第22話 メドューサの思い出9(マリア3)

文字数 2,376文字

 ひとしきり押し問答がなされた後で、ミョウ・ヨウは
「お前達は何を求めているのだ?お前達の革命とはなんなのだ?」
と問うと、親玉らしい男が、30代半ばくらいの大柄な男だった。
「良き王を選びたいのだ。この娘を見ろ。孤児で、奴隷として、暗殺者として育てられて、金持ちに使われていたのだ。こうした悲劇をなくしたいのだよ。」
 傍らの少女を指さしては言った。噂は聞いていた、革命軍の司令官に従う暗殺者だ。“暗殺者として、その子供を使っていながら、なにを言うのか。”と怒鳴りたかったが、それを飲み込んで、
「王や皇帝をかえただけで、どうなるのか?何にもならないぞ。社会の法も制度も変えなければならないぞ。それも実効性が伴わなければ、何にもならないぞ。実効性を持たせるには力が必要だぞ。」
 その言葉を聞いて立ち上がった者がいた。帝国騎士だった。帝国騎士が、革命軍に参加したという噂があったのがこいつか、という顔をミョウヨウは向けた。彼は新帝国のプランを滔々と、そして次第に熱をおび、自分自身の言葉に酔うように話し続けたが、“机上の空論だな。”としか思えなかった。それからしばらくして、ミョウヨウは、周囲から襲われることになった。
 “思ったより早かったわね。”彼とつながった心を通じて、一部始終を見て、聞いていたマリアは溜息を小さくついた。
 彼女の前には、革命軍の神族の幹部6人がテーブルを挟んで、並んで座っていた。大柄で逞しい中年手前に見える黒い肌で黒髪の男、金髪の小柄な年配だが妖艶な女、背の高い凶暴な感じの赤毛の女、長い銀髪で黒い肌で聖女然とした若そうな女、金髪で大柄だが童顔の男、そして、背は高いがほっそりした神経質な感じの男の6人だった。六部族の幹部クラスらしい。ここまで来るのに、かなりの数の金、銀、青銅人の隊列、少なくとも300人の神族達を見かけた。わざと見せたと思われた。神族達のかなりの者達から、憎悪のこもった視線も感じていた。
「君のことは、調べさせて貰ったよ。悪く思わないでくれ。それだけ、君のことを、高く評価したからなんだよ。」
 黒い肌の男が、静かな調子で語りかけた。
「ふん。売女。」
「そんなことを言っては可哀想ですよ。哀れな奴隷だったんですから、同情しなければなりませんよ。」
 年嵩に見える女2人が、悪意丸出しにしていた。黒い男が、弁解するような、
「先日、君により、多くの仲間が、結果的に死んだわけなのでね、君の立場は分かるものの、憎しみを抱く者も多いんだ。まあ、ハーブ茶でも飲んでくれ。」
 彼女の前に、温かい飲み物が、陶器の容器で出された。
「あんな売女、殺してやる!私の息子が死んだのは、どうして仕方がないことだというのよ!」
 天幕の外から金切り声が聞こえてきた。
「まあ、そんなに恐れなくてもいいよ。」
 童顔の男が、慰めるように声をかけた。
「私は、自分の主に忠実なだけです。恨みを言いたいだけならば、主の元に行かせてもらえませんか?」
 ゆっくりした調子で言った。彼女の前の6人はおもいおもいに笑った。
「奴隷から助けてくれたとは言え、あのくずに、忠実なこと。感心し過ぎて、涙がでるわね。」
「それだけ、酷い性奴隷だったのよね。」
「だから、感謝しているわけ?」
「ゴホン。」
 黒人の男が咳払いした。
「君の忠義ぶりは、大いに評価するが、彼はもうこの世にいないよ、確実にだ。」
 マリアは、わざと表情を固くして、感情を押さえたかのような声で、
「自分が、確認しない限り、主への義務を放棄することはできません。」
「可愛~ね、全く。」
 赤毛の女が、嘲笑うように言った。
 実際、彼の言葉は嘘ではない。死体の山を築きながら、ゴセイは三度は死んでいた。“よくまあ、こんな酷い殺し方を考えるものだ。”骨になった、ほとんど肉片になった、骨までなくなったと、ホッとする度に連中の後ろから復活したゴセイは現れて、また暴れ始める。武器を奪い、衣服、甲冑を奪いながら。はては、彼を結界に閉じ込め、異界から呼び寄せたという大量の虫に彼を食らい尽くさせることまでした。彼と意識がつながりながら、遠目の魔方でずっと見ていた。このほうが、遠目の魔法が効率的に働くからだ。彼らが、ゴセイがとっくの昔に死んでいると信じるのも、頷けると思った。彼に関心が集中して、自分に向けられたり言葉の幾つかを聞き逃してしまった。
「だから、君は彼のことにこだわることも、彼に恩義を感じる必要はないんだよ。彼は、所詮は卑しい人間なんだ。我々のような高貴な存在とは違うんだよ。君は我々とともにいるべきなんだ。」
 黒い肌の男は、情熱的に彼女に訴えた。妖艶な女が、不満そうな表情で、
「人間の奴隷になっていた女が、我々に迎えられるだけでも、感謝すべきものだ。」
「そのようなこと、もうお止めなさいな。」
 黒い聖女風が窘めた。彼女は続けて、
「彼が言うように、あなたの実力を高く評価しているのです。あなたを、それなりの地位で受け入れ、働きぶりで私達、神の座に迎え入れることを考えているのよ。」
 彼女の最後の言葉に、マリアのこめかみがひきついた。それでも、静かな調子で、
「もう一度言っていただけませんかしら?」
と尋ねた。彼女がその気になったと解したのか、神経質そうな男が、表情を緩めて、
「我々、神の元に来たまえ。君も神の一員として迎えるということだよ。」
「神に?私も同じようにと?本当に言っておられるのですか?」
 彼女は下を向き、しばらく黙ったままとなった。
「如何したんだよ?なんか言えよ。」
 彼女が、顔を上げた。
「神だと!この虫けらどもが!」 
 彼女は立ちあがった。同時に、天幕が飛び、その中にいた者達はもちろん、周辺にいた者達までが吹き飛んだ。
「虫けらどもが、私にお前らと同様にだと?虫けらは虫けらとして、皆殺しにしてやるわ!」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み