第31話 ロシア皇帝の訪れ

文字数 918文字

[祖父の皇帝]


フランツ。大きくなったら、お前は、何になりたいんだ?

……。
(心の中)

言っていいのかな。反対されないかな。

だって……。

(心の中で強く)


僕は、パパみたいになりたい!

パパと同じ道を歩みたいんだ!

私の叔母上のことを、覚えているか? 

お前がフランスから来てすぐ、亡くなられてしまったが、お前も、何度か、お会いしたはずだ。



※元ナポリ、シチリアの王妃、マリア・カロリーナ・ダズブルゴ。ナポレオンに国を追われ、オーストリアに亡命して、没。皇帝の2番目の妻の母でもある。

お祖父さまの、叔母様?
うん。お前の大叔母様だ。マリー・ルイーゼの母方の祖母でもあるから、お前には、ひいお祖母様にもなるな。
……。

(頭の中で懸命に整理)

若干、奇矯な人ではあったが。


マリー・ルイーゼに、


なぜ、(ナポレオン)の元へ行かないのか、

自分なら、シーツを寄り合わせて窓から逃げてでも、夫の元へ行く、


と、言われたそうだ。

(憮然)




※この時ナポレオンは、イタリア半島に近い、エルバ島にいた。

彼女がな。亡くなる前に、儂に言ったのだ。


「ナポレオンの息子は、僧侶にするしかないね」


って。

えっ!
宮廷でも、そう思っているものは多い。

お前は僧侶になるべきだと。

もし、お前に希望がないのなら……、

お祖父様!

(たまらず割って入る)


僕は、軍人になりたい!

おお、そうか……。軍人に……。


ロシア皇帝アレクサンドル1世が、近くを通りかかったついでに、ふらりとウィーンを訪れた。


[ロシア皇帝アレクサンドル1世※]


(フランス語)

こんにちは。



ブログ「アレクサンドル1世」

……。

(はにかんだような笑み)

(フランス語)

私は、ランブイエの城に、伺ったのですよ。お母様には、ウィーン会議の時にもお会いしました。



ブログ「ランブイエ城」

……。

(ますますはにかむ)

(心の中)


きれいでかわいい、賢そうな子じゃないか。

[家庭教師のディートリヒシュタイン]


まずい!

プリンスは、フランス語を忘れてしまっている! 

フランス語は、政治や外交の公用語だ。できないじゃ、すまされんぞ。


さっそく、特訓だ!!


フランス語を忘れかけたこの頃から、フランツは、父の話をしなくなった。

同時に、溌溂とした子どもらしさも失っていく……。


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登場人物紹介

フランツ(フランソワ)


ナポレオンとオーストリア皇女、マリー・ルイーゼの息子。父の没落に伴い、ウィーンのハプスブルク宮廷で育てられる。


無位無官のただの「フランツ君」だったのだが、7歳の時、祖父の皇帝より、「ライヒシュタット公」の称号を授けられる。

ディートリヒシュタイン伯爵


フランツにつけられた、コワモテ家庭教師。家庭教師は他に、フォレスチコリンがいる。

オーストリア皇帝フランツ


フランツの祖父。なお、「フランツ」の名前は、ナポレオンが、この祖父から貰った。

マリー・ルイーゼ


フランツの母。ナポレオンと結婚したご褒美に、ウィーン会議の時、パルマに領土を貰う。

片目の将軍(後パルマ執政官)ナイペルクと、絶賛恋愛中。

ナイペルク


皇帝がマリー・ルイーゼにつけた護衛官。後、パルマ執政官。家庭教師のディートリヒシュタインとは古い友人。

ナポレオン


エルバ島に封じられてから、百日天下を経て、セント・ヘレナ島で亡くなるまでの時代設定です。

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