第34話 大魔王を倒して

文字数 2,330文字

 大魔王が倒されたという叫びで、直ぐには戦いは終わらなかったが、次第に魔族達は後ずさりし始め、そのうち算を乱して逃げ出した。強行突破しようと、向かって来るものもいたが、敢えて手出しをしなければ被害はなかった。功に焦って、或いは戦いの興奮に、残っている恐怖感から、魔族への憎しみのため、その敢えてを行う者、命じる者がいて至る所で戦いが生じた。また、戦術的に当然であるが、掃討戦を始めた部隊もあり、それを行った部隊は、さらにもうしばらく戦闘を行うことになった。
 七星の勇者達は、大魔王を倒したという自覚がでてくるまで時間がかかったが、終わったという脱力感でトーマスとマーガレットは、そのまま崩れるように座りこんでしまった。マーガレットはそのままトーマスにしなだれかかったが、シルビアがどうやったかはわからないが、トーマスに飛びついてきた。睨み合う2人だったが、それ以上のことは、体力が残っていなかったのでできなかった。カルロスは大声をだして
「あ~、」
 座りこんだ。フレッドも座りこんでいた。チャールズは、
「おれがやったんだ。」
と口にするだけだけで、剣を杖代わりに立ち上がろうとするものの、体が動かない状態だった。エカテリーナだけがしっかりと立っていた。しかし、みんなに指示をあたえられる状態ではなかった。
 ヨウ達が、水や回復剤を渡してもまわり、倒れている勇者達の従者達に回復魔法や応急措置を始めた。
 その後の掃討戦が終わり、周囲の警戒が終わるとささやかな祝勝会が始まった。本番はもどってからだったが。
 予備の食料と少ないが酒が出て、兵士達は生きていることを実感し、その幸福感を味わった。その喧噪の中、トーマスは、マーガレットとシルビアに引っ張り出され、彼の天幕に連れて行かれ、中に入ると2人に押し倒された。直ぐに、裸の3人の組んずほぐれつが始まり、その声が周囲に響いたが、喧噪の中にかき消された。それに、そんな声はここかしこから聞こえていたから、心ある者は、聞こえないふりをした。3人がいないことを心配するフレッドに、カルロスは意味ありげな、妖しい笑いを浮かべ、自分の唇に人差し指を押しつけた。エカテリーナは、ボッカッチオ達と今後のことをしきりに尋ねていた。チャールズというと、しきりに、周囲に大魔王を倒したのは自分であることを強調してまわっていた。
 その頃、同盟軍でもある魔族達も、別のところで宴を開いていた。大魔王軍の離反者、内通者達はもちろん、対立していた2部族も思いは複雑だった。それだけに、より騒ぎが大きかった。
 その彼らを、ヨウと彼の兵士達が、監視していた。食料と酒を少々は配ったが、あくまで祝勝会はお預けとしていた。魔族達への警戒と、大魔王が、いなくなり、いらなくなった彼らの殲滅なぞ考える輩がでないためでもあった。
「そんなことするかな?」
 メドゥーサは、酸っぱくなりかけのワインを口にしながら、疑問を口にした。そのワインの味に顔をしかめたマリアも、
「これから役に立つものにそんなことを?」
「上の連中は分かっていても、下の連中は分かっていない場合もあるさ。賢こ過ぎる奴も、それが分からなくなる場合もあるさ。」
 二人は、少し疑わしそうに、彼に寄りかかりながら、彼の顔を見上げた。
 彼は、ワインを一気に飲み干した。その時、
「三グループが、武装してますが少人数です、魔族を窺っていますぜ。」
 聖騎士崩れと分かる男が耳打ちしてきた。
「パウロ。お前達だけで、やれそうか?」
「見たところ、10人ばかしいれば、防げそうですが、つまり30人ほどになりますか、掛ける3で。」
「分かった。連れて行け。人選は任せる。ただし、まずは様子を見ろ、魔族達を襲うのが確実になるまで攻撃はするな、それに無理はするな。危なくなったら退け。そして、私を呼べ。」
 パウロは頭を下げると急いで駆けていった。
「エルフも、変な動きをしてますよ、ダンナ。」
 ユダだった。相変わらず、長キセルをふかしながら、面倒くさそうな口調だった。
「必要な人数を連れて、様子を窺っていろ。後の判断はまかすが、手に負えないと分かったら、私を呼べ、いいな?」
「あいよ。」
 背を向けて、体を微かに揺らしながら歩いて行った。
「あいつらだけで大丈夫でしょうか?かなり加わるかもしれませんよ。」
 マリアが一応心配顔で尋ねた。
 2人が見たのは様子見の連中だった可能性もあった。もしそうなら、様子をうかがっているものがいれば思いとどまるかもしれないとゴセイは思った。
「殺しがいがありそうなくらい増えてくれならいいな。」
 メディアだった。
「その時は、出て行くから準備しておけ。ことによっては、一部族ごとあるいは、一国の軍ごと潰すこともあるかもしれないが、まあ、許可は取っているからな。センリュウも頼むぞ。」
 後ろに控えて、杯を傾けていたセンリュウは、無言で頷いた。
 その夜、結局、部族や国まで拡大させなかったが、かなりの人数を殲滅することになった。
 事前に言質を取っていたが、ヨウの行動に反発する者は多かったが、いち早く、王侯貴族族長の集まりに駆け付けたエカテリーナが、ヨウの行動を擁護したことから、七星の勇者の言だから、ということもあって、おさまった。実際は、ヨウの説いた魔族を残す利点を理解しているのが本音ではあったのだが。
 その後、敵対する残存する大魔王軍残党の掃討、ヨウが主体になって行われ、彼等が仲介となった、3魔族勢力のそれぞれの国家が魔大公国として建国した。
 大魔王を倒してから、1ヶ月後、全ては終わった。一応の平和が来たのだ、この地方に。
 七星の勇者達の伝説は、記録に3回残ることになり、さらに強固なものとなった。
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