第26話 帰れない理由

文字数 948文字

イタリア、パルマ
ディートリヒシュタイン伯爵は、神経質だわ!

はしかは、そんなに心配する病気じゃないのに。

そもそも、私が今、ウィーンへ帰れるわけ、ないじゃない。

もうすぐ、子どもが生まれるのよ!

一昨年も、女の子を産んだばかりだし。
マリー・ルイーゼ大公女。
ああ、ナイペルク。
身の安全には、十分ご注意くださいませ。不審な手紙が届いております。
(ぶるぶる)


ナポレオン(あの人)の部下からね!

はっきりとは、わかりません。ただ、無礼にも、「結婚と出産」について、貴女様を、公然と非難しております。
結婚……(涙ぽろり)。


ナイペルク、あなたと結婚なんて、できるわけないじゃない! 私はまだ、ナポレオンの妻なのよ!

マリー・ルイーゼ様……。

苦しめてしまって、申し訳ない……。

子どもたちもかわいそうに。

アルベルティーナも、お腹のこの子も、不義の子。私たちを、「お父さま」「お母さま」と呼ぶことは許されないの。



※一昨年、ナイペルクとの間に生まれた女の子。パルマに来た翌年の誕生。

はい……(斬鬼)。
たとえ結婚できたとしても、あなたとの結婚は、貴賤婚だわ! 二人の愛は、決して、公にできない……。



※ハプスブルク家の版図を拡げる為、皇族は、相手が所領を持つ者(王や公主)とでないと、結婚することは許されない。

(ショック……)
パルマ(ここ)へ来る途中も、私の乗る馬車に、ひどい言葉を投げてきた人がいたわ! あんな人(ナポレオン)と結婚したばかりに、私まで……。
ですが、この国(パルマ)の民は、心から、あなた様を慕っております。あなたの善政を、彼らは感じ取っているのです!
あなたのお陰よ、ナイペルク。あなたが、政務を執ってくれているから、私は、安心していられるの。
せめて、それくらいのことはさせて下さい。それから……。
それから?

(傍白)

ウィーンへ置いてきた、息子たちの母親は死んでしまった。もう、彼女には償いはできない。でも……。


パルマへ来て後悔してるの? ナイペルク?
いいえ!

ただ、私は考えております。

どうしたら、に、償いができるのか、と。

彼?
あなたと……ナポレオンの、息子に。
ナポレオンの息子……フランツに?
はい。

私は、幼い彼から、母親(あなた)を取り上げてしまった。彼には、父親もいなくなってしまったというのに!

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登場人物紹介

フランツ(フランソワ)


ナポレオンとオーストリア皇女、マリー・ルイーゼの息子。父の没落に伴い、ウィーンのハプスブルク宮廷で育てられる。


無位無官のただの「フランツ君」だったのだが、7歳の時、祖父の皇帝より、「ライヒシュタット公」の称号を授けられる。

ディートリヒシュタイン伯爵


フランツにつけられた、コワモテ家庭教師。家庭教師は他に、フォレスチコリンがいる。

オーストリア皇帝フランツ


フランツの祖父。なお、「フランツ」の名前は、ナポレオンが、この祖父から貰った。

マリー・ルイーゼ


フランツの母。ナポレオンと結婚したご褒美に、ウィーン会議の時、パルマに領土を貰う。

片目の将軍(後パルマ執政官)ナイペルクと、絶賛恋愛中。

ナイペルク


皇帝がマリー・ルイーゼにつけた護衛官。後、パルマ執政官。家庭教師のディートリヒシュタインとは古い友人。

ナポレオン


エルバ島に封じられてから、百日天下を経て、セント・ヘレナ島で亡くなるまでの時代設定です。

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