第3話 13000対38 2

文字数 3,055文字

 ゴセイ・ミョウ・ヨウは、退却していく大魔王軍が、次第に離れていく姿を睨みつつ、部下の何人かに戦利品あさりを命じ、ダビットに、大魔王軍が破れ退いたことの報告と荷車、労働者を出してもらうこと、自分達への食事、休息、仮眠場所の提供をしてくれるように、今暫く大魔王軍の逆襲、今のところ統制がとれているようではあるが統制が乱れてばらばらになった魔族の徒党の略奪も警戒する必要があるので、市の民兵等に翌日の朝まで警戒体制を取るようにしてほしいことを要請した。
 ダビットは、この大勝利に興奮しつつも、彼の申し出が問題ないと判断して、伝令役の家臣に、そのことを命じて走らせた。彼すら興奮していることが分かった。かなりたって、やって来た荷車に、一緒にきた人夫達に手伝わせて、取りあえずの戦利品を積み込む。彼らは戻ると、用意されている食事をほうばり、酒も用意されていたが最小限にとミョウ・ヨウは命じたので、コップに一、二杯しか飲まなかった。
「何かあったら、すぐ知らせてください。何時でも飛び起きて参上しますから。」
と彼は約束して、仮眠のため急遽あてがわれた宿に入っていった。
 その夜は、義勇兵が交代で番をしたが、幸いなことに何事もおきなった。
「しかし、ヨウ殿は、まあ、お元気でしたな。あれだけの傷を負い、激しい戦いをした後で、あの二人の女性、メドーサ殿とマリア殿を相手に夜のベッドの上で、また合戦をなさったのですからなあ。まあ、そこまでは見ていた者はおりませんが、あのお二人が競い合うようにして下半身の武具を、その下と一緒に脱ぎ捨てて、彼の仮眠する部屋に飛び込んでいったのを見た者が何人もおりましたのでね。まあ、あれだけの美人ですからな、元気にもなりますかな。」
 ダビッドは、にやにやして付け加えた。ボッカチオがたしなめる視線を送り、カサンドラが真っ赤になりつつ咎める視線を送っていた。七星の勇者の大半はぽかんとしていたが、カルロスだけがにやにやして、トマスに
「マーガレットとシルビヤに置き換えて考えればわかるよ。」
と囁いた。トマスは、その通り想像してしまい、真っ赤になり、カルロスはそれを可笑しそうに笑って見ていたが、マーガレットとシルビヤから蹴りをいれられた。トマスは、やはり真っ赤になった二人から頬をつねられ、その後、手をきつく握られた。そして、二人は、トマスを挟んでにらみ合った。
 翌日、ヨウは一番早く起きてきて、市長達と報酬について交渉を行った。その報酬には、市長も、評議会代表も驚いた。大きすぎるのではなく、少なすぎたのだ。少なくはないとはいえないが、大量に発生した戦利品があるのだから、慣習通りの比率としても、それだけでもかなりなものになるとはいえ、それを換算して想定していた直接の報酬額の最低限をかなり下回った。市にとっては願ったり、かなったりではあったが。さすがに、それよりも低い、例えば働いた日数の一般労働者の日当分で、などと言うのはあまりにも非礼で言いだしはしなかった。そういう主張もあったのだが。そういうわけで、交渉はすぐ終わった。その時、土地が瘴気で汚染されているので、住民は苦しんでいると声高にいう者がいた。あわてて、市長達がその男を取り押さえさせた。日当×日数分の支払いでいいという主張をし、今日の市の代表から外された評議員だった。彼はヨウのことを、口汚く罵った。彼はここで市民のために行動したことをアピールしたかったらしい。このやり取りを耳にしたヨウから、瘴気の除去と浄化の提案があった。またしても市長一同は驚いた。半信半疑ながらも、できるものであればということで、結果をみてから報酬の交渉という彼からの提案もあって承諾し、彼に正式に要請した。彼は、その頃には彼の側い寄り添っていたメドーサとマリアに、
