第31話 大魔王城に突入

文字数 2,740文字

「始まったようですね。私達も急ぎましょう。」
 遠くから聞こえてくる戦いの喧噪に、エカテリーナは言った。 
 大魔王城への攻撃は、攻城戦のシナリオ通り大型の投石機、石弓、燃焼物の投射機による攻撃から始まり、魔法攻撃、そして大盾を持った重装歩兵を先頭に弓兵、投石兵、投げ槍兵、魔道士、魔法修道士、魔法騎士が城壁に迫り、その援護の元にはしごをかけて城壁を登り、城門付近を占拠して開門する、並行して城門を亀甲車などで破る。あわよくば、城壁を崩す。その後はなだれ込む。城内での攻防はさらに続くことになるが、当然大魔王城の中は二重三重の防御施設があるのだから。この戦いで今までと異なる点は、投降した2魔族が先頭になっているということだった。彼らが望んだわけではない。人間達が強要したのだが、その指示は流石にしづらかったため、ヨウにさせた。彼から、魔族達に伝えるように頼み込んできたのだ。彼は自らが彼らの先頭に立つことで彼らを納得させ、同時に見返りを自分のため、彼らのために要求して認めさせた上で魔族達に命じた。
 その正面攻撃の中、七星の勇者達は裏手から回って、攻撃をすることとなっていた。大魔王軍の内通者からの情報から、裏手の手薄な場所から攻撃、突入する手筈だった。正面からの攻撃は、いわば七星の勇者達のための巨大な陽動作戦であった。狭い道を通り、絶壁をよじ登り、降り、何とかその場所にたった。七星の勇者とその従者、そして、精鋭の聖魔法騎士、約100人。
「大いなる力を我に、そして我らの強大な敵の…」
「熱き刃のような力を持って、我らに敵対する…」
 シルビアとフレッドが、長い詠唱を唱えていた、5人の後ろに立って。それが終わった時、2人から光の衝撃破が、高温の特大な火球が何発も放たれるのが見えた。大音響とともに、城門が周囲の城壁ごと崩れ陥った。正面の半分以下の厚みしかないとはいえ、2人の力に、戦闘力に劣る半面、一発攻撃の威力は勝ることをあらためてトーマス達は思い知った。
「さあ、2人に負けていられませんよ。突入します!」
 エカテリーナの言葉を受けて、彼らは突入した。
「私も行くわ!」
「僕もだ。」
 流石に力を消耗して、従者に支えられて立ち上がった2人は、そのままとどまっていることを拒否した。
「しかし、」
 トーマスは躊躇った。それを苦々しそうに見ていたマーガレットが、
「仕方がないわね。行きましょう。」
とシルビアに手を差し伸べた。
「あ…ありがとう。」
 シルビアは、少し驚いた。
「私が、助けないとトーマスがするからよ。」
 それでも、シルビアは嫌な顔をしなかった。
「後で、きっちり借りは返すわ。」
「きっちり、利子をつけて返して欲しいわね。」
「高利貸しよ、それじゃあ。」
 その時、
「早く行きますよ。愚図愚図しないで!」
 エカテリーナの叱責が来た。
「うるさいわね!」
 2人は息がぴったしで不平を言って、少しにらみあったが、直ぐに続いた。パラパラと守備の魔族の兵が、立ち塞がるように現れたが、チャールズの聖剣一閃で薙ぎ払われて倒れた。チャールズとその従者は、そのまま後ろを見ずに奧に飛び込んでいった。エカテリーナが、さすがに渋い表情を見せた。
「これに比べると、トーマスの方が、ずっと注意深いよ。取り敢えず、チャールズの後方支援をするよ。」
 カルロスがそう言って、後を追った。エカテリーナは、トーマス達と共に周囲を警戒しつつ、チャールズ達の後を追った。流石に、備えが薄いといっても、守備の魔族兵は次々に現れてくる。進む通路には、至る所に侵入者に備える施設があった。矢や槍が突然飛んで来たり、石が落ちてくる。そして、剣や槍を持った一隊が出てきて立ち塞がり、或いは横合い、後ろから襲ってきた。程なくして、包囲され、進退窮まったチャールズ達を見つけることが出来た。カルロスがいなければ、チャールズ1人になって戦っているところになっていただろうという状況だった。
「こんなことだと思いましたわ。」
 エカテリーナは、呆れたというような顔だったが、
「彼らを援護します。」
 トーマスとマーガレット達が、聖剣を抜いて突入して、チャールズ達を囲んでいる魔族兵と斬り結ぶ。エカテリーナ、シルビア、フレッドが魔法攻撃を城壁や櫓から攻撃してくる魔族達に向けて放つ。石弓、長弓を持った従者や騎士達も、それに習う。制圧が終わると、直ぐにチャールズ達はまた突き進んでいった。カルロスが、苦笑半分、面白がるのが半分の顔で、エカテリーナを見ると、視線を向けられた彼女は苦々しいという表情ながらも、首を縦に振った。カルロスは、“ご命令を受けましたから”という顔を皆に見せてから、チャールズ達を追った。
「先に行って。後ろから来た連中は、私とトーマスとで…それから、シルビアとで対処するから。」
 マーガレットが、エカテリーナに命じるように言った。
「付け足しみたいに言わないでよ!」
 シルビアは、文句を言ったが、エカテリーナは“何故、あなたが私に命令するのよ!”という顔だったが、文句は言わず、何とか怒りを抑えて、
「分かりました。後は委せますから、早く追いついて下さいよ。」
 去り際の後方への支援攻撃を皆にさせて、パラパラと出てきた前方の魔族達に向かって密集隊形を取って、向かって行った。
 彼らが魔族達を蹴散らしつつ、制圧して進んでいくのをチラチラ見ながら、トーマス、マーガレット、シルビアと彼らの従者、数名の正騎士達は、新手が次々加わる相手を次々倒していった。そして、完全に制圧し終わってから、新手がこないことを確認してから、エカテリーナ達の後を追った。
「貴方には、今日は失望しましたわ。明日は、自分勝手な行動を慎んで下さい!」
 二の丸の入り口付近の制圧した櫓の中で小休止している中、エカテリーナの厳しい叱責をチャールズが受けたのは夜半遅くになってからである。チャールズは、神妙に謝罪を口にしたが、その気はないとカルロスは言って、
「彼は、エカテリーナやマーガレット以上に野心家なんだよ、違う意味だけどね。ここで、最高の活躍をして、最高の栄誉を受けたいのさ。彼の政治力は疑問があるがね、当人はどう思っているか分からないけど、こうでもしないと、いやこうするしか自分にはないということは分かっているようだね。とにかく、上に行きたいんだよ。だから、エカテリーナの命令など聞かないさ、彼女も、今はライバルだからね。」
 共に、見張りをしているトーマスに解説した。トーマスが、返す言葉に迷っていると、急にニヤニヤしだすと、
「野心家のはずのマーガレットは、誰かさんの影響で、すっかり野心を捨てちゃったみたいだけどね。」
「は?」
 トーマスはますます返す言葉を失った。
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