第29話 ナイペルクの苦悩

文字数 897文字


ナイペルクは、鬱屈していた。


マリー・ルイーゼ様は、いつも皇族方とご一緒だ。

私がその場へ呼ばれることは、決してない。

私に対する皇帝のご様子も、全く普通だ。

当たり前だ。

仮にも皇帝だぞ? 皇帝が、臣下に接しているのだ。


……俺は、何を期待していたのだろう。

でもそうすると、あの親書は?

[皇帝]


(親書)

(回想)


「いかなる手段を講じても……」

 

ああ!

俺は、何という、恐ろしい勘違いを!!

皇帝の「いかなる手段」という御言葉には、そういう意味(・・・・・・)はなかったのだ!

それを、俺は……、

(回想)


レディー・キラーの異名は、ダテじゃありません! 私が本気になったら、彼女は半年以内に落ちます! 賭けてもいい!


(回想終わり)

なんて恐ろしい……、罪深い……

そのせいで、息子達の母親は、死んだようなものだ!



※ナイペルクが夫から奪って、自分の息子4人を産ませた伯爵夫人は、彼がマリー・ルイーゼについてパルマへ出発する直前に亡くなっている。

もう手遅れだ。

彼女への償いは、もうできない。

だが、()には……。


髪を切ってより少年らしくなったフランツを、ナイペルクは、狩りに連れ出した。


おおっ! すごい音だ!

フランツ君、君は、銃声というものを初めて聞いたろ?

さぞや驚い……、

???


銃声にも、獲物の血にも、全く動じることのないフランツに、居合わせた人々は感心した。


(傍白)

せめてもの罪滅ぼしになっているだろうか。

このように、父親が我が子にしてやるようなことを、彼とともにすることが……。


この後、フランツが成長してからも、ナイペルクは、パルマから手紙などを通し、彼のよき相談相手となっている。


フランス語を学ぶ意欲の失せたフランツに、フランス語こそが(ナポレオン)の使った言葉だと再認識させ、学習意欲を高めさせたりもしている。


また、同じ年齢の自らの息子を、遊び相手として彼のそばに置き、兄らを連絡役とした。




なお、マリー・ルイーゼの滞在最後の方に、ベートーヴェンが、バーデンの城に招かれている。



小説「ナポレオン2世 ライヒシュタット公」3章「"第九"と"魔王"」所収「魂の飛翔について1」

小説のこの部分はフィクションです

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

フランツ(フランソワ)


ナポレオンとオーストリア皇女、マリー・ルイーゼの息子。父の没落に伴い、ウィーンのハプスブルク宮廷で育てられる。


無位無官のただの「フランツ君」だったのだが、7歳の時、祖父の皇帝より、「ライヒシュタット公」の称号を授けられる。

ディートリヒシュタイン伯爵


フランツにつけられた、コワモテ家庭教師。家庭教師は他に、フォレスチコリンがいる。

オーストリア皇帝フランツ


フランツの祖父。なお、「フランツ」の名前は、ナポレオンが、この祖父から貰った。

マリー・ルイーゼ


フランツの母。ナポレオンと結婚したご褒美に、ウィーン会議の時、パルマに領土を貰う。

片目の将軍(後パルマ執政官)ナイペルクと、絶賛恋愛中。

ナイペルク


皇帝がマリー・ルイーゼにつけた護衛官。後、パルマ執政官。家庭教師のディートリヒシュタインとは古い友人。

ナポレオン


エルバ島に封じられてから、百日天下を経て、セント・ヘレナ島で亡くなるまでの時代設定です。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色