「力が半分は残る程度にやれ。」
と耳元で囁いた。
「いや~、この時も驚きましたね。朝食を取ってしばらくして、市の中央広場で、まずメドーサ殿が小一時間で市内と周辺の農村地帯、半径10km弱の瘴気を一掃し、マリア殿が同様に大地はもとより、地上、その上まで浄化してしまったんですから。その時になっても半信半疑、四方に使者を送って確かめましたとも。すぐに確かめられましたよ。本当でしたよ。まず驚きでしたね、それから嬉しさがこみ上げてきましたよ。農民達の喜びようったら、表現の方法がありませんよ。流石に、あのお二人も終わった直後はかなり疲労した様子で、椅子にぐたっと座り込みましたよ。ヨウ殿が二人に感謝すると、競って甘えて、ヨウ殿も周囲の目も気にしないで、それを許していましたね。全く。」
 ダビッドはまた愉快そうに笑った。ボッカッチオ達は、呆れるしかなかった。 
「それだけ嬉しかったということさ。」
 カルロスが呟いたのをトーマスは聴いた。
 報酬の交渉は明日になっているが、少し怖いともダビッドは言った。
「七星の勇者様方なら、このくらい簡単におできになられるものでしょうか?」
 つぶやくように付け加えた。値切る、報酬を拒否する理由に、もしもの時使えまいかという考えがあったのだが、どちらにも非礼であることを思い出し、それ以上は言わなかった。
 この交渉が明日になったのには訳があった。彼は、既に偵察隊をだしていたが、彼らから魔族の軍数百が近づいているとの報告が入ったからである。メドーサとマリアが自分達も加わると言って聞かないので、その魔軍を待ち構えて叩くことにした。二人を少しでも休ませたかったからだ。市にも連絡を取ったが、当然市の方も残っていた傭兵や義勇兵らも加えて戦うように指示がでた。ゴセイはそれに同意したが、傭兵達が功を焦って自分達だけで戦った。そしてほとんど全滅だった。その後、ゴセイとその部隊と遭遇した魔軍は壊滅した。
「13000という数が正しいかどうかは、どちらとも言えませんが、昨日、今日で魔族が身に着けていたものをはぎ取ったり、牙など売れるものは取った所ですが.魔族の死体は6000を下らないというのが実感ですね。そういうことですから、13000というのが過大に言っていることだとは、とても思えませんですな。」
ダビッドは、ヨウ達とともに行動した関係上、市長も彼らに”まかせて”大魔王軍を撃退したのであるから、彼らに好意的になりがちであるから、話は割り引かないとと七星の勇者達は当然に考えた。実際、彼らが市長宅を出ると、待ち構えていた、市の評議員代表と名乗る3人の男女から”陳情”を受けた。ゴセイ・ミョウ・ヨウの一派は、瘴気を浄化すなどという言って市から多額の報奨金を詐欺しようとしている。七星の勇者達で本当に瘴気の浄化をして、彼らの罪を明らかにしてほしい。3人は年齢も、身分もバラバラであったが、真剣そうには見えた。長々と同じ話を繰り返したので、マーガレットが口を開こうとした時、エカテリーナが素早く、
「しっかりと聞かせていただきました。」
とピシャリと言って終わらせた。マーガレットがまた彼女を睨んだ。トマスが肩に手を置くと、表情が和んだが、今度はシルビアが睨んだ。
 この時、ダビットから、エカテリーナに、ヨウが瘴気の除去、浄化と今日の戦いの報酬の要求のパピルスが渡された。先程届いたという。明日交渉するのだが、そこにはメドーサとマリアへの特別報酬、高いと言えば言えなくもないが、成果に比してあまりにも控えめであり、今日の戦いの報酬は特別とはしているが、人数分の1日分の日当に過ぎなかった。
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