第4話 ゴセイと七星の勇者達

文字数 3,703文字

 ゴセイ達は、市民達の戦勝会で、彼らとともに飲み、食い、そして騒いでいた。周囲からざわめきが起こった。
「七星の勇者達とやらがきたようですよ。」
 元修道女騎士と思わせる女が告げた。
「ふん。僕は先代の七星の何とかにやられたことなんかないからね。やられたのは、どこか田舎、辺境の自称魔王だろうさ。」
「私も、7星の勇者達など導いてやった記憶はありませんわよ。」
 メドーサとマリアが小声で囁いた。
「せっかくのところ申し訳ないのだが、」
 彼らのテーブルの近くに立って、両者を知るダビッドは、周りの喧騒の中で、少し大きな声で言った。
 彼が七星の勇者を紹介する前に彼が立ち上がった。そして、振り返って
「これは、ダビッド評議員殿。貴兄が来られたということは、後ろにおられるのは、七星の勇者様方ですか?もう既に市全体の話題になっておりますからね。これは失礼。七星の勇者様方。わたくしは、ゴセイ・ミョウ・ヨウと言います。ここにいるのは、私の仲間達です。お前たちもごあいさつをしないか。」
 彼の言葉に、一斉に立ち上がり、軽く頭を下げた。メドーサとマリアも軽く頭を下げた。
「七星の勇者様方は、君と話しをされたがっている。どうかね?」
「それが、ご意向であれば、我々は、失礼ではありますが、飲み食いしながらでということをお許しください。なにせ、腹が空いて、喉が渇いていますので、皆は。」
 七星の勇者達の前にテーブルの準備がなされた。
「七星の勇者様方が、我々のようなよそ者にどういう用件で、わざわざおいでになられたのですか?」
 一連の挨拶が、終わってからミョウ・ヨウはゆっくりした口調で尋ねた。彼は知ってか知らずか、エカテリーナとマーガレットを交互に見た。二人は王族出身で互いに張り合うところがあった。彼女ら自身の問題だけではなく、彼女らの師匠も、かなり強い対抗意識を持っていた。地位の高い層を弟子の対象にしているのだから当然ライバル関係となって当然だった。ただ、国は違っていたが、エカテリーナが政権を持っている王族出身であり、マーガレットが弱小王族出身であることで、エカテリーナは少し蔑みを持って、マーガレットはより強い対抗意識を持っていたが。ただし、二人とも、師匠達と異なり、表だってそれを出したり、行動することを優先しないだけの良識があったが。ゴセイの両脇にはメディアとマリアが、競いあうように体を密着させていた。
「あなた方が、大魔王軍からこの都市を守ったことについては、感謝しています。しかし。」
 エカテリーナが言葉を切った。
「しかし、なんでしょうか?」
「あなたが、彼女達ばかり戦わして、あなた自身は戦っていないと言い立てるものがいますよ。」
 メドーサとマリア、そして後ろのテーブルに座っていたセンリュウがテーブルを叩いて立ち上がりかけた。エカテリーナの言葉が聞こえた者達も、自分の得物に手を伸ばしかけた。ヨウは片手を上げて皆を制した。エカテリーナは、顔色も変えずに続けた。
「ご気分を悪くしたのなら、申し訳ありません。しかし、誰も、あなたが、戦った姿をみていませんから。」
「ダビッド評議員会は、少なくとも大魔王と彼の親衛隊と対峙して戦う私の姿を見ていたと思いますが。」
 わざと無表情で、感情のこもらない声で、窺うように、やんわりと反論した。
「最後の最後の僅かな時間のことですね、それは。しかも、あなたが大魔王を倒せるのに逃がしたという者もおります。何はあっても、大魔王を倒すことが全てに優先します。我々には、そのような覚悟を持って戦っていますのよ。」
 エカテリーナも冷たい、無表情の顔だった。“この娘は何を考えているのか?”ゴセイは考えた。最初から、彼が卑怯な口だけの男だと先入観を持っている感じだった。メドゥーサとマリアが瘴気の消滅、浄化に力を発揮したため、中傷する連中の攻撃対象が、ヨウになったため、七星の勇者達の彼に対する印象が悪くなっていた。
