第16話 年寄りの気難し屋

エピソード文字数 1,063文字


家庭教師のディートリヒシュタイン先生とフランツ、歩きながら……


皇帝から聞いたよ。完璧なドイツ語を話したそうじゃないか。僅かな時間で習得するとは、大したものだ!

(小声で)

年寄りの気難し屋が、僕を褒めた……。

(聞こえていない)


君は、宮廷の女性たちの心をとりこにしたようだな。「恐ろしくハンサム」だとか、「際立ってノーブル(高貴)」だとか、「仕草がチャーミング」だとか……。

信じられない。

本当に褒めてる。

わ、私が、言ったわけじゃないぞ? 宮廷の貴婦人(レディ)達が話しておったのだ。

僕は、おばさん 女の人は、苦手だ。
しっ! なんてことを言うんだ!

誰かに聞かれたら……(きょろきょろ)

僕は本当のことを言っただけだよ!

先生は、僕が嘘をつくと怒るじゃないか!

だが、女性の悪口はいかん。後が怖いぞ……。女性の悪口を言わないのはね、処世術と言うんだ、嘘じゃなくて。


(傍白)

かわいそうに。フランスのレディ達に育てられた弊害だな。彼女らの迫力は、凄かったもんな……。


(こほん)

みんなが褒めるのは、君がドイツ語を話すようになったからだよ。

ドイツ語は、響きが汚いから嫌いだ。
またそんなことを言う!


でもまあ、君のドイツ語の進歩は、大したものだ。私が大公方と話していると、君も、必ず口を出してくる 会話に参加してくるものな。



※男性皇族。ここでは、大叔父、叔父など。

でも僕は、ドイツ人にはなりたくない!
だって、君の親戚は、みんな、ドイツ人じゃないか!
違うよ! 僕の親戚は、パリにいるんだ!
えっ!(ショック)
僕はね。僕のお世話を、とてもよくしてくれた人たちが住んでいる国にいるべきなんだよ。
…………。
僕は、フランス人になりたいんだ!


フランツは立ち止まり、壁に掛けられた絵を指さした。


あれは、アウステルリッツの三帝会戦の絵だね?
そうだよ。
フランスは、オーストリアに勝ったよね!

だが、ライプチヒでは、オーストリア軍を含む連合軍に敗北した。

最終的にフランスは、我々に、負けたのだ。


首都のパリは、連合軍に陥落した。

(吐き捨てるように)


オーストリア軍がパリに入ってきた時、パリのみんなは叫んだものさ!


「店を閉めろ! 略奪されるぞ!」


ってね!

(傍白)


パリが陥落した時のことを、覚えているのだろうか……。

いや、違う。


パリが陥落する前に、プリンスはマリー・ルイーゼ様(母君)と共に、パリから逃れていた。そして、すぐにここ、オーストリアへ来られたからな。


するとこれもやはり、解雇したフランスの従者(レディ)たち の最後っ屁 から聞いた話だな。全く、あいつらときたら!

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登場人物紹介

フランツ(フランソワ)


ナポレオンとオーストリア皇女、マリー・ルイーゼの息子。父の没落に伴い、ウィーンのハプスブルク宮廷で育てられる。


無位無官のただの「フランツ君」だったのだが、7歳の時、祖父の皇帝より、「ライヒシュタット公」の称号を授けられる。

ディートリヒシュタイン伯爵


フランツにつけられた、コワモテ家庭教師。家庭教師は他に、フォレスチコリンがいる。

オーストリア皇帝フランツ


フランツの祖父。なお、「フランツ」の名前は、ナポレオンが、この祖父から貰った。

マリー・ルイーゼ


フランツの母。ナポレオンと結婚したご褒美に、ウィーン会議の時、パルマに領土を貰う。

片目の将軍(後パルマ執政官)ナイペルクと、絶賛恋愛中。

ナイペルク


皇帝がマリー・ルイーゼにつけた護衛官。後、パルマ執政官。家庭教師のディートリヒシュタインとは古い友人。

ナポレオン


エルバ島に封じられてから、百日天下を経て、セント・ヘレナ島で亡くなるまでの時代設定です。

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