第20話 メドゥーサの思い出7

文字数 3,221文字

「おい、早くこい、ちび。」
 メドゥーサが乱暴に、少女を引っ張った。
「よしなさい、乱暴に引っ張るのは。ゴセイが、わざわざ私にと言った意味が分かりますわ。それに、この子の名は、ラクシャですわよ、ゴセイが先程決めたでしょうが?」
 マリアは、メドゥーサの手を払いのけて、優しく手を引いて浴室に入った。
「女神様は、そうやって、勇者様を育てたんだ?」
 メドゥーサの揶揄いに、マリアは睨んだが、あえて反論はしなかった。
 ボルト伯爵の本隊を壊滅させたゴセイは、その晩は夜襲を警戒しつつも、その場で野営し、食事と休息、仮眠を取った。
 翌日は、掃討戦に入った。本隊の壊滅を知り動揺していたゴセイの領内のボルト伯爵の軍は、ゴセイ率いる部隊と彼の館を守っていた兵士や領内に伏していた兵士の襲撃で、早々に総崩れとなった。完全にボルト伯爵の軍が崩壊したのを見届けると、彼は自分の館に入った。二重の堀と土壁、さらに石壁と櫓を設けた砦には近いが、さして大きくもない館だった。彼は、直ぐに事後処理のために動き始めた。その一方で、マリア達が拾った火の魔力を持った少女を館に引き取って育てることにして、まずは、マリア達に風呂に入れて体を洗わせるように命じた。
 不審そうに見つめながら、服を脱ぐ少女に、
「子供は、食べて、遊んで、寝て、体を清潔にして、勉強して、手伝いをすることが仕事なんだ。早くしろ。」
 既に裸になっているメドゥーサがまくしたてた。マリアが、なだめながらラクシャの服を脱ぐのを手伝いながら、
「なんですの、それは?何かの、古の詠唱ですか?」
「知らないよ。ゴセイが言ったんだよ。神様の教えなんじゃないのか?」
「私も知りませんわね、そんなこと。でも、どうして、あなたまでここにいるのですの?私だけで十分ですのに。」
「あいつに、マリアにも風呂の入り方を教えてやれと言われたんだよ。」
「湯に入って、体を洗うことなど誰でも知ってますわ。」
 マリアが不満そうな顔を向けると、
「あいつは、風呂の入り方に、まるで儀式のように決まりを作っているんだよ!」
 自分も納得してはいない、という顔をしていた。
 脱衣所から、浴室に入ると、メドゥーサの指図が次々と飛んできた。
「だからあ、まず体を洗うんだよ!」
「湯に入る前に、湯をかける!」
「湯の中で体は洗わない。肩までつかる。」
 “どこの風習かしら?”とマリアは思いつつ、湯につかって、心地よさを感じていた。浴槽は、四人くらいなら楽に入れる程度の大きさだった。造りは簡素だったが、外の明かりの取り込み方など、体を温め、疲れをとること、体を洗いやすいことなどを重点にしつられていた。
「ゴセイは、この子をどうするつもりかしら?」
 汚れきった体を隅隅まで洗い、湯で体全体を温め、何時もよりずっと上等な食事を満腹まで食べるて、体の中から芯までがあたたまって、うとうとし始めていた。
「まあ、使うのは18歳になってからになるんじゃないか。少なくとも、それまでは子供の仕事をしてもらおうということじゃないのかな。」 
「まあ、それは、それなりにいいことではあるけど。なんでそこまで・・・。」
 マリアは、分からないと思った。
 彼女達が風呂を出ると、入れ違いにゴセイがはいっていた。
「マリアは、ラクシャに添い寝でもしてればいいから。」
と風呂から出てきたゴセイに抱きついたメドゥーサは、マリアとゴセイの両方に言った。しかし、マリアはかえって彼の腕をつかんで、
「本当に大丈夫なのですの?」
 離れようとしなかった。
 メドゥーサが嫉妬混じりの目で睨んだ。それを無視して、マリアはその場で服を脱ぎ始めた。
「分かったよ。確かめさせてやる。」
 メドゥーサは膨れたが、抗議はせずに自分もその場で服を脱ぎ始めた。そこには、異なるが魅力的な女の裸体が二つあった。ゴセイは、小さく深呼吸をして、二人の手をとり、寝室に入った。
「私は、単に確かめたかっただけなんだから。」
