第15話 メドューサの思い出2

文字数 3,331文字

 ポーラン帝国軍の目的は、南部地帯での魔王軍の侵攻を撃破することであった。ようやく即位した皇帝フランドル7世は弱冠14歳、彼の権威を高めるために、南部地帯の諸侯からの要請に応えて、魔王軍との戦いに勝利する必要があったのだ。傭兵隊に加わったゴセイとメドューサの戦いは、傭兵内部の勢力争いから始まっていた。誰が、どの隊が、席次というかの、どのランクになるかで、給料の配分の際の余沢にありつけるかということが、重要だった。より強い隊が、より強い者がいれば、その隊は、それを率いる者はより高い地位になれる。それを証明する、示すために、日々内部で闘いが起きた。回避することも可能だったが、回避した側が敗者、弱いと判断され、色々と彼らの属する隊全体が不利益を押しつけられる。
「もう止めるとか、降参だなんて言わないよね。僕にさ、あれだけ大口叩いたんだからね。」
 返り血を浴び、ライオン系の獣人と牛系の獣人の体に腕を貫いて、心臓を握りつぶしていたメドューサは、残忍な笑い顔で挑発した。既に他に獣人5人が息絶えて、彼女の後方に転がっていた。獣人の女が二人と魔道士の女が一人、残っているのは、彼女の前には、その3人だけだった。チラッと後ろに目をやると、
「あ~あ、ゴセイの方はもう片付いたらしいな。僕も、早く片づけたいけど、いいかな?」
「うるさい!この売女!」
 女魔導師は、渾身の爆裂魔法を発動した。メドゥーサはそれに、2体の獣人の死体を盾のように差し出した。死体は四散した。しかし、それでも、当然、彼女にも届くはずだった。が、彼女は何ともないようだった。
「ひいー!」
と魔道士の女は腰を抜かして、座りこんだ。獣人の女二人は、逃げ出した。が、彼女らの目の前にメドューサがいた。二人は、瞬時に身体を強化して、攻撃に備えた。が、彼女の魔法攻撃で焼けただれて地面に倒れた、勿論絶命して。
「じゃあ、最後に小水を洩らした年増の小娘を肉片にするかな。大丈夫、ゆ~っくり時間をかけてやってやるからさ、感謝していいよ。少しだけでも、長生きさせてやるんだからさ。」
 三十前に見える容姿がそのままの年齢の魔道士は、20代前半にしか見えないが、メドューサからみれば、小娘でしかない。
「止めろ、メドューサ!」
 ゴセイの制止は間に合わなかった。もう半ば肉片化しつつあった。
「仕方がない。こっちの奴を生かしておくか。弄んでいないで早く終わらせて、回復魔法を手伝ってくれ。」
「え~。分かったよお~。」
 戦いのたびに、相手側のこれはと思う連中を、一人か二人は生かして配下にしていた。
「次はもっと手応えがある奴らだといいね。」
 回復魔法を二人でかけながら、メドューサが言うと、
「さすがに、これで終わりだろう。」
「え~、どうして?つまらないな。」
「そろそろ魔族との戦いが逼っているからだ。魔族との戦いは、さすがに気が引けるか?」
「何を今さら。ぞくぞくしているよ、あいつらを殺せるかと思うと。」
 楽しみだという表情だった。ゴセイには、それ顔がひどく可愛いものに見えた。
 ゴセイ達が所属していた隊の隊長は、傭兵団のトップクラスの幹部となっていた。全ては二人のお蔭である。ただ、ことさらゴセイは、恩着せがましいことは言わなかった。報酬が増え、配給される食事が良くなったことで満足していた。別にここで階級をあげたいとは思ってはいなかった。“あいつらは違うようだが。誰かと連絡を取っているようだが。”
 皇帝とその本隊が、到着した。魔軍の軍と、その直後衝突した。偵察にでていたら、同様に偵察にでていた魔軍に遭遇した。相手は100名。やり過ごしてもいいか,と思ったがメドューサが飛び出した。ゴセイは彼女に続いた。たった二人の襲撃に、魔族達は油断していた。次々に仲間が死ぬのを見てから、ようやく目の前にいる二人が容易ならざる相手だと戦慄したのである。
しかし、もうその時は遅かった。一人を除いて全滅した。このことが,皇帝の耳に入り、謁見を許された。金貨と“暖かい”お言葉をもらった。短時間の顕彰でその場を引き下がった。その後だった、大変なことが起きたのは…。
