第25話 はしか

エピソード文字数 1,031文字

[パルマにいる母、マリー・ルイーゼ]


(手紙)


ディートリヒシュタイン先生へ


フランツの様子を見に来るよう、お手紙を頂きましたが、ちょっと、行けそうにありません。なぜなら、パルマの君主として私は、この国の民に対して責任があり……、……。


元気だったフランツが、熱を出した。

ひどい熱が3日も続き、発疹が出た。


[侍医のフランク医師]


はしかだね。

心配いらないよ。プリンスはまだ小さいから、軽くて済む。


……。


(熱が高い)

[家庭教師のコリン先生]


(控室に戻り、)

かわいそうになあ。

[家庭教師のフォレスチ先生]


こういう時こそ、母親がそばにいるべきだ。

マリー・ルイーゼ様は、来られないのかな。

[家庭教師のディートリヒシュタイン先生]


……。


(机に向かい、パルマのマリー・ルイーゼへ向けて、帰ってきてくれるよう、手紙を書いている)


数週間後。



[マリー・ルイーゼ]


(手紙の返事)


 フランツがはしか(・・・)とのこと。それなら、なおいっそう、ウィーンへ行くわけにはいきません。なぜなら私は、はしか(・・・)に罹ったことがないからです。


 私は、フランツが、羨ましいです。子どもの時にこの病気に罹ってしまえば、これから先、もう二度と、この不快な病気になる心配をしなくてすみますものね……。
……………………。
お母さまから、手紙が来たよね!
ディートリヒシュタインが部屋に入るなり、フランツは尋ねた。
お母さまは、いつ、来るのかな?
…………。
(素早くディートリヒシュタインの顔色を読む)


そうか。お母さまは、来られないんだね。

(小さな声)

きっとお母さまは、パルマで、貧しい人々を助けるのに、お忙しいんだね。
フランツ君、
ディートリヒシュタインは、たまらない気持ちになった。
お母上が会いに来られないというのは、君にとって、とてつもない不幸だ。
君は、泣いてもいいんだよ!
僕は……、
(涙ボロボロ)
僕は、いつもお母様のことを考えているし、お母様のことが大好きだ!

普段の謹厳な態度を、ディートリヒシュタインはかなぐり捨てた。


彼は、プリンスのもとに駆け寄り、その小さな体を抱き締めた。

私達を、もっと、信頼してほしい。そして、君の気持ちを、私たちに、打ち明けて欲しい。
私達はきっと、君の力になれるはずだ。

みんなで力を合わせて、お母様の愛情を勝ち取ろうじゃないか!!

 プリンスは、声を上げて泣き出した。

 気がつくと、なんと、ディートリヒシュタインの目からも、涙が溢れていた。

(次の授業の時間)


(フランツの部屋を覗く)

……。

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登場人物紹介

フランツ(フランソワ)


ナポレオンとオーストリア皇女、マリー・ルイーゼの息子。父の没落に伴い、ウィーンのハプスブルク宮廷で育てられる。


無位無官のただの「フランツ君」だったのだが、7歳の時、祖父の皇帝より、「ライヒシュタット公」の称号を授けられる。

ディートリヒシュタイン伯爵


フランツにつけられた、コワモテ家庭教師。家庭教師は他に、フォレスチコリンがいる。

オーストリア皇帝フランツ


フランツの祖父。なお、「フランツ」の名前は、ナポレオンが、この祖父から貰った。

マリー・ルイーゼ


フランツの母。ナポレオンと結婚したご褒美に、ウィーン会議の時、パルマに領土を貰う。

片目の将軍(後パルマ執政官)ナイペルクと、絶賛恋愛中。

ナイペルク


皇帝がマリー・ルイーゼにつけた護衛官。後、パルマ執政官。家庭教師のディートリヒシュタインとは古い友人。

ナポレオン


エルバ島に封じられてから、百日天下を経て、セント・ヘレナ島で亡くなるまでの時代設定です。

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