第17話 フランソワ皇帝に馬を

文字数 729文字

[家庭教師のコリン先生]


フランツ君、注文していた君の馬が来たよ。

馬! 馬! わーい!
一緒に馬場へ見に行こう!
どうだい? かわいいだろ?
違う! これじゃない!
違う、って……。
僕は、パパみたいな、大きな馬が欲しいんだ!
パパ……(絶句)。


(傍白)

ナポレオンだ!

軍馬だ! 軍馬じゃなきゃ、ダメなんだ!

だって僕は、戦争に行くんだからね!

パパみたいに!

……。


(傍白)

ナポレオンのことは話してはいけない。今はまだ、その時ではない……。

僕のパパは、「フランソワ皇帝」に、馬をくれたんだ!


(遠くを見る目で)

その時パパがくれたのは、軍馬だった……。

(傍白)

3歳前の記憶だ! よく覚えているな!


(フランツに)

でも、フランツ君。戦争に行ったら、怪我をしたり、下手をすると、死んでしまうかもしれないんだよ?

大丈夫だよ! 兵士たちがいつも僕の前にいて、守ってくれるもん!
そうかな?
そうだよ!
いくら兵士が守ったって、戦死する王様だっているぞ。スコットランドのジェームズ4世とか、フランスのシャルル3世とか……。
(不安そう)

ねえ、先生。

戦争に行ったからって、みんな死んじゃうわけじゃないでしょ?

僕は、死にたくない!

……。


それで、君は、何をするんだい?

兵隊たちが、君を守ってくれるとしたら?

将軍 の仕事だよ!
将軍の仕事って? 君にできるのかい?
難しいことじゃないよ!
たとえば?
兵隊たちを訓練したり、行進させたり!

それから……これは、ちょっと難しいかもしれないけど……、

兵士の数を数えたり!

なるほど。

(重々しく頷く)


(傍白)

この子の、「軍事的傾向」を、しきりと取り沙汰する(やから)がいる。けれど、「軍事的傾向」といったって、この程度のものだ。普通の男の子と、変わらないじゃないか……。

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登場人物紹介

フランツ(フランソワ)


ナポレオンとオーストリア皇女、マリー・ルイーゼの息子。父の没落に伴い、ウィーンのハプスブルク宮廷で育てられる。


無位無官のただの「フランツ君」だったのだが、7歳の時、祖父の皇帝より、「ライヒシュタット公」の称号を授けられる。

ディートリヒシュタイン伯爵


フランツにつけられた、コワモテ家庭教師。家庭教師は他に、フォレスチコリンがいる。

オーストリア皇帝フランツ


フランツの祖父。なお、「フランツ」の名前は、ナポレオンが、この祖父から貰った。

マリー・ルイーゼ


フランツの母。ナポレオンと結婚したご褒美に、ウィーン会議の時、パルマに領土を貰う。

片目の将軍(後パルマ執政官)ナイペルクと、絶賛恋愛中。

ナイペルク


皇帝がマリー・ルイーゼにつけた護衛官。後、パルマ執政官。家庭教師のディートリヒシュタインとは古い友人。

ナポレオン


エルバ島に封じられてから、百日天下を経て、セント・ヘレナ島で亡くなるまでの時代設定です。

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