「ヨウ様、大変です。兵士達が、いなくなっています。」
 命を助けられたために、彼の臣下にならざるを得なかった女騎士が、息せき切って報告に来た。ゴセイもメドューサも、既に感じていた。人の声が少ない。夜も更けている、本来なら明日に備えて寝た方がいいが、そんなことが出来る連中は少ない。遅くまで酒を飲み、騒がしいのが常識である。明日死ぬかもしれないのだから当然ではあるが。そして、彼が属する隊も、見当たらなかった。
「どうだ?メドューサ。」
「急ぎ足で後退しているよ。それ以上に不味いよ。」
「有力諸侯の軍も引き上げているのか?」
「よく分かったね。その通りだよ。本隊は半減、これに気づいた連中も、慌てて逃げるだろうから、どのくらい残るかな?」
「1/4なら奇跡だろうよ。おい、みんなに手をまわして、残った傭兵達を出来るだけ集めろ。私は、皇帝と話しをつけてくる。」
 女騎士に命じた。彼女は、急いで駆けだした。
 皇帝の所には、衛兵達を蹴散らして乱入するように強引に進み、
「一大事であります!陛下にご報告いたしたい!」
と叫びながら、謁見を強要した。近臣、近衛兵を連れた、まだ幼さが残る金髪の髪の皇帝が現れた。
 “近衛隊長もいない、近臣達も少ない…か?”跪きながら、上目遣いで数えた。彼がことの次第を話すと、皇帝は言葉もでない状態になっていたから、近親達は、暫くは何かと理由を言って否定しようとしたが、
「近衛隊長がいないのはどうしたわけか?」
「来ていない連中は、アーロ家、ウス家の者!」
 両家は、帝国内の有力諸侯であり、皇帝の近臣には、両家から何人かが来ていた。実家から事前に情報があり逃げたのだろう、或いは呼び出されたのだろう。ざわざわとし始めた中に、駆け込んで来た者がいた。話題になっていた一族に属する近臣の一人だった。何となく、安心感が広がった。彼らの離反はないのではないか、と思いたかったのだ。彼は皇帝の前まで来ると、土下座して、涙を流しながら絶叫するように報告した。
「申し訳ありません!皇帝陛下。わが父が、む…謀反を起こしましたー。魔族と結託し、軍を引きあげ、陛下を見殺しにするつもりです!」
 雰囲気は、一転した。如何するこうするで謁見の間は騒然となった。
「各々方、何を狼狽えておられる。魔族の攻撃はもう間近です!残った兵をまとめ、迎え撃つだけです!少数でばらばらに退却すれば、待ち構えている謀反人の兵に討ち取られますぞ。残った傭兵達を集めております!魔軍を撃退し、返す刀で謀反人どもを討つのです!」
「そ、そんなことができるのか?」
 年配の近臣の一人が不安そうに言った。
「私には自信があります。皆様のお力を借りられるならば、必ずや、この難局を解決いたしましょう!」
「たかが一介の傭兵が。」
「それなら、卿が指揮していただければよろしい。」
 “はったりも強引さも仕方がないな。”
「あいつ、最初からこのための手先だったんだな。やけに、僕達と戦うことを煽りまくっていたわけだ。」
 傭兵の中で影響力を強めて、出来るだけ多くの数を、一斉に、気づかれずに引きあげることを狙っていたということだ。
 不安そうに集まって来た傭兵達の前で、ミョウ・ヨウは、
「皇帝陛下を、魔王軍に殺させようという陰謀に君らは巻き込まれた。多くの兵が、諸侯の軍が既に逃げ出している。このまま、慌てて逃げても、追撃され、又は、待ち伏せられ、9割が殺されよう。だが、私と共にまとまって戦えば、半分以上が生き残り、魔王軍も、謀反人も撃滅できる。私とメドゥーサの力はよく知っているだろう。ほぼ確実に死ぬか、私と共に戦い、勝利し、より多くの報酬を受け取るか、諸君は選ばなければならない。当然、後者を選べ!」
は叫んで訴えた。彼の配下になっていた者達が彼に呼応したのに引き摺られ、全員が呼応した。皇帝を守る方陣で、魔軍に対する側の正面には、ゴセイとメドゥーサ、そして、皇帝の近衛兵が、50人配されていた。
 斥候から、魔族が、動き始めたとの報告があった。
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