第25話 メドューサの思い出12

文字数 3,370文字

 帝国軍の総攻撃に、革命軍が持ちこたえる力はほとんど残されてはいなかった。そのまま、掃討戦となった。その過程で、逃げる革命軍も、追う帝国軍も、村々を多少なりとも略奪していった。
 ゴセイは、自分の軍にそれは許さなかった。そのかわり、ボルト公領などで、村々や都市、帝国軍に不参加の領主等に戦費、物資の提供の要求を行った。ビスマルクから、あらかじめ許可を受けてのものだった。同時に、拒否すれば略奪するというものでもあった。それは、この地の、この世界の常識だった。
 マリアは旧ボルト公領南部の村々に、メドューサはボルト公に臣従していて、帝国軍に参加しなかった女子爵の元に、交渉に出向いた。
 マリアは、村々の代表者を集めて、抗議の声を無視して要求を伝えた。それは、相場から見れば、かなり少なめなものだった。それを指摘し、略奪にあったところの惨状を伝えた。その最後のところで、言葉は続けながら、無造作に剣を抜いて、振り下ろした。何もないところから血が吹き出て、暫くして床に倒れている4人の男女が現れた。更に振ると、後方で剣を握って起ち上がった4人の男女が血飛沫を上げて倒れた。
 “愚かな。この程度のやくざな不可視の魔法程度の使い手達が加勢した程度で、強気になったのか。”とマリアは心の中で舌打ちした。
「これは、誰が計画したのですか?」
 彼女は、微笑みを浮かべていた。それが一層の恐怖を、その場にいる者達に与えるものだった。
 誰も声を上げなかった。当然であった。彼女は無造作に、ある村の代表者達を指さした。
「では、犯人はあなた方ということにします。あなた方の村の全員を奴隷として売り、全財産は没収いたします。それは他の村が責任を持って行いなさい。実行しない村は、同様な措置を行います。それから今の決定を、あなた方が自分の村に告げなさい。分かりましたね。」
 ようやく我に返った彼らから、不満の声が上がった。
「もし、誰もが、どこの村も仲間にそのようなことをしたくないと言ったらどうしますか?」
 大胆なのか、頭が悪いのか、薄ら笑いを浮かべながら、立ち上がった一人が質問した。まるで、皆の期待を、希望を、力を一身に背負っているという風にも見えた。
「そう思うなら、考えているなら死になさい。」
 マリアの剣が一閃すると、その刃が届かない距離にいるにもかかわらず、その男の腹が切り裂かれ、血が噴き出した。それを避けようして、場が騒然とした。男は苦しそうに助けを求めた。
「同じ考えの者も同様にします。そのまま、その男にはゆっくり苦しんでもらいます。」
 その男には誰も見向きすることなくなった。男の救いを求めるうめく声を聴きながら、不満を言っても無駄だと分かって、慈悲を嘆願し始めた。
「では犯人は?言えないのなら、あなた方でしょう?どの村も否定しない、真犯人は名乗り出ない。だから、あなた方が犯人です。あなた方も、誰が犯人だとは言わない。決まりです。」
 嘆願の声を無視して、マリアはきっぱり言った。その村の代表者達は、苦渋の表情となった。しかし、そのうち、こうなったのは誰のせいだ!との叫びが心の中で上がった。
「あの村の連中が言い出したんじゃー!」
と一つ離れた村を指さした。
「違う!」
という声が、その村の代表者達はどうしてもあげることはできなかった。マリアは皆を見まわした。誰も声は上げなかった。
「分かりました。皆殺しにします。」
 マリアの声に、場内は静まりかえった。
「しかし、慈悲をかけてやりましょう。全財産は没収、全員奴隷として売り払うということにします。あなた方が、きっちりとやりなさい。もし、それが少しでもできなければ、相応の罰は覚悟しなさい。」
 さっき犯人に名指しした村の代表者達に指さして命令した。さらに続けて
「他の村は共犯ということですが、先にあげたものに増額することは、しないでさし上げましょう。ただし、自主的に、この悪事の謝罪をしなさい、それが満足のいかないものであれば、どうなるか。あなた方は、私を殺そうとしました。ゴセイ・ミョウ・ヨウ様にとって、私がどれだけのものか、よく判断しなさい。」
