第7話 フランツ VS 先生方①

エピソード文字数 1,533文字


幼いフランツの夜伽は、当面、フォレスチ先生の仕事だった。フランツに何かあったらすぐ駆け付けられるように、フォレスチは、続きの部屋で寝る。


フォレスチ先生。フォレスチ先生。
(やってくる)

なんだね、フランツ君。

(囁く)

プリゾナー(囚人)・ローローが!
プリゾナー・ローローだって!


[傍白]

大変だ! ナポレオンの手下が、プリンスをさらいにきたのかもしれない!


(慌てて、窓に近づき、カーテンを開けて確かめる)

大丈夫だ。誰もいない。

(ひそひそ)

でも、そこ、ほら、戸棚の陰に……。
戸棚の陰!?(覗く)


誰もいないぞ。(ほっ)

あれ。さっきまでいたんだよ。戸棚の陰から、僕に、あかんべえをした。
[傍白]

なるほど。プリンスは、お化けが怖いんだな。まだ子どもだ。かわいいじゃないか……。


(フランツに)

誰もいないよ。

先生は隣の部屋にいるから、安心して眠りなさい。

はい、先生。
10分後。
先生。先生!
今度は何だね、フランツ君。
カーテンの陰から、プリゾナー・ローローがこっちを見てる!
さっきは、誰もいなかったぞ?
でも、見てる! ほら!
わかったわかった。


(カーテンのそばまで行き、重いカーテンを持ち上げて見せる)

ほら。誰もいないだろう?

あれ、おかしいなあ。

ちゃんといたのに。

大丈夫、大丈夫だよ、フランツ君。

もう寝なさい。

ふわぁ(あくび)

はい、先生。おやすみなさい。


またまた数十分後。


先生! フォレスチ先生!!
あ? ああ……(涎をぬぐう。寝落ちていた)
プリゾナー・ローローがっ!
だから、誰もいない、って!
ベッドの下に!
ああっ!?


[傍白]

怒っちゃいけない……怒っちゃいけないぞ。プリンスはまだ、子どもなんだ。お母さまもいなくなられて、きっと、お寂しいんだ……。


(腹ばいになって、ベッドの下を覗く)

大丈夫だ。誰もいない。

へっくしょん!(埃でくしゃみをする)

わかりました。

おやすみなさい。


一晩中、これを続け、睡眠不足でフォレスチは、へろへろになってしまった。


[話を聞いたディートリヒシュタイン先生]


それは、ご苦労だったな、フォレスチ君。だが君は、プリンスのお楽しみにつきあわされたのだ。

はあ……。
よろしい。今夜は、私が夜伽をしよう。


   その晩。


…………。
…………。


プリゾナー・ローローは出なかった。

かたぶつのディートリヒシュタインの権威に、恐れをなしたのだろう。


(授業中)

あー、ドイツ語の動詞では、分離動詞というものがあって……。
(無視!)


(椅子の背をよじ登り始める)

動詞の本体は文の2番目に、分離前綴りは文の最後に置かれ……、


何をしている! 危ないじゃないか!


間一髪、椅子から滑り落ちたフランツを、フォレスチ先生は受け止めた。

ふう、危なかった。

そのような一時のお楽しみが、将来、どんな影響を及ぼすか、この際、考えてみるのも悪くないな。


(抱き上げて、部屋の隅へ連れていく)


そこで、しばらく立ってなさい。

何をする! 僕に触るなんて!

(怒って喚きたてる)

いいから、そこで頭を冷やしなさい。
先生なんて、嫌いだ! お祖父さまに言いつけてやる! そして、鎖に繋いでもらうんだ!

皇帝は、そんなことはなさらないよ。

そしたら僕は、イタリア軍を引き連れて、お祖父さまと戦うから!
ほうほう。
ぎいいいいいっ!

これは、カードゲームの話じゃないぞ!

なるほど。おとなになったらね。
なら、なら、今すぐ僕はパルマに手紙を書いて、お母さまに、先生のこと、言いつけてやる!!
どうやって書くんだい?

フランツ君、君は、私の助けがなければ、ドイツ語どころかフランス語だって、満足に書けないじゃないか。

書けるっ! 

先生の助けなんかいらないんだから! 

僕にはできないことなんてないんだ! 

今すぐママに手紙を書いて、先生を困らせてやるからな!!

はいはい。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

フランツ(フランソワ)


ナポレオンとオーストリア皇女、マリー・ルイーゼの息子。父の没落に伴い、ウィーンのハプスブルク宮廷で育てられる。


無位無官のただの「フランツ君」だったのだが、7歳の時、祖父の皇帝より、「ライヒシュタット公」の称号を授けられる。

ディートリヒシュタイン伯爵


フランツにつけられた、コワモテ家庭教師。家庭教師は他に、フォレスチコリンがいる。

オーストリア皇帝フランツ


フランツの祖父。なお、「フランツ」の名前は、ナポレオンが、この祖父から貰った。

マリー・ルイーゼ


フランツの母。ナポレオンと結婚したご褒美に、ウィーン会議の時、パルマに領土を貰う。

片目の将軍(後パルマ執政官)ナイペルクと、絶賛恋愛中。

ナイペルク


皇帝がマリー・ルイーゼにつけた護衛官。後、パルマ執政官。家庭教師のディートリヒシュタインとは古い友人。

ナポレオン


エルバ島に封じられてから、百日天下を経て、セント・ヘレナ島で亡くなるまでの時代設定です。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色