第27話 大魔王城に進む

文字数 2,841文字

 数日後、集まっただけの兵を率いて、七星の勇者達は大魔王城に向かって出陣した。場所は、ミョウ・ヨウからの情報だった。2人の魔王とその家臣達から聞きだしたのだろう。ボッカチオの報告では、2人の魔王とその配下とゴセイ・ミョウ・ヨウとの交渉は上手くいったとのことだった。主立った魔族の貴族、重臣などを、両部族を一カ所に呼び集めた、前にして魔王達を後ろに従えて、格下の同盟と条件などを伝えた。もちろん、猛反対で騒然となった。敢えて反対する連中を挑発し、襲わせた。ゴセイ他10名足らずしか、人間側はいないのであるから当然だったし、この機会に魔王の地位をと狙っている連中などは積極的に動いた。多分、先の敗戦の責任をとらせ、現魔王を退位、そのために当然処刑を前提として、を迫るつもりだったろう。
「あれだけの高位の魔族を…、ほとんど一方的に…、今考えても信じられません。」
 彼の監視役の皇帝の近臣は、震えながらボッカチオに語ったと言う。
 何人かは、回復魔法で命を助け、その上で、格下の同盟が決定されたものだと伝え、その利点を朗々と説明した。人間と協力して、敵対する魔族から自らを守る、逆に倒すことも可能だととも言ったという。最早、反対の声はなかったという。
「全く残酷な、情けも知らないのか、あいつは。」
 リチャードが、罵るような、その話しを聞いて言った。トーマスは、珍しく彼の言葉に同感だった。シルビアも同感という表情だったが、マーガレットは、
「最小限の犠牲で目的を達したということよ。彼の手腕を評価すべきだわ。」
 複雑な表情だった。そもそも、彼らと共存することが根底にあるのだから、彼が殺戮をしているわけではないことは分かるような気がした。
「どうすれば、魔族を殺さずにできたかな?戦い、殺すことしかしてこなかった俺にはわからないがね、どうだい?」
 カルロスが言ったが、その通りだとも思った。エカテリーナは、何も言わなかった。トーマスにも、彼女の関心がもっと先に移っていることが、何となく分かった。ちなみに、シルビアとマーガレットの態度は元に戻っていた。
「でも、魔族達も要求はしたいのではないですか?」
 ふとトーマスが口にした。カルロスとマーガレットが感心したように頷いた。エカテリーナは、余計なことを、後で自分だけが聞いておくつもりだったのに、という顔をして、少し睨んだ。もちろん直ぐに微笑んだが。
「それなのですが。」
 ボッカッチオが唸るように口を開き、説明を始めた。ヨウは、魔族のための要求をしていたし、その受け入れを約束しない限り、交渉役は引き受けないと言って、同意を取り付けていた。感心するトーマスと、思案顔のカルロスとマーガレット、そしてエカテリーナは少し焦るような、悔しいような、不満そうな顔をした。シルビアとフレッドは分からない、チャールズは無関心だった。
「それから、」
 ボッカッチオはさらに続けた。ヨウは大魔王の配下とも交渉を持って、彼らも取り込むことに成功したという。彼らも含め、3魔族のグループを味方にし、大魔王打倒後は人間亜人と共存、連合する、個別にということだった。
「分割して統治か。」
 エカテリーナとマーガレット、カルロスは、まず、それが頭に浮かんだ。“どう統治するかだな。”
「魔族の領土に、人間、亜人もいる都市を作って…、そこに進出すれば…。」
 トーマスは、商工業者の進出が頭に浮かんだ。
「そう上手くいくのかしら?」
 シルビアは、疑わしいという顔を向けた。
 各国軍が次々に加わってきた。そして、顔に見覚えがある魔族、魔王達である、を先頭にした魔族の二つの集団が加わった。大魔王討伐軍は進んだが、ヨウ以下100名程の一隊が彼らを待っていた。事前に先行して、伏兵、罠がないかを調べ、また、情報収集を行っていたのである。降った大魔王の配下の情報を鵜呑みにできなかったし、皇帝の近臣がヨウ達の監視のためにその100名の中にいた。
 その彼らの話しでは、度々大魔王軍と遭遇し、それを壊滅させたという。
「鳥肌が立ちましたな。」
 ボソッと言って説明を始めた。
 人間達の兵団が侵攻してきているという情報を得ていたのであろう、索敵隊などがいて、それに何度か遭遇した。また、帰順派ということで接触した魔族の一族が裏切って、彼らのことを通報をしたために襲撃を受けたことも一度ではない。帰順派に対する討伐隊と戦闘を交えたのも、何度かあった。相手は、500~3000くらいだったが、ほとんど一方的に撃退したという。
 トーマス達は、大魔王が直接率いる13000の軍を30数人で、ほぼ壊滅させたことなどを知っていたものの、やはりゴクリとつばを呑み込んだ。
「それで、大魔王城に籠もることにしたのか。」
 ゴセイ・ミョウヨウ達に大敗しただけでなく、その直前に七星の勇者達に数千の軍を撃退されている、それが陽動作戦であろうと、打撃は少なくはないはずである。本来ならば、敵対する二つの魔族の部族が人間達と戦うことで互いに痛手を負うことで、一休みできるはずが、人間達の損害がさほどではなく、まして、敵対する魔族達が人間達と連合するとは全く予想外であった。しかも、内部から離散どころか、人間達・魔族連合に加わる者が出てきたのである。さらに、次々に大小各軍が壊滅させられたのだから、起死回生のため、兵力を大魔王城に集中して籠城するしかなかったろう。一か八かの決戦を挑むという選択もあるが危険すぎる。十分な準備の上で、籠城し長期持久戦に持ち込み、疲弊して退却をする際に追撃することで、壊滅させることが出来れば、戦局は一気に逆転できる。
 トーマスの言葉に、マーガレットが頷いた。シルビアは、そうなんだ、という顔だった。“マーガレットの雰囲気が変わったな。”カルロスがニヤニヤして見つめた。エカテリーナは、彼女が口を挟んでこないのを不思議に思ったが、
「それでは、籠城戦を選択したらしいということですね。こちらも攻城戦のための準備を十分にしないといけませんね。長期戦も覚悟しないと。」
 総指揮官のように言う彼女を、ほんの少し不快そうに、半ば心配そうに、半ば感心しながら、ボッカッチオは、“各国王侯貴族将軍達の前では、差し出がましいことは言わない賢い王女様だからな。あちらの方は、全く心配がなくなったな。”と温かい視線も送っていた。
「もちろん食糧や水の補給も忘れて欲しくないな。それが焼き討ちされないようにもね。」
 カルロスだった。
「寝て、休息する場所の確保も。寝袋が必要だし、長期にわたって外で寝袋でというのも…。」
というトーマスの言葉にカルロスが直ぐに反応して、
「その通りだよ。トーマスには、いつも突っ込まれるな、隙を。」
 カルロスは、してやられたというように笑った。
「後方のことを忘れてはなりませんね。」
“あら、また。すっかり毒気を失ったのかしら。”エカテリーナはマーガレットの方を見たが、彼女は“なに?”という顔だった。

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