第21話 メドゥーサの思い出8

文字数 2,108文字

「ビスマルク様。お待ちしておりました。」
 ミュウヨウは、皇帝の信任の厚い、かつ、帝国高官のビスマルクが、将兵400名を率いて到着したのを、丁重に迎えた。
 革命軍が、対峙していた大諸侯2人に対して大勝利して、ボルト伯爵領に進出したため、皇帝はその撃破のため、大動員令を帝国内の全諸侯、貴族、騎士に発し、その指揮をビスマルク公に命じたのである。当然、ビスマルク公と400名の後に、続々各諸侯等の軍が続いているということは、全くなかった。革命軍が迫って来ている地域の諸侯、貴族達はそれなりに参陣してきたが、そうでない地域の諸侯等は皇帝に忠実な諸侯が少数ながらも兵を送り出したものの、そうでない諸侯達は、その準備すらしない状態だった。そのため、帝国軍の過半を、領地を追われた諸侯達の兵とミョウ・ヨウの兵が占めるという、異常事態となった。総勢1万程度、対する革命軍は約5万人とされていた。ただ、時間がたてば、帝国軍は増加する。一部の諸侯、貴族は準備が終わり、追加の部隊を送り出しつつあるから、それを見て、兵を出し渋っている諸侯達も、流石に、対面上、立場上、今後のことも考えると、兵を出さなければと思うようになり始めているからだ。そのことは、革命軍も分かっているはずである。かといって、防御に入られたら、約5倍の兵力差といっても、短時間で壊滅させられるかどうかはわからない。先日の勝利も、ボルト伯爵領を進行して、背後から奇襲ができたためである。これでボルト伯爵の罪状が確定されたわけであるが、彼の仇を取れるなら、という彼の妻妾達の作戦だったということが後に判明している。だから、彼らも決戦を回避したいという気持ちだった。そのため、皇帝と話しをしたいという要求が、革命軍からきたのだ。
「やはり、わしが行かねばならぬのか?」
 ビスマルクは、小柄だが威厳と力強さを感じる男だったが、いかにも、嫌だ、という表情でミョウヨウを見た。
「あいつらと同じ土壌に立つ必要はないかと。まずは私が行き、連中を品定めしてもよろしいかと。まあ、私が行っているうちに、戦端が開くでしょうが、多分。」
 ビスマルクは、一旦はホッとした顔になったものの、直ぐに表情を曇らせて、
「お主がいなくなっては、お前の部隊の指揮はどうなるのか?」
「メドューサにさせます。」
「おお、メドューサ殿ならば大丈夫だろう。」
 集まった諸侯、騎士達への説明は、マリアが行った。彼女の顔と体に目が行きがちであったが、だれもが、ふんふんと頷いていた。“流石は、元戦いの女神だな。”左翼にゴセイの領地、近隣の騎士領の兵隊達。ゴセイが呼び集めた傭兵隊からなっていた。それが約1千5百。中央にビスマルク公の400名の兵を中核とする3千人。右翼に各諸侯軍5千人。
 革命軍は左翼二万、中央二万、左翼一万人。ただし、神族の半数以上が、その黄金人等とともに右翼に配されているらしい。
「どいつもこいつも、僕達を死なせたいらしいよ。」
 吐き捨てるように、メドューサが言った。
「革命軍の右翼を潰せば、奴らは慌てて前へ出るさ。」
 ゴセイも吐き捨てるように言った。
「そんなに上手くいくかい?大暴れはしてやるけどさ。」
 少し呆れたという調子の彼女を、ゴセイは肩に、腕をまわして引き寄せて、耳元で、
「何とか、中央で暴れ回ってチャンスを作る。私のことは心配するな、マリアとビスマルクを何とか守ってくれ。しかし、それが困難だと思ったら、おまえ自身とマリアの安全だけを確保しろ。それも困難だったら、お前だけで生き延びろ。そのためには、何を犠牲にしても構わん。」
と囁いた。メドューサはニッコリとして、
「分かったよ。出来るだけ、革命軍などは蹴散らしてやるよ。」
 ゴセイは、マリアだけを連れて革命軍の本陣に、馬にまたがって向かった。革命軍側から、マリアを、ボルト公の軍の神族と戦った神族の女を連れて来るように要求があったからである。陣地の歩哨に誰何され、名と用件を告げるとしばらく待たされ、中から出てきた一隊に囲まれ、その指示に従って奧に進んだ。大小様々な天幕、ところどころに設けられた防御施設の合間を雑多な姿の兵達が歩き回っていた。革命の情熱に、理想に燃える顔は見当たらなかった。
「ふん。ミュンツァーもワットタイラー、ジョンポールすらいないか。」
 ゴセイが、吐き捨てるように言ったが、マリアは、彼が言った意味すら分からなかったが、何も言わなかった。
 ひときわ大きい天幕の前で馬を降りるように言われ、2人は大人しく従って、馬を降りた。
 大きな天幕には、ミョウヨウのみ入るようにと、隊長格の男が言った。彼は続けて、
「神族の女性の方は、そちらにいる神族の方達と一緒に行って下さい。」
 5人ほどの男女の神族が並んで立っていた。チラッとそちらを見てから、ミョウヨウの方を向き直り、指示を待つような素振りを見せた。
「マリア。また、後で。」
「ご無事で。」
とマリアが頭を下げた。
「お前もな。」
 背を向けて歩き出始めたミョウヨウが天幕の中に消えるのを確認してから、マリアは神族達の方に向きを変えた。それを見て、神族の1人が、
「我々についてこい。」

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