第32話 マリアとメドゥーサの思い出 3

文字数 2,655文字

 城壁と城門を破壊して突入した人間・亜人の連合軍は、至る所に設けられた櫓や門とその関連施設の防衛設備からの攻撃、そこから打って出てくる魔族の部隊、魔獣の乱入、どこからともなく現れて攻撃してくる魔族の一隊に足止めをくらい、翻弄された。投降した魔族の部族の将兵も、ヨウが門を「転真敬会奥義大進金!」
と叫んで突破するのを見てから、彼の後から続いて突入するのが、これまでの常だった。
「あいつらは、いつも同じだな。」
 メドューサは眼下の部隊の、矢槍、岩、魔法で攻撃しようと待機していた兵士達を、乱入して瞬く間に全滅させながら、魔族達のへっびり腰振りに呆れていた。その彼らも、ようやく大魔王軍の将兵に猛全と挑みかかり始めた。だが、それを見ても彼女の感想は変わらなかった。
「どうしました?行きますよ。次の門まで制圧すると。ゴセイは、もう行くと言ってますよ。」
 マリアが声をかけてきた。
「わかってるよ。」
 日はかなり傾いていたが、夜になる前にもう一つ進めそうだった。
 「弁解はいい。今すぐ、その連中を制圧しろ。合力はしてやるが、まずお前たちが進め。これは命令だ。いいな。」
 床几に腰かけたミョウ・ヨウは目の前に跪く魔王に冷たく言い渡した。魔王は脂汗を流しながら、苦渋の表情を浮かべていた。センリュウは興味深そうな表情を見せていたが、メドゥーサとマリアは見下した、そして残忍な表情を見せていた。
「こいつらを皆殺しにしてから、あいつらを始末しようよ。その方が早いし、簡単だよ。」
「たまにはいいことを言うと思いますよ、あなたにしては。」
 二人の会話に、魔王は体から冷たい汗が流れ落ちる気がした。
 魔族の一団が突然現れ、住み着いたから何とかするようにという皇帝の勅命を受けて、帝国辺境領に来たゴセイ・ミョウ・ヨウが見たのは、数千程の魔族の一団で、侵攻してきたのではなく、住み着いていた姿だった。自ら開墾して、村づくり、町づくりをしていた。積極的に戦かおうという姿勢がなかった。
「我は戦いを望まない。」
 最初に接触した、その領域の一部を領地としていた貴族だったが、時の彼らの回答だった。しかし、結局戦闘となり周辺の領主達の何人かが戦死する結果となった。その結果、彼の出番ということのなったわけだった。ゴセイは、説得の余地があると、当初期待した。戦いに至ったのは、人間側にもハイエルフ側にも非が、誤解もあったからである。平和を望むなら、自治と特別な立場、地位、権利を認めた上で、帝国臣民となり、負担に応じることを条件として、皇帝の約束も確保したうえで交渉を始めた。しかし、彼らには交渉などする気は全くなかった。自分達が望んだ、だから実行する、我々は戦いの意志がないのだからありがたく思え、だった。そういう態度であっても、ゴセイは再三交渉を試みた。最後に、自らメドゥーサ、マリア、センリュウを従えて出向いた。交渉のテーブルについた、その彼を、でかい獣人系魔族の女達が、5人がかりで押さえ込み、毒水が満ちた樽に彼の顔を突っ込んで、押さえつけた。どうしてこうも同じことをかんがえるのか、思わず苦笑したものだ。メドゥーサとマリアの前で動かなくなったのを見て、魔王は高笑いした。女達の力が少し緩まった瞬間をとらえ、突然復活したヨウは女達を振り飛ばした。床に倒れた一人の頭を踏みつぶし、一人は顔を握りつぶし、残りの三人に向かって火球を連弾でぶつけて焼き殺した。魔王が命ずるまでもなく、彼の衛兵たちは動いていたが、瞬く間にメドゥーサとマリア、そしてセンリュウに八つ裂きにされてしまった。それでも、ヨウは魔王にチャンスを与えたが、彼らは戦うことを選んだ。女子供でも戦えるもの全てを動員した五千近くは、ヨウと400名足らずの兵に大敗した。その結果があっても、当初の提案を若干厳しくしただけの提案をヨウは提示した。さすがに魔王も受け入れた。が、彼らの中の抗戦派が、宝物の魔道具のいくつか奪って、一つの村を占拠してしまった。魔王は、宝物の魔道具があり、攻める側も、肉親、親族相手となり士気が上がらないと言ってきたのである。だからどうしたいのか、ということはなかった。説得するというわけでもない。魔王も苦しい立場ではあった。頭を上げると、ヨウの側に4人の小柄な、浅黒い肌の、美しい魔族の女戦士、いわゆるダークエルフ達、が見えた時、魔王はほっとするものを感じた。彼女達は、ヨウを籠絡又は暗殺するために送り込んだ女達だった。しかし、彼女らの表情にすぐ違和感を感じた。
「魔王を守り、補佐して、私の命令を確実に実行させろ。」
 命じたヨウを見上げた彼女らの表情は、主人に対する忠実な家臣の顔だった。
「それから、お前の本妻、愛妾と子供達は処刑だ。理由はわかっているな。そいつらの代わりは彼女らが務めてくれるから心配するな。」
 その後、魔王とその配下は反乱者の立て籠もる村への攻撃を開始した。それを見て、ヨウも加わった。マリア、メドューサ、センリュウも当然、彼に従った。
「こんなのぼくの宝物庫の記憶にないよ。いや、確か、要らないからくれてやったやつだったかな。」
とメドゥーサがいうような魔剣などを、自信満々に振るう連中は、瞬く間のうちに倒された。それを見て、魔王軍の連中は勇み立ち、反乱者たちを皆殺しにした。ヨウが命を助けた数人を除いて。その内の女、若く、美人ではある女を魔王の5番目の妻にするように命じた。反乱軍の幹部の妻だったが、勇敢に戦ったことも評価したのだ。彼女は、大人しくヨウの命令に従った。婚姻の、5人とも、確認の儀式まで、ヨウが出席の上、行わせた。皇帝は、彼らと彼らの住む領域をヨウに与えた。貴族達の不満はあったが、荒地であり、まして魔族を支配下に置くことを望みたくもないこともあり、表立つことはなかった。ヨウは、彼らに対して、多少の労役と彼の滞在中の世話は求めたが、数年間は基本的に税を免除しながら、生活が順調に進むように、色々な便宜を図った。農業、牧畜、狩猟、漁業、手工業、商業がまかりなりにも順調に動くようになったのも、彼のおかげとも言えた。
「全く、最初から従っていれば、犠牲を出さずにすんだのにな。」
 彼の上で、激しく動き、喘ぐメドューサに呟くように言ったのは、その夜、占領した本丸に近い門の周辺で野営している中でであった。次を待ち、体をもじもじさせながらマリアが、
「人間も同じでしょう?神だって同じでしたわよ。」
 そう言って、彼の唇を上から貪っていた。
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