第77話 もう一人の製作者

文字数 2,273文字

帝国の上層部たちのいるラクルド地区のとある部屋に男が2人訪ねてきた。
男の名はクルーガとバリオスといい、帝国上層部の一員だった。
バリオスは40代後半で帝国上層部の平均年齢より少し若い程度だったが一方のクルーガは幹部の中ではかなり若く、その優秀さからバリオスとともにある任務に就いていた
そしてクルーガ達が尋ねた先の部屋にもまた、男が1人いた。その男こそ領主の部屋を訪れて会話し、メイを帝国の医師と偽って嘘の診察を行った張本人だった。
「入ってもいいか、ラビル」
ラビルと言われたその男は中でどうぞと返事をする。
「あなた方がくるということはリクソスの街について何か進展が?」
バリオスは嫌そうな顔で報告する。
「残念だが、リクソスの獣は銀の爪に狩られた。」
ラビルは持っていたノートをパタンと置いた。
「そうですか、さすが銀の爪というところなんでしょうね…。獣の遺体は?」 
バリオスはあまり言いたくなかったが先を続けた。
「それが、領主は回収に失敗したようだ、銀の爪がそのまま持ち去ったという話もある」
ラビルは呆れたようにため息をつく。
「なるほど、最悪の展開ですね」
そこからはクルーガが代わりに報告する。
「さらに悪いことに、街の民に我らと領主の契約が知れ渡ってしまったようです。どうしてそんなことになったのかいまいち掴めていないのですが…
ラビルはため息をついた。
「全く、だから容赦せず1番隊を使った方がいいといったのに…上層部は何て?」
クルーガは答える。
「由々しき自体だということで、しばらくリクソスとは関係を打ち切るそうです。あの領主が次点の選挙で交代になる可能性は高いらしく、状況は安定していません」
ラビルは呆れ返っていた。
「何度も言ったのに…ねぇクルーガさん」
クルーガは直接今回の作戦に携わっていたわけではないが伝達役として、ラビルからの提案を議会には伝えていた。
しかしバリオスの方はラビルの言うことは聞かないように議会に進言し、結果として議会は今回の件を甘くみて、かつ大事にさせたくないという判断から3番隊の投入という消極的な作戦に出た。その背景があるためバリオスの表情は芳しくなかった。
「どうするんです?僕は力を貸せない。」
クルーガは言った。
「帝国が処理するから問題ないとのことだそうで、あなたには引き続き研究を続けて欲しいそうです」
ラビルは笑った。
「全く良い気なもんだ。銀の爪はおそらく帝国が何をしているかについて確信を持ったでしょう
そうなると僕にたどり着くのも時間の問題だというのに…まあ自分の身は自分で守れるようにしておけということなのかもしれないですね」
バリオスはラビルの言い方に苛立っていた。
彼の言い方は全て当時の判断を誤ったバリオスへの当て付けだったからである
そんな2人の表情をクルーガは冷静に見ていた。
ラビルは獣の専門家として帝国に協力していたがあまりに直接的に物を言い過ぎるきらいがあった。バリオスが言い返す。
「それもこれも元はと言えばあんたがリマと仲違いをしたせいじゃないか、そのせいであんな獣が生まれてしまった」
ラビルは笑いながら言い返す。
「僕があの人と仲違いをした?笑わせないでください、帝国の人体の獣化計画に反対したあの人と1番対立していたのは他でもないバリオスさんじゃないですか。僕は一応説得はしましたが、彼の決意は固かった。それだけのことです」
バリオスは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。ラビルは続ける。
「にしても認めたくはないがあの人はやはり脅威だ。伝承型の体に拡大型を結合させるなど、おそらく今の僕にできるかどうか…あの人がいなくなった損失は計画にだいぶ遅れを生じさせてるんですよ?それでもあなたはまだ私をせめるんですか?」
バリオスの堪忍袋の緒が切れる。
「この、言わせておけば!」
だがラビルは慌てない。
「私に手を出したら、今度こそただでは済みません。あなたが生きていられているのは報告内容を改竄しているからだというくらいすぐにわかるんですよ?それを咎めない私にもっと感謝してください」
ここでクルーガが割って入った。
「充分です。バリオスさん、ここは私に任せてくれませんか、すぐ終わりますから」
バリオスはクルーガに止められると、その手を振り払い。一旦外に出た。
それを確認するとクルーガは呆れたようにラビルに話しかけた。
「全く長生きしませんよ。ラビルさんは」
「たいして使えないのに自分を棚にあげる口の旨い人間ばかり組織の中では出世する…。僕はそんな人間が嫌いなだけですよ」
クルーガはラビルのそういう部分に少し好感を持っていた。ラビルもまたクルーガが常に冷静で優秀であることを知っていたのでクルーガに対しては好意的だった。
クルーガが尋ねる。
「例の計画の進行度合いはどうです?」
ラビルはクルーガがバリオスを外に追いやった本当の目的はこれを聞くことだと知っていたので
うなずいて答える。
「ぼちぼちですね、ですがやはりいくつか他の実験体が必要になりそうです。調達は可能ですか?」
クルーガはうなずく。
「手配しましょう」
ラビルは諦めたような口調で尋ねる。
「銀の爪にはやはり何もしないのですか?」
クルーガは少し考えて答える。
「上は彼らを監視するための特設部隊を作るそうです。だが彼らは特殊だ。私たちのような組織とはそもそもの作りが違う…。部隊を作ったとしてもうまく立ち回れるかどうかは未知数ですね」
クルーガはその後少しラビルと話すと、バリオスと供にラビルの館を後にした。
二人がいなくなった後でラビルは死んでしまった龍について少し思いをはせた。
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登場人物紹介

少女:リコ

小太りの男:カルケル

入れ墨の男:レンド

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