第18話 メドューサの思い出5(マリア1)

文字数 3,292文字

 3人だけで翌日、馬で本道を進んだ。直ぐに、ボルト軍の兵士が現れて、槍を突きつけて誰何した。
「帝国聖騎士ゴセイ・ミョウ・ヨウです。任務ご苦労。ボルト伯爵にお話に赴くところ。先導願いたい。」
 彼らは、如何するか迷い、3人を待たせて隊長達が談義して、まず伝令を送り、10人ほどの護衛という名の監視が取り囲むようにして出発した。
 ボルト軍の本陣、約3000人。他の2000人がヨウの領内の主要拠点の押さえにまわしていた。計5000人の中には、彼の直属の将兵だけではなく、隣接し、独立した騎士、領主、さらには、ヨウに半ば服属しているが、独立している騎士達も加わっていた。それは事前の情報で把握していたが、応急の柵と櫓で囲まれたボルト軍の本陣に入って見ると、彼らの旗印や見知った顔が目に入った。
「本当に人望がないね、ゴセイは。」
「ああ、その通りだ。これからは改めないとな。もっと厳しく、残酷にするさ。」
“そのつもりはなさそうだな。”彼女の顔からは、殺す方法を喜んでいるのが読み取れたし、彼はその期待を否定していない、いや肯定していると思えたが、変えるつもりはないように思えてならなかった。さらに、中心部に第二の柵があり、そこで彼女達はゴセイと引き離されて、彼がひときわ大きい天幕に入るのを目に納める前に、柵から少し離れた比較的大きい天幕に案内された。
 今までのことから、ボルトはヨウがメドューサなりを従えただけで乗り込んで来ることは予想しているだろうこと、そして準備万端待ち構えて、メドューサとマリアとは引き離すだろうことは想定内だった。可笑しくなるくらい、その通りになった。
 天幕の中は簡素だが、女性用に設えられており、豪華な絨毯の上に二人は座らされた。数人の兵士が薄笑いを浮かべながら、嘗めまわすように二人を見ていた。外には更に多い兵士が配されていた。
「あら、もう始まりましたわね。」
 透視と遠目の魔法でゴセイの様子を見ながら、マリアが小声で囁いた。彼が話始めるやいなや、ボルトの兵士が彼に襲いかかった。
「あー、ゴセイはまた強くなっているな。」
 同様に見えているメドューサが感心するように言った。“こいつ、本当に人間?”と思えるくらい、獅子奮迅して暴れまわるゴセイだったが、次々に繰り出される、様々に考え抜かれたボルト側の攻撃で、
「本当に、ゴセイは大丈夫?」
 マリアが心配する殺され方をされていた。
「大丈夫さ、もう慣れっこさ。」
 メドューサは、裏腹に心配そうな顔だった。“何度見ても、慣れないよ。”
 その時、天幕に入って来る者がいた。数人の兵士を引き連れたごつい騎士と若そうな魔道士の男と同じく魔道士の30代にみえる小柄な女だった。
「ご婦人方。場所を移動していただきます。もっと、相応しい場所の用意が調いましたので。」
 一応丁重だが,有無を言わせない口調だった。
「ゴセイ…、主様のいる場所に近いのかな,ここより。」
 疑わしい、という表情でメドューサがわざと尋ねた。
「それは。」
「遠くなるのですね。」
 マリアの問いに答えはなかった。
「駄目だね。」
「私達は主様から、これ以上離れるわけにはいきません。」
 では、力ずくで、という表情で兵士達を見た。兵士達は二人の腕を掴もうとしたが、あっという間に投げ飛ばされていた。
「大人しくしていれば。」
 剣を抜こうとする隊長の前に魔道士の男が立ち塞がった。
「まあまあ、落ち着いて。傷つけたら、伯爵様が怒りますよ。」
「フン。物好きにもほどがある。こんな臭い、汚れた女どもを。」
「まあまあ、姐さんも。ああ、君たちの忠誠心には、ひどく感心しましたよ。感動で涙が出るくらいにね。でもね、あんたの主人はもうこの世にはいないんだよ。そお言っても信じないだろうから、少し眠っててもらおうかな~。痛くはしないし、傷つけないから心配しないで。」
 「気を砕き、暫しの眠りを…」 
 詠唱をつぶやき、右の手の平の上に光を集めた。
「少し眠っていてね、お嬢さん達。」
