第9話 王の条件

文字数 1,123文字

[フォレスチ先生]


フランツ君、ここにいたのか。

おやつを持ってきたよ。

あ、フォレスチ先生!
おやつと……ほら!
わあ! フランスで使ってた、僕のおもちゃだ!

木馬も、兵隊さんも、ドラムもある!

フランスから送ってきたんだよ。


パリ脱出が急だったので、マリー・ルイーゼら一行は、所持品を、満足に持ち出す余裕はなかった。


宮殿に残されていたフランツのおもちゃを、フランスの、宮殿付き従者が、やっと取りまとめて送ってきたのだ。


フランスから!?


きりっ!(威儀を正す)


さては、僕のおもちゃを盗んだことが、怖くなったんだな! ルイ18世って、意外と臆病なんだな!



※ルイ18世:革命で処刑されたルイ16世の弟。ナポレオン没落後、ブルボン復古王朝の王として即位した。

 ブログ「ルイ18世」

[勝手に庭園に入り込んでいた浮浪児たち]


いいなあ、お菓子。

おいでよ。あげる!
えっ、ほんと?


(恐る恐る、近づいてくる)

あげる。

君にも、はい、あげる。


(集まってきた子どもたちにお菓子を配る)


あれえ。なくなっちゃった。

待ってて! まだ、おもちゃがある!

……。


(おもむろに、おもちゃ箱の蓋の上に座る)

フォレスチ先生、どいて!
ダメだよ、フランツ君。

今日は、ダメだ。

なんで?
なんで、って……。

この間も君は、持ってきたおもちゃを、全部配っちゃったじゃないか。

そうだよ。
そんな風にしていたら、君のおもちゃは、なくなってしまうぞ?
平気だよ!
もう、おもちゃで遊べなくなっちゃうんだよ?
いいんだ。だって、独り占めしたら、いけないんだもん!

自分の持っているものは、なんでも、みんなと分かち合わなければいけないんだ。

(傍白)

まさしく、王の鏡じゃないか。

それに、相手は浮浪児だというのに、身分の差なんか、まるで考えていない。


私は知っている。この子は、本当は、優しい子なんだ。

この間も、ヒバリが虫を食べるのを見て、泣いていた……。

[新しい従者]


プリンス、おはようございます。



※フランス人女性に代わって新しくつけられた従者は、全員、ドイツ人男性

…………。
お目覚め、いかがですか?

べらべらべら、べらのべら…………。

(フランス語)

(傍白)

何か言ってる……。

まずいなあ。俺、ドイツ語しか、わかんないんだ。それは、他のみんなも同じだけど。


(フランツに)

ええと、プリンス。何か、ご下命でしょうか?

ぺら?

ぺらぺらぺら、ディートリヒシュタイン、ぺらぺらぺらのぺら。

(傍白)

あ、ディートリヒシュタイン、って言った! でも、そこだけわかってもなあ……。

何語だ、これ? プリンスが話しているのだから、フランス語だよね?

ぺらぺらぺらのぺら、ぺらりぺらぺら。


(自分の着ている寝巻着を、摘まんでひっぱる)

(傍白)

ああ、着替えたいのね!

(ほっ)

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登場人物紹介

フランツ(フランソワ)


ナポレオンとオーストリア皇女、マリー・ルイーゼの息子。父の没落に伴い、ウィーンのハプスブルク宮廷で育てられる。


無位無官のただの「フランツ君」だったのだが、7歳の時、祖父の皇帝より、「ライヒシュタット公」の称号を授けられる。

ディートリヒシュタイン伯爵


フランツにつけられた、コワモテ家庭教師。家庭教師は他に、フォレスチコリンがいる。

オーストリア皇帝フランツ


フランツの祖父。なお、「フランツ」の名前は、ナポレオンが、この祖父から貰った。

マリー・ルイーゼ


フランツの母。ナポレオンと結婚したご褒美に、ウィーン会議の時、パルマに領土を貰う。

片目の将軍(後パルマ執政官)ナイペルクと、絶賛恋愛中。

ナイペルク


皇帝がマリー・ルイーゼにつけた護衛官。後、パルマ執政官。家庭教師のディートリヒシュタインとは古い友人。

ナポレオン


エルバ島に封じられてから、百日天下を経て、セント・ヘレナ島で亡くなるまでの時代設定です。

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