第8話 マリアの思い出(メドューサ1)2

文字数 2,748文字

 それは、その数日前のことだった。
 町を襲った盗賊団は、急いでその地を離れようとしていた。この地域を縄張りとする大山賊団との取り決め期間があったからだ。彼らの間にも、それぞれの縄張りと仁義がというものがあった。その彼らの前に、人影が二つ見えた。
「蹴散らせ!」
 装甲を纏った騎馬数騎がおろかな二人の戦士に向かっていった。二人の手には大きな斬馬刀があったが、彼らは全く気にしなかった。
「ゴセイ。来たよ。あいつら、皆殺しでいいよね?」
 赤毛の女がニヤッとした。黒髪の男は黙って頷いた。騎馬が迫ると、二人の手が、巨大な斬馬刀を軽々と持ち上げた。いかにも重い斬馬刀が、目にも見えない動きで、装甲ごと馬の首を、胴体を切った。血が噴き出して馬が倒れて、何人かが倒れる馬に潰された。死ななかった連中は、二人に無雑作に真っ二つにされた。それを見て、巨体のミノタウロスや牛獣人数体が即座に襲いかかってきた。2人は、そいつらも斬馬刀で次々に真っ二つにした後、最後のミノタウロスを赤毛の女は片手で、巨大なハンマーを持つ腕をつかんで軽々と持ち上げて、仲間の方に向かって投げ飛ばした。男も素手で、牛獣人の突進を止め、その場に捻じ倒した。
「人間離れしてきたな、本当に。」
「お前に言われたくないがな。」
 そう言いつつ、剣士や魔道士、半弓を持ったエルフらしき連中が出て来ているのをにらんだ。二人は笑った。その二人に向かって、火球や雷電玉などが直ぐに飛んできた。それに、魔法をのせた矢も飛んできた。それを、受け流し、弾き返し、中和しながら、その倍以上の攻撃を返しながら、突進した。二人の攻撃は彼らの防御障壁を軽くぶち壊し、貫いた。その中で、剣を、槍を構えて向かって来る連中は、男が構えた超長剣の一旋を余裕で避けたと確信した次の瞬間、身体が切り裂かれて倒れた。赤毛の女の剣に、他の連中は自分の剣や槍が砕かれ、次々に絶望しながら奥深く剣で貫かれていた。首領の脇を固める戦士達に迫った。
「魔族らしいな。」
 赤毛の女はそれに答えず、彼らの前に立った。彼らが襲いかかろうとした時、その周囲が燃え上がった。彼らも、即座に防御障壁を張っていたが、役に立たなかった。残りのオーガの女とエルフ女は、男の両手の剣で切り倒されていた。
「お前は賞金首なんで、助けられないよ。」
 首領の男が命乞いをしようとするのを、男は無視して首を落とした。
 何人かがまだ生きているようではあったが、立っている者はいなかった。
「荷物運びのために、何人かは回復魔法をかけて助けてやらねばならないな。あっと、そこの女は情報を持っていそうだから、生かしてやるか。」
「傍に置きたいからじゃないだろうな?」
 男は笑った。
「お前とイ…、リリスより数百段落ちる女を傍に置くつもりはない。」
「どうだか。」
 そう言いながら、少し満足そうだった。
「あの馬車は?」
「攫った女達をのせているんだろう。丁重に連れて戻ってやるか。」
 そして、あの日から数日後、砦の前に、ゴセイ・ミョウ・ヨウとメドゥーサが立っていた。この周辺を牛耳る盗賊団の本拠地である。200人以上いるらしい。幾つかの移動する盗賊団と取り決めを結びながら、上手くやっていた。
「でっかい奴をぶちかまして、門をぶっ飛ばしてくれ。私が突っ込む。様子を見て、お前も突入しろ。まあ、半分は制圧し終わってからにしろよ。」
「いいのかい?一回は死ぬかもしれないぞ?」
「痛いのは嫌だが、ヘタをしてお前を失いたくないからな。もう少し、力が回復したら、もっと安心出来るんだがな。」
「分かったよ。早く回復するよう努力しないとな、お前を死なす、痛い思いをさせないようにね。ところで。」
 彼女の顔は、少しばかり不満そうな表情になり、
「あの女がやはり欲しいんだ?」
「力がある。どんどん回復もしている。力がある者は欲しい。栄養をとり、休息を取れば、直ぐ倍増以上になるだろう。それにだ、あいつにお前は助けて貰ったんだから、恩があるだろう、結果としてではあってもな」
 メドゥーサは、呆れたという顔で睨みつけたが、
「分かったよ。超~でっかいやつを一発叩き込んでやるよ。みていろよ、これが僕の、今の全力だ、驚け!」
 何人かの魔道士達が時間をかけて練り上げて作り上げ、常に見張っている魔法障壁に、現れた黒い光の玉がぶつかり、あっという間に突き破り、砦の門、壁を砕いて炸裂した。崩れ落ちる中、この攻撃で何十人かは負傷しただろうが、メドゥーサは息を少し荒げながら、
「直ぐに回復するから…、僕の分も、ちゃんと残しておいてくれよ。」
 その声を背にゴセイが突入した。
 力が回復したメドューサが突入すると、奥でゴセイが待っていた。血だらけという状態ではなかった。
「お前の攻撃がかなり効いたようで、かなり楽だったよ。一緒に行くか?」
「ゴセイはまた、さらに強くなったね。いいよ、二人で仕上げだ。」
 二人はさらに奥に斬り込んだ。制圧するのには、それ程時間はかからなかった。魔族の元騎士や聖騎士崩れと思える奴、さらには神族もいたが、ゴセイの大小二刀流、背の超長刀は屋内戦では不利なので、とそれに纏う魔法、そして同時に放つ魔法、メドゥーサは片手剣と拳、蹴り、その一つ一つに込められた魔法と複数攻防一体の魔法で、彼らは自信の砕け散るのを自覚する余裕もなく、魔剣、聖剣ごと切り刻まれていた。
「大した奴はいなかったね。まあ、数が多かったって、とこかな?」
 手からしたたる血をなめながら、メドゥーサはにやりとした。
「お前の最初の攻撃で、魔導士達と魔獣の大半が倒れたらしい。そいつらの存在も大きかったんだろう。人数は300人以上で、噂よりかなり多かったがな。」
 周囲を用心深く見渡しながらゴセイが答えた。メドゥーサが歩み寄り、
「奥の部屋に女達がいるよ。どうする?」
 顔を近づけて、息をわざと吹き付けながら、耳元で囁いた。
「面倒だが、さらわれてきた奴らだろうから、そのままししておくわけにはいくまいな。とはいえ、あいつらに手伝わさせて後で何を言われるかわからないしな。」
 少しばかり考えてから、
「倒れている中から、誰でもいいから、回復させやすい連中を見つけて、そいつらやらせるか。」
「強い奴でなくていいんだ?」
「首領、幹部達、強い奴も賞金がかかっているだろうしな、そんな奴らを助けるわけにはいかない。それに、戦士だろうとそうでなかろうと、荷物運びにはなるからな。」
 二人は倒れている人間達、それ以外もまだ息のあるものを探し始めた。何人かを回復魔法で治療して、荷物運びや女達を運ぶ馬車の準備などを命じた。彼らの多くはすぐに逃げ出すつもりだったが、それができないことをすぐに知ることになった。そして、唖然となった。
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