第24話 メドゥーサの思い出11(マリア4)

文字数 2,551文字

 ゴセイの声だった。
「ヤアヤアトオカランモノハオトニキケチカクニヨッテメニモミヨワレコソハトオトキキナシノカルノコウタイシサマトイモウトサマニエイエンノチュウセイヲササゲ、カクリュウセンセイニシゼンノシンリヲツタエラレトキヲヘダテテテンシンケイカイニハイルコトヲネガッタモノ。ワレコソハトオモワンモノハマエニイデヨ!」
“何を訳の分からぬことを。”神族達の気を自分に引き付けるためだということは、すぐに理解はできたが、彼の訳の分からない長口上に思わず苦笑してしまった。
「これでは、仕方がないですわね。もう少し、虫けら退治を続けなければならなくなりましたわね。では、虫けら退治を再開いたしましょうかしら。」
 彼女は、地面転がっている神族の死体を踏みつけながら歩いた。死体から残った魔力等を吸い取るためだった。これなら、身体を貫いたところから取り込むより効率は悪いが、素早く魔力を多数から取り込むことができる。元々、死体なり瀕死状態から取り出せる魔力はごくわずかなのだ、質より数だ。神族達の関心はヨウに移っていた。十数人で一斉に電撃魔法を彼に放ち、麒麟に似た聖獣が彼を踏みつぶし、金銀青銅人が止めを刺すように、上から得物を叩きつけた。
「人間離れしていたが、これで終わりだ。」
 安堵するように誰かが言ったが、慌てて駈けてきた戦士の一人が、
「だめだ!その化け物は、それでは終わらないぞ!油断するな!」
 皆が改めて身構えると、後方から断末魔の叫び声があがった。族長の一人が、脳天から剣を突き刺されているのが目に入った。剣を握っているのは、先ほど踏みにじられて肉片になったはずのゴセイ・ミョウ・ヨウだった。
「デビルビーム!ブレストファイヤー!ルストハリケーン!光子力ビーム!」
 雷、火炎、つむじ風が周囲数mを襲った。別のところから、絶叫が耳に入って来た。駈けてきた男は、いち早く逃げだそうとしたが、光のビームが体を貫いた。一方、マリアが次々に、神族の戦士を剣で切り倒していった。誰もが一合も交えることなく、彼女に倒されていた。神速の剣の名を競っていた神族の女戦士二人が、同時に相対したが同様だった。2人は、自分が血を噴き出していることすら理解できないという顔で倒れた。その2人から、彼女自身達が持つ聖剣を奪い取った。その聖剣が、その格以上の耀きを見せた。それを見て驚いた神族の戦士達は、その驚きを伝える前に彼女に斬り倒された。彼女の動きは、一つの無駄もない、優雅としか言えないものに見えた。
「マリア!」
 ゴセイがたどり着いた。いきなり抱きすくめて唇を吸った。驚いた彼女だったが、力がわずかばかりだが回復するのを感じた。ゴセイは唇を離すと、
「少しだが、ないよりいいだろう?これも気休めだが、これも飲め。」
 彼が渡したのは、回復薬の入った小瓶だった。受け取ると急いで口を開けて、一気に飲み干した。
「もうひと暴れできますわね。」
 彼女は、口を拭いながら約束した。とは言っても、魔力が残り少ないため、最小限の魔法攻撃と剣で突き進んだ。ゴセイは彼女を援護しながら戦った。彼女の剣は、二人の神族の族長を切り裂いた。自分では回復できないように、彼らが気が付かないうちにマリアは魔法攻撃をかけていた。一人は、自分の部下達に切りさかれ、突き刺され、火に包まれた。ゴセイが僅かな間に、その場所で、助命と引き換えに契約を自動的に締結させた三人の神族の男女によって。そして、最後の一人、黒い肌の若く見える族長はゴセイの剣の下で助命され、彼の永遠の奴隷となっていた。もちろん、彼は、そのことを、その時は理解していなかったが。メドゥーサ率いるゴセイの軍は、右翼の奥まで突き破り、完全に革命軍の右翼は総崩れとなっていた。その勢いで、中央の真横をつくように突き進んだ。ゴセイがマリアのところにたどり着いたのが分かったためだ。既に、指揮を統括する者の大半がゴセイに殺されていた革命軍中央は支えきれるはずもなく、たちまち崩れていった。
「ゴセイ!こっちの馬鹿野郎どもが、ようやく動いたぞ!」
 メドゥーサの声がゴセイの頭の中で響いた。
「ビスマルクが自慢できる程度に、手助けして、適当なところで軍をまとめて休め。」
「わかっているよ!」
 ゴセイの周辺には、神族の戦士は、彼の奴隷と化した10人ばかりと降伏した十数人だけになっていた。彼らに、残った神族達を集め、自分に従わせるために連れてくるように命令した。彼らは、駈けだして四方に散った。誰もいなくなった。
「お前も服がボロボロだな。取りあえず、死体から適当なのをはぎ取って着ろ。」
 自分自身も同様なことをするため背を向けたゴセイに、マリアは後ろから抱きついた。
「私は女神だ、戦いの女神だ。女神の座を失っても、忘れ去られても、私は、私自身は何も変わってはいない。最強の戦いの女神なんだ!」
 彼は、彼女の手をはずし、振り返り、
「お前が女神であることは、私はよく知っている。」
 真面目な顔で答えた。涙を浮かべながら、
「私は、もうお前の下でしか女神でないのだ。お前とともに生きる。お前のために、お前の目的のために、人も魔族も亜人も神族も、神や悪魔さえ殺しつくしてやる、喜んで。だから、私をお前の女神でいさせてくれ!」
 彼女は自分から抱き着き、彼の唇に自分の唇を強く押し付け、舌を差し入れた。彼が応じて、舌が絡みあう中、急いでボロボロになりかかっていた、下半身の鎧などを取り外し、引きちぎるように取り去った。マリアは、喘ぎ声の合間に何度も、自分が女神である事の同意を求めた。そして、ぐったりして力が抜けかけ、ゴセイに支えてもらいながら、
「愛して。」
と囁いた。
「ああ、愛している。リリスとメドゥーサとともに。」
 耳元でに囁きに、
「そんな…それで…それでいいですわ。」
 その後で、2人はメドゥーサと合流した。彼女は、寄り添うように歩くマリアを睨んだ。歩み寄り、
「体中からマリアの臭いがプンプンだよ。」
 そして、
「後でたっぷりとしてもらうかな~。」
「三人でな。」
 当然という調子のゴセイの言葉に、メドゥーサはマリアをまた睨みつけた。マリアも彼女を睨みつけていた。
 しかし、2人ともため息をついて、それ以上は何も言わなかった。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み