そうな表情に変わった。
レンドは重剣を突き刺したまま、弾を装填して振動弾を横の銃で打ち込んだ。
「構造さえ分かればいいんだ…」
と言って、そして音が変わった瞬間を見極めると、一瞬重剣をエルから引き抜いて今度は胴体の下の部分に瞬時に突き刺した。
リクードの表情が変わる。エルとつないでいる手が痛むようで今にも手を離しそうだった。
『だめだ。つながりが切れる』
メイが叫ぶ。
『どうするの?リクード!エルちゃんが!』
ベルも心配そうに見つめる。
『どうすんだリクード』
だがリクードも万策尽きたようで何も答えられなかった。これにエルが反応した
『逃げて』
リクードは驚いてエルを見つめる。
『そんなこと…』
エルは真剣にリクードを見つめていた。
『逃げて、レイみたいにならないで』
『エル…』
エルは手をつなぐメイとリクードに合図をする
『いくよ。切り離すから、逃げて』
『エルだめだ!』
だがエルの魂は繋がっていたリクードとメイの手を離した。
レンド達と相対している黒い犬の姿のエルは動かなくなった。
そしてグラント達の方にいた龍もまた、地面に叩きつけられて動かなくなった。
グラントはつぶやく。
「やったのか…」
エルも龍もまた、完全に動かなかった。
レンドがつぶやく
「なんとかなったか…」
これを確認してグラント達の部下が雄叫びをあげる。
「うおおおおたおしたぞ〜!!!!」
戦況を見守っていた人々の間にもざわめきが広かった。
「倒したんだと…」
「さすが、銀の爪だ…すごかったぁ」
「グラント達もなかなかやるじゃないか」
領主はほっと一息ついた。
「まあ仕事はしてくれたようだ。ずいぶんと手こずっていたがさすがといったところか、
ほら帰った帰った…見物は終わりだよ皆!!」
そして領主達は死んだことを確かめるため、レンド達のいる丘の方に歩き出した。 
そして観衆達も領主に促されたように帰ろうとしたその時、丘にクレアが現れた。
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登場人物紹介

少女:リコ

小太りの男:カルケル

入れ墨の男:レンド

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