 ぐったりとなり、まだ残る快感にひたり、すぐ隣で抱き合い、激しく動いているメドゥーサとゴセイを見、メドゥーサの激しい喘ぎ声を聞きながら、自分に言い聞かせるように、心の中で繰り返した。 
 その翌日から、忙しくなった。皇帝に、今回のことが正当防衛であることの説明の手紙を書き、それを持った使者を出す、皇帝の側近には彼の支配下にある者がおり、何時でも彼の意思が伝えられるのを利用して、連絡をとる、配下の精霊を送る。中のことだけで、前と後は一見不要であるが、これらがなければ帝国内に対しての説明がつかない。ボルト伯爵側の使者へ、見えない形での妨害、彼は死んだようだが、彼の妻、最近の娶った正妻は年齢の割にやり手なので、復讐心を燃やしての行動は気をつけなければならなかった。そして、ボルト伯爵に、加担した領主、騎士、都市そして神族の措置だった。ボルト伯爵が、敗死しても、そう簡単に謝ることだけのことすらもできない連中が多かった。
 中には、いったん謝罪を装って、彼を招き、宴の最中に突然乱入してきた大女5人が彼を捕まえ、毒水入りの亀に顔を押しつけたこともあった。窒息死か毒で死んだと思ったら、次の瞬間女達を跳ね飛ばし、すかさず心臓をつかみ出した。マリアとメドゥーサを囲んでいた兵士達も肉片になっていた。
「女に押さえ込まれるとはな、まだまだ修行が足りないな。」
 毒水をぬぐいながら、ゴセイは苦笑した。
「竜族の女、五人がかりで必死に押さえていましたよ。あなたは、人間離れしてますよ、もう十分に。」
 慰めるでもなく、マリアは指摘した。
「でも竜族の女なんて、どこから連れて来たんだ?あいつら、そんなにいないよ。僕が魔王の時、いい気になって反乱を起こしたから、徹底的につぶしてやったし。」
 竜、ドラゴンの血を受け継いだという竜族は、神族とはまた違った意味でプライドが高い種族である。ただ、魔界にも人間達の領域にも、はっきりと居住している。現実は、魔界にもハイエルフがいたりしているのだが、あくまでダークエルフだ、魔族のオーガだとかいうのもいるわけだが。人間達の領域では、賢者の一族、これは定義が全く定かでないあやふやな、雑多な集団の総称みたいなところもあるが、とされ又は称することが多く、あまり積極的にでてくることがないが、似たような集団は魔族にもいる。どちらにせよ、魔界と人間・亜人の分類は結構わからないことは多い。
 首をひねるメドゥーサに、ゴセイは
「ゆっくり調べるさ。」
 結局はわからなかった。斡旋した何者かがいた、というだけだった。
 彼の領地内の神族を招集した際には、何人かの神族が襲ってきた。ほとんど瞬刹した。後から調べると神石と神族がいう、魔力や身体能力を増幅できるものを持っていた。ロキによると、彼らの部族は持っていないものだった。本来なら、広く関係者を処刑するのが通常だったが、ゴセイはかなり範囲を狭めた。しかし、その中にまだ小さい男の子がいた。必死に助命を嘆願する母親は、同じ神族と思い、マリアの同情に頼ろうとした。神族扱いされたマリアは、しきりにこめかみをピクピクさせたいたが、彼女は全く気が付かなかった。
「かわいそうな子供だこと。母親がどうしても殺そうしているのだから、しかたがないですわね。え?あなたはこの子を殺そうと思い、あの企てに参加したのですよ。お死になさい。ああ本当に可哀想、母親が死を望んで、自ら手にかけることと同じことをするとは。」
 マリアは、母親の前で子供を手をかけた。そのすぐ後、母親は呪いの言葉を吐く前に一瞬で殺した。
 領主達も、一族の一人を残し、彼が協力したとして、彼の自主的な行為として、領地の何割かを皇帝に献上させたりもした。領地内の神族には、ボルタ伯爵のところで捕えて命を助けた神族を受け入れさせた。
 その神族から、多数の神族が革命軍に加わっており、ボルタ伯爵が加担していたことが分かっていた。
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