第7話 フランツ VS 先生方①
文字数 1,533文字
幼いフランツの夜伽は、当面、フォレスチ先生の仕事だった。フランツに何かあったらすぐ駆け付けられるように、フォレスチは、続きの部屋で寝る。
プリゾナー・ローローだって!
[傍白]
大変だ! ナポレオンの手下が、プリンスをさらいにきたのかもしれない!
(慌てて、窓に近づき、カーテンを開けて確かめる)
大丈夫だ。誰もいない。
あれ。さっきまでいたんだよ。戸棚の陰から、僕に、あかんべえをした。
[傍白]
なるほど。プリンスは、お化けが怖いんだな。まだ子どもだ。かわいいじゃないか……。
(フランツに)
誰もいないよ。
先生は隣の部屋にいるから、安心して眠りなさい。
カーテンの陰から、プリゾナー・ローローがこっちを見てる!
わかったわかった。
(カーテンのそばまで行き、重いカーテンを持ち上げて見せる)
ほら。誰もいないだろう?
大丈夫、大丈夫だよ、フランツ君。
もう寝なさい。
ふわぁ(あくび)
ああっ!?
[傍白]
怒っちゃいけない……怒っちゃいけないぞ。プリンスはまだ、子どもなんだ。お母さまもいなくなられて、きっと、お寂しいんだ……。
(腹ばいになって、ベッドの下を覗く)
大丈夫だ。誰もいない。
へっくしょん!(埃でくしゃみをする)
一晩中、これを続け、睡眠不足でフォレスチは、へろへろになってしまった。
[話を聞いたディートリヒシュタイン先生]
それは、ご苦労だったな、フォレスチ君。だが君は、プリンスのお楽しみにつきあわされたのだ。
プリゾナー・ローローは出なかった。
かたぶつのディートリヒシュタインの権威に、恐れをなしたのだろう。
(授業中)
あー、ドイツ語の動詞では、分離動詞というものがあって……。
動詞の本体は文の2番目に、分離前綴りは文の最後に置かれ……、
何をしている! 危ないじゃないか!
間一髪、椅子から滑り落ちたフランツを、フォレスチ先生は受け止めた。
ふう、危なかった。
そのような一時のお楽しみが、将来、どんな影響を及ぼすか、この際、考えてみるのも悪くないな。
(抱き上げて、部屋の隅へ連れていく)
そこで、しばらく立ってなさい。
先生なんて、嫌いだ! お祖父さまに言いつけてやる! そして、鎖に繋いでもらうんだ!
そしたら僕は、イタリア軍を引き連れて、お祖父さまと戦うから!
ぎいいいいいっ!これは、カードゲームの話じゃないぞ!
なら、なら、今すぐ僕はパルマに手紙を書いて、お母さまに、先生のこと、言いつけてやる!!
どうやって書くんだい?
フランツ君、君は、私の助けがなければ、ドイツ語どころかフランス語だって、満足に書けないじゃないか。
書けるっ! 先生の助けなんかいらないんだから!
僕にはできないことなんてないんだ!
今すぐママに手紙を書いて、先生を困らせてやるからな!!
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