第27話 プリンスはドイツ人です!

文字数 1,144文字


フランツが待ちに待った母の訪れは、1818年夏。

5歳になったばかりだったフランツは、7歳になっていた。


2年3ヶ月ぶりに会う母と息子は、ウィーン近郊の教会で落ち合おうことになっていた。


まだかな、まだかな?
[付き添いのディートリヒシュタイン先生]


これ、落ち着きなさい。

お母さまがいらっしゃる! 

お母さまがいらっしゃる!!

うむ。今年こそは、いらっしゃる。先ぶれの手紙も頂いたし……。

あー、プリンス。私のタイは曲がっていないかね?

先生のタイ? だいじょうぶに見えるよ。
だいじょうぶに見える? それは、大丈夫ではないということか?(胸元のタイを慌てて直す)
あっ! 馬車の音だ!

(教会の外へ走り出す)


教会の外には、たくさんの人が集まっていた。

彼らはかつて、ナポレオンについて戦った人たちだった。


今日、ここにかつての皇妃(マリー・ルイーゼ)が来るという情報が、漏れていたのだ。


!!!


教会の建物から走り出てきたフランツは、集まっていた人々に、あっという間に取り囲まれてしまった。


[集まっていた人々]


おお!

(どよめき)


 フランス人だけでなかった。スペイン人、エジプト人、ロシア人、そして、ドイツ人。かつてナポレオンの傭兵として戦った人々だ。

 彼らに、共通の言葉はなかった。

 

[元傭兵]


フランツに、深々と頭を下げる。

[元傭兵]


静かに涙を流す。

(フランツに続いて、教会から出てくる)


まずいことになった!
ディートリヒシュタインは、ウィーンに、かつてのナポリ王妃(ナポレオンの妹)※1ウェストファーレン王()※2が潜伏していることを知っていた。



※1カロリーヌ ブログ「ナポレオンの妹たち3 カロリーヌ」

※2ジェローム ブログ「ジェローム・ボナパルト」

ナポレオン(父方)(叔母)(叔父)が、話しかけてきたら……プリンスのお心は、大きく乱れるに違いない!
プリンスが、叔母と叔父についていきたがったら、私は彼を、止められるだろうか……。

そうだ!

ナポレオンの妹と弟は、プリンス()に、間違いなく、フランス語で話しかけてくる!

(叫ぶ)


「皆さん! プリンスはドイツ人です。話しかけないで下さい。プリンスは、ドイツ語しか、話せません!」


人の輪は、ますます狭まり、フランツとディートリヒシュタインに迫ってくる。


絶体絶命だ!


(フランソワを抱きしめる)

失礼! 失礼!


人の輪を破って、隻眼の男が割り込んできた。


おお!

ナイペルク!

[マリー・ルイーゼの護衛官、パルマの執政官 ナイペルク]


久しぶりだな、ディートリヒシュタイン。

だが、挨拶は後だ。



※二人は元から友人同士。


ナイペルクは、片手で軽々とプルンスを抱き上げた。


では、後ほど!


言い残し、ナイペルクは、人の輪をかき分け、マリー・ルイーゼの馬車へと戻っていった。


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登場人物紹介

フランツ(フランソワ)


ナポレオンとオーストリア皇女、マリー・ルイーゼの息子。父の没落に伴い、ウィーンのハプスブルク宮廷で育てられる。


無位無官のただの「フランツ君」だったのだが、7歳の時、祖父の皇帝より、「ライヒシュタット公」の称号を授けられる。

ディートリヒシュタイン伯爵


フランツにつけられた、コワモテ家庭教師。家庭教師は他に、フォレスチコリンがいる。

オーストリア皇帝フランツ


フランツの祖父。なお、「フランツ」の名前は、ナポレオンが、この祖父から貰った。

マリー・ルイーゼ


フランツの母。ナポレオンと結婚したご褒美に、ウィーン会議の時、パルマに領土を貰う。

片目の将軍(後パルマ執政官)ナイペルクと、絶賛恋愛中。

ナイペルク


皇帝がマリー・ルイーゼにつけた護衛官。後、パルマ執政官。家庭教師のディートリヒシュタインとは古い友人。

ナポレオン


エルバ島に封じられてから、百日天下を経て、セント・ヘレナ島で亡くなるまでの時代設定です。

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