 そう言って、彼女は一方的に打ち切って去った。
 メドゥーサの方は、相手の女領主が、初めから好戦的な態度であったので、戦闘になった。魔道士達が10数人いたが、鎧袖一触だった。砦にいた者は皆殺しになった。もちろん、女子供も同様だった。彼女の財産、物資は全て没収となった。さらに彼女の領内の彼女の関係者は全員処刑し、彼らの財産は没収して提出するよう、村々の代表者達に命令した。
 2人の措置は、この世界では、特に残忍なものではなかった、いや、かえって寛大であると確実に言うことができた。
 その2人が、ゴセイの前に競うように帰ってきた。念話で全てが伝えられてはいたが。着いてみると、彼の脇に、縛り上げられた数人の女達がいた。
「なんだい?このこぎ汚い女達は?」
「お前達を殺しただけでは、私が怖いから、懐柔のため送ってきた女達だよ。」
 関心がなさそうに、ゴセイは答えた。2人は疑わしいといった表情で、
「ゴセイ。後はリリスの分しか残っていないからな!」
「如何するお積もりですか?珍しいことですが、メドゥーサと意見が一致しましてよ。」
 ゴセイは、面白そうに微笑んで、
「あいつらの世話役と思って、直ぐに殺さなかったんだが、汚れそうだから、止めることにしたところだ。好きにしろ。」
「ちょっと待ちなよ!そんな臭い、男女よりあたいの方が、ずっとあんたを喜ばしてやるよ。」
 女の中の一人が叫ぶように言い立てた。ふくよかな男好きのする体の若い女だった。ゴセイは女の頭から足先まで見てから、メドゥーサとマリアを見比べるように見て、素っ気なく背を向けた。直ぐに、後ろから、阿鼻叫喚の声が聞こえてきた。
「ダンナ。いいんですか?なかなかいい女もいましたよ。」
 古参の大柄な髭面の戦士が耳元で囁いた。
「何人でも相手は出来るが、4人になると寝る、考える、食べる、風呂に入る、戦う、命令する時間がなくなるからな。」
 何人でも、というゴセイの言葉に彼は呆れながらも、
「3人って、今は2人、ああ、リリスの姐さんですね。でも、毎日、順番で一人を相手にすれば、7人はもてますよ。」
「ああ、それは、思いつかなかったな。」
 ゴセイがあたかもうっかりしていた、思いつかなかったという風に言ったので、つられて彼も笑ったが、同時に、両肩に痛みを感じた。
「何か言ったかな~。死にたいかな~、そんなに。」
「よく聞こえなかったのですが、もう一度言ってくださいませんか?死ぬ前にね。」
 メドゥーサとマリアが両脇に立って、彼の両肩に手を置いていた。覗き込む顔は、まだ血を欲しているかのようだった。彼の顔から、すーと血の気が引いた。
「冗談ですって~。姐さん達程の美人は、この世にいませんから。」
 2人がそのまま、ゴセイを追って行ってしまうと、彼はその場にへたり込んでしまった。 
 ゴセイは、戦費の調達、戦場の整理、捕虜の訊問など戦いの後始末に、数日間追われ、さらにボルト公の妻子の出立の世話までさせられた。彼の革命軍との取引、さらに彼亡き後、彼の正室が革命軍に内通、協力を続けたことが明らかになったものの、彼の妻の実家が有力諸侯であることから、彼のまだ幼い正室の息子に、辺境に領地を与え、彼の母、義母、異母兄弟姉妹も罪を問われず、同行することを許された。復讐の視線をヨウに向ける彼らを、丁重に送りだした。ボルト公の旧領地の大部分は、帝国領とこの戦いでの功績の、というか参加した貴族、騎士達に与えられたが、ヨウには、あくまでも一部のみしか与えられなかった。
「全くケチだよ。あの小僧皇帝は。」
「面倒な連中がいる場所ばかり、しかも。」
 湯に浸かりながら、メドゥーサとマリアは文句を言った。2人は、左右からゴセイに、しっかり寄り添っていた。
「彼や彼の側近だけで決められないから、仕方がないさ。2人には、しばらく面倒をかけるがよろしく頼むよ。」
 2人の顔を交互に見て微笑んだ。
「仕方がないな。でも、その前にさ、久しぶりにベッドで、たっぷりと。」
「私が、たっぷりと、楽しませてさし上げますわ。」
 彼は、2人の目が睨み合っている中、2人を抱き締めた。

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