第3話 いかなる手段を講じても

文字数 1,657文字

アダム・ナイペルクは、勇敢な軍人だった。彼の右目は、オランダでの戦闘で失われたものだ。


その豪胆さを見込んで、皇帝は彼を、皇女マリー・ルイーゼの護衛官に任じた。


[オーストリア皇帝フランツ]


(親書)


「わが娘マリー・ルイーゼを監視し、細かな言動に至るまで報告せよ。ナポレオンと接触させてはならない。その為なら、いかなる手段 を講じてもかまわない」

いかなる手段

いかなる手段、って……まさかな。



シュヴァルツェンベルク将軍(上官)! これ……この、いかなる手段って……?


ブログ「シュヴァルツェンベルク大使」

[ナイペルクの上官、シュヴァルツェンベルク将軍]


いかなる手段っつったら、アレだろ? うわお! 俺はお前がうらやましいぜ、ナイペルク!

はあ。

だが、うーん。

我らが皇帝は謹厳な方だ。そのようなフラチな許可を、臣下であるお前に与えるわけがない!

そうですよね!
だが、いかなる手段だろ? いかなる手段ったら、アレしかないもんなあ……。


あ、メッテルニヒ外相! これ! 皇帝からの親書なんですけど、どう思います?

[オーストリア外相メッテルニヒ]


なに、皇帝からの親書?


(受け取り、読む)

ふむふむ、いくら夫婦だといっても、マリー・ルイーゼ(皇女)様をナポレオンと接触させたらいけないよな。その為には……、

うっわ! エッロ!

やっぱりそうですよね! つか、それしかないですよね!

やったな、ナイペルク! 皇女様とやり放題 皇女様のお気持ちを、なんとかナポレオンからそらすのが、お前の任務だ!

はあ……。
なんだ? 彼女はお前のタイプじゃないのか?

そりゃ、ナポレオンの妻だもんなあ。ヘンなクセとかつけられてたらだもんな……。

だが、皇女様だぜ? 皇帝の娘だ!

どちらかというと、私は、小柄なイタリア系の美女が……、
君の好みは関係ない。

これは、皇帝命令だ。軍の最高司令官は、皇帝だ。軍人として、お前は、皇帝命令には、逆らうことはできない。

はいっ!
さては、自信がないのだな? 相手がナポレオンの妻では、さしものレディーキラーも、臆することがあるのだな。
まさか!

レディーキラーの異名は、ダテじゃありません! 私が本気になったら、彼女は半年以内に落ちます! 賭けてもいい!

さすがナイペルク! わがオーストリア軍の勇者だ!
期待しているよ、ナイペルク!
はい!


(傍白)

せっかく夫から奪った伯爵夫人をどうすっかなあ……。彼女には、俺の息子を、4人も産ませちゃったんだよなあ。


だが、俺は、忠実な帝国軍人だ。任務は誠実に実行する。彼女とは、別れるしかない!


連日、子どもを放り出して、ナイペルクと親密に過ごす元フランス皇妃(マリー・ルイーゼ)に、たまりかねたフランス人女官が、苦言を呈した。モンテスキュー伯爵夫人だ。


彼女は、ナポレオンが選んだ、フランツの養育係の女官長で、ママ・キューと呼ばれていた。フランツは、母親よりも、彼女の方に懐いていた。



ブログ「モンテスキュー伯爵夫人」

モンテスキュー伯爵夫人なんて、大嫌いよ!
だって、いつだって、私のすることに文句をつけて。私が、フランツと過ごす時間が短すぎるって言うのよ、あの人!
モンテベッロ公爵夫人とも、仲良くし過ぎるって言うし。あんまりぐちぐち言うから、彼女、居たたまれなくなって、フランスへ帰っちゃったじゃない! 私の仲良しだったのに!


母親になったら、お友達と仲良くしたら、いけないの? 子どもべったりでいなきゃ、いけないっていうの? 



ブログ「モンテベッロ公爵夫人」

今だって、ナイペルクといる時間が長すぎるって!

私には、彼が必要なのよ!


私はナポレオンの妻だったのよ? ウィーンの敵だったの! この宮廷で、誰が私の味方になってくれるというの? ナイペルクの他に!

それなのに、フランツは、彼女にばかり懐いているのよ。


あの人(ナポレオン)も、彼女を信頼していたわ……。どんなに私が、彼女の無礼な態度を訴えても、決して、聞き容れてくれなかった!

何が、ママ・キューよっ!

モンテスキュー伯爵夫人なんて、大っ嫌い

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登場人物紹介

フランツ(フランソワ)


ナポレオンとオーストリア皇女、マリー・ルイーゼの息子。父の没落に伴い、ウィーンのハプスブルク宮廷で育てられる。


無位無官のただの「フランツ君」だったのだが、7歳の時、祖父の皇帝より、「ライヒシュタット公」の称号を授けられる。

ディートリヒシュタイン伯爵


フランツにつけられた、コワモテ家庭教師。家庭教師は他に、フォレスチコリンがいる。

オーストリア皇帝フランツ


フランツの祖父。なお、「フランツ」の名前は、ナポレオンが、この祖父から貰った。

マリー・ルイーゼ


フランツの母。ナポレオンと結婚したご褒美に、ウィーン会議の時、パルマに領土を貰う。

片目の将軍(後パルマ執政官)ナイペルクと、絶賛恋愛中。

ナイペルク


皇帝がマリー・ルイーゼにつけた護衛官。後、パルマ執政官。家庭教師のディートリヒシュタインとは古い友人。

ナポレオン


エルバ島に封じられてから、百日天下を経て、セント・ヘレナ島で亡くなるまでの時代設定です。

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