 その光が弾け、屈強な男が気を失う衝撃がきた。女の魔道士は不愉快そうな顔をして、兵士達に二人を運ぶように命令しようとしていたが、ふと彼女らの倒れているのを確認しようとして顔を向けて驚愕した。彼女らは、平然としていたからだ。“相棒”の実力も、放った魔法の威力も分かっていた。それが効かなかったとは思えなかったのだ。男は、顔を引きつらせながらも、
「これはお見逸れして、失礼しましたね。では、私も少し本気をださせてもらいますよ。少し、怪我をしても恨まないで下さいね、これは自業自得ですからね。」
 より強い魔力を込めた。
「その全てを砕く衝撃…」
 詠唱を唱えた。その衝撃は、二人に弾かれ、それは分裂して、兵士達の何人かを倒し、天幕を貫いて、外から中が見えるようになった。
「馬鹿!何をやっている!」
 隊長が、震えながら怒鳴った。
「伯爵様も、何本か骨を折ったくらい大目に見てくれるだろうよ。」
 もう怒り狂った表情で叫び、詠唱を唱えた。
「馬鹿!先に殺すぞ!我が敵に赤い血の中で…」
 女は慌てて、男の魔法に合わせて自分の魔法攻撃を放った。しかし、そのまま押し返され、自分自身の魔法攻撃の直撃を、騎士達と共に受けて、識別できないくらいの死体になって倒れていた。
「ゴセイ殺しが終わるまで待てませんでしたわね。」
 マリアが、つまらなそうに言うと、
「仕方がないさ。ゴセイが、合流してくるまで暴れまくろうよ、女神様?」
 メドューサが揶揄うようにマリアを見た。
「分かりましたわ。」
 彼女も楽しそうに微笑んだ。それを見て、メドューサはニヤリと笑った。
 わらわらと兵士達が集まリ始まっていた。先ほどの惨劇から、生き残った兵士が震えながら説明したため、隊列を多少とも整えて、二人に向かって少しづつ近づいてきた。
「こちらから仕掛けようか?」
「同意しますわ。」
 二人は、数十人の兵士に躍りかかった。
 次々に兵士達が駆けつけてきた。魔道士や聖剣をもった騎士、魔法騎士達も押っ取り刀で駆けつけてきた。彼女らの剣は鎧や盾ごと兵士や騎士を切り裂き、拳や蹴り一発で骨を砕かれ、内臓をつぶされ、さらに仲間を道連れに飛ばされた。魔法は彼女らの周囲で散るように中和、受け流され、大小様々な攻撃を浴びて、周囲の兵士達と共に黒焦げに、固まり、肉片と化した。
“さすがに女神。流れるように、剣が、拳や足が出て、でっかい魔法が遠くに、近くに小さいのが広く、遠くに複数狙撃している。”メドューサはチラッと睨む。
“やはり、最強の魔王ですわ。派手に暴れ回るようで、最小限の力で振るっている。それと同時に器用な小技を素早く放つ。魔法も同じ、大きな魔法と小さな魔法が実は密接に連係している。”
 マリアも睨むように見た。
「何ですの、あそこの子供は?」
 10歳にも満たない女の子を前にたて、その後ろに中年の女が立っていた。
「ああ、聞いたことがあるよ。古代人の血を受けた、火の強力な魔法で、制御できずに町一つ燃やしつくしたとか。まあ、それをやったのは、殺されかけたかららしいけどね。」
「ほう、そうですか。この程度でね、恐れられるとはね。」
 その少女の放つ炎は、二人の前で止まってしまっていた。
「もっと強いのをだすのよ!」
 後ろの中年女が、がなりたて、棒で彼女を打ち付けた。
「うるさい屑ですわね。」 
「ギャー!」
 断末魔の叫び声を上げて、その女は血を吹き出して倒れた。マリアが放った光に切り裂かれたのである。
「逃げろ!」
「暴走するぞ!」
「自分が何をやったか解っているのか!バカヤロー!」
と叫びながら、周囲の人間達が散っていった。炎は敵味方の方向を区別することなく拡がっり始めた。少女の目は、虚ろでなにも考えていないようだった。
「この炎を利用しようか?」
「あら、珍しく意見が一致しましたわね。」
「力を節約して、叩かないとね。」
「まだ先は長いですからね。」
 炎は、ボルト伯爵の軍だけを舐めつくすように拡がっていった。マリアは、少女が力を出しすぎて死ぬ前に、彼女の前に駈け寄って、当て身を喰らわせて気絶させた。
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