第17話 メドゥーサの思い出4

文字数 2,630文字

 整然として進む皇帝軍を見て、皇帝を魔王軍に殺させようとした貴族達の多くが恐れおののいた。その一部の軍が襲いかかって来たが、瞬く間に壊滅させられた。
 息子や弟、親戚等が、皇帝に忠誠を尽くしており、その彼らが、首謀者以外は赦す、首謀者達は罪に問うが、寛大な措置を取るとのことを、この謀反の首謀者である一族達に伝えた。ヨウが進言した策だった。
 大体の連中は、厚顔無恥な顔で、それも平気で皇帝の前に参上した。もちろん、隠居させられたり、領地の一部没収が行われた。とはいえ、皇帝の近臣である、彼らの息子、兄、弟、親戚が、あるいは姉、妹、その夫とともに、が跡目を継ぐのであるし、領地の没収も献上の形で、ささやかなものでおさめた。それと金、傭兵への報酬や恩賞にあてるものだったので、そちらはかなりの額になったが、その負担をさせられた。とはいえ、ことがことだけに、額面通り寛大な措置だったと誰しもが感じた。ただし、一部だけ、それに応じず領地に、そのまま自分の領地に戻ってしまった。当然、その連中は、攻め滅ぼした。一族のうち、その動きに離反したもの以外は皆殺しにした。他の首謀者、彼らの共犯者で、大人しく投降した連中は、汚名挽回とばかり、かつての同志への攻撃の先頭に立った。その一族が近臣で、最後まで離れなかった者であれば、彼に領地を継がせ、近い血筋は命を助けた。その場合は、半分の領地は没収されたが、それでもだ、これは、極めて寛大な措置だった。
 ヨウは、帝国騎士の位と多額の報酬、そして領地、この戦いが行われた場所である、が与えられた。
「帝国領とは名ばかりでさ、人間達はもとより魔族から神族までいて、しかも従うつもりのない連中ばかりでさ、統治を始める前に、山ほど苦労したんだよ。まったく、皇帝領ばかり増やしてさ。」
 メドューサは、不満だと言ったが、ゴセイをはじめ、功績のある者達に与えたり、加増したりで没収地が与えられたが、皇帝領もかなり増やすことができた。圧倒的にはほど遠いが、かなり皇帝の立場は、経済的、軍事的に高まった。
 メドゥーサの言葉をフンフンと、マリアは聞き流していた。“私のいない、私の知らない、2人だけの物語、…か。”悔しいような、悲しいような、寂しいような気分になって、マリアは慌てた。“なにを考えているのよ!”その彼の領地に、3人は馬を急がせて向かっていた。
 暗殺組織の壊滅の報に、彼らに挑んでくるいくつもの刺客達、名を上げようという、を皆殺しにしながら最初の宿に着いた時に、彼の領地の精霊が連絡に来た。隣の領主であるボルト伯爵が彼の領地に兵を入れて来たというのである。朝早々に、昨晩メドゥーサとマリアにちょっかいをかけてたたき出された男達が復讐にきたのを、数十人だったが、瞬殺した。ヨウを目標にしていたらしく、
「表にでろ!」
 ゴセイに従おうと立ち上がった2人に、
「おっと、ここは男だけの問題だよ。お嬢ちゃん達は黙っていな。」
と言って立ちはだかった、ライオン系獣人の女二人の心臓を瞬時に掴み取ってから、ゴセイの後を追いかけて外に出て彼と共に暴れまくった。返り血をそのままに、宿に戻って、残った朝食を食べてから出発した。
 震える店の主の前に、殺戮、壊滅させた連中の死体から剝ぎ取った鎧や武器、衣服を投げ捨てた、その中には、ご丁寧なことに女の下着まであった、
「悪いな。これを売った代金で、床の血を洗ってくれ。」
と言って出発した。
 彼は自分の領地の館には入らず、領地の各地に作っていた隠し砦に入った。そこには、領内の有力者達が集まっていた。ゴセイは、十数人の男女を前にして、飾りはほとんどないが、主人のと分かる椅子に座った。メドゥーサが、躊躇なく、彼の隣の椅子に座った。戸惑う視線がマリアに集まった。すかさず,
「彼女はマリアだ。私の隣に座る。椅子をもってこい。」
 それで、それだけで、彼らはマリアの地位を理解した。左右に二人の女を座らせて、簡単な椅子に座る家臣達に、現状を説明するよう命じた。
 ボルト伯爵の領地は、幾つかの騎士領を挟んで、隣接していた。彼自身は、卑賤の出身であるが、戦いでの功績で順調に出世し、名門の女性を娶り、伯爵にまで出世した男だった。ヨウが、与えられた領地が、彼の既に死んだ二番目の正妻の父親の領地だったため、その権利を主張していた。ちなみに、彼は既に三番目の正妻を娶っているが、過去二人の正妻を殺した訳ではない、病死である。皇帝への陰謀への加担したため、皇帝に献上、それがヨウに与えられただけなのだが、彼は成り上がり者の不当な行為だと、ことあるごとに恫喝を続けていた。
「そんなに魅力的な土地なの?」
 マリアが尋ねると、
「僕とゴセイが、魅力的な土地にしたんだよ!」
とメドューサが答えた。“フン”と思ったものの、魔族から神族までが、彼に服属している。それをそのまま受け継げるなら、魅力的と思えるかもしれないとマリアは思った。
「それで、革命軍と名乗る連中はかなり近くまで来ている訳か。ボルト伯爵が脅威を感じるのは分かるが、私が通じていると言って、我が領内に侵攻して来るのは解せんな。」
 状況報告した騎士、彼の数少ない家臣の一人である。それ以外は服属している種族の幹部達である。
「とにかく、ボルト伯爵の軍勢を叩くのが先決だ。既に伝えてある通り、集められる兵を数隊に分けて、ボルト伯爵の本隊を囲め。私達が乗り込んで混乱を生じさせるから、機を見て突入しろ、以上だ。」
「ヨウ様。一つ。」
 神族の代表者であるロキだった。黒髪の整った顔立ちの、いわゆる神族的な男だった。体も逞しかった。
「なんだ?」
「よそ者の神族からの接触というか、勧誘が我が部族に、個々にあったようです。自分達に加わって、人間の上の存在、本来の地位につこうと言ってきました。」
「ほう~。」
 マリアが、思わず声を出した。その声の中にある凄まじい怒りを感じ取り、ロキは慌てて、
「もちろん、皆分かっておりますが、今の生活がここでしか与えられないだろうということを。しかし、自分達の存在をそう思いたいというところがあり…。」
「後で、きっちり始末はつける。とにかく、変なことはさせるな。皆殺しまではしないが、大部分が死ぬことになるぞ。」
 彼がそう言って、軽く睨むとロキは、冷や汗が止めどもなく流れていた。
「明日、奴の本陣に乗り込む。それまでに準備しておけ。」
“マリアも?僕とゴセイで十分なのに。”
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