「あの時大魔王を殺すだけで全てが終わるのであれば、そうしたでしょう。しかし、単に新たな大魔王が誕生するだけかもしれない、烏合の衆となった大魔王軍がセダン市各地を襲うかもしれない。そうなっては、2人をはじめ仲間を多く失う、セダン市で多くの人々が死ぬ、そういうことを甘受する覚悟はありません。」
「私が言いたいのはそういう意味ではありません。」
 エカテリーナがさらに言おうとした時、
「女たちを失ったら何もできないからな。」
 その声に、
「そういうことは、逃げたり、戦っていない連中に言えばいいんじゃないかな、お嬢ちゃん達?」
 メドーサがからかうように言った。ヨウは彼女を目でたしなめた。
「今だけは、メドーサに賛成ですわね。」
 マリアが冷たく言い放った。ヨウは苦笑して、
「七星の勇者様方は、私に何か含むところでもあるのですか?」
 エカテリーナに、視線が集まった。彼女が口を開く前に、チャールズが、苛立って怒鳴るように、
「あんたが、女を奴隷にして、自分は戦わないで、彼女達に戦わせているということなんだよ。」
「失礼ですよ。チャールズ殿。」
 彼女は窘めるように言った。チャールズは、そっぽを向いた。
「そのお二人は、あなたの何なのですか?奴隷として、お二人を弄んでいるのですか?」
 それに対して、メドーサとマリアをはじめ、ヨウの隊の面々が侮るような表情を見せた。
「二人は、私の妹ですよ。」
「そのような関係ではなさそうな話しをお聞きしましたよ。」
「妹には見えないぜ。ベッドの上で妹さん達の前で勇者を演じているのかい、オッサン。」
 トマスが立ち上がってその声の主を睨みつけた。ヨウも手をあげて部下達を制した。
「これだけの美人ですから、二人とも、トラブルが起きないように、そのように称しているのですが。それに、私の国では、愛する者を妹と呼ぶの習慣があるのですがね。」
 ヨウは、苦笑して答えた。それが、自分を愚弄していると彼女には思えた。
「そこまで言うのであれば、今、七星の勇者の名において、お二人の自由を宣言しますが、よろしいですね。」
「私は、妹を離しませんよ。」
「あなたの意志は無関係です。七星の」
 エカテリーナが、さらに続けようとする前に、
「マリアは、自由になって、そこのお子様のお世話をしなよ。ゴセイはぼくが一人で助けるからさ。」
 メドーサが割り込んだ。空のジョッキをとマリアの方に向け左右に振ってみせた。
「その言葉、全てあなたにお返ししますわ。あなたのようながさつな女の世話をしなければならなくなるゴセイが気の毒ですからね。」
と言ってワインの杯をぐいっとあけた。二人が睨み合う。
「お子様には、旦那と姐さん達の関係は刺激が強すぎるんだよ。」
 誰かが大声で言った。
「戦わなかった連中が、何を言っていることやらだねえ。」
 ユダが、色っぽいしなをつくって言った。
”この娘、2人を切り離して自分の配下に加えたいのか。情報どおり野心家かな、子供ながら。”
「あの~。」
 七星の勇者の一人シルビアがおそるおそる手を上げた。彼女なりに、場の雰囲気があまりに悪くなるのは不味いと思ったのだ。
「あの浄化なんですが、マリア様は純血の神族の方なのですか?」
 神族は神ではない。神に近いと自称する種族である。ただ、神に近いていうことを他の誰もが認めている存在であり、極めて少数の種族である。
 マリアは、殺意を示すくらいの表情を見せた。メドーサは、からかうようにマリアの顔を見た。ゴセイが彼女の肩に手をかけた。
「何故、彼女を純血の神族だと?彼女の力は単に単に神族だからと言いたいのですか?」
 彼の視線は厳しかった。それにシルビヤがためらったため、トマスが
「彼女の浄化の力は僕には及びもつかないものです。ここでの浄化は、彼女からしても及びもつかないものでした。すごいとしか思えないので、どうすればという気持ちからなのです。」
「彼女が神族とかいうのではなく、彼女の力です。より精進されれば、七星の勇者様もその域に達するでしょうね。」
 彼の言葉には、この問題はこれまでという意思が感じられた。
「ゴセイ・ミョウ・ヨウ殿。」
 ボッカチオが改まった口調で
「我々も、七星の勇者様方も、あなた方に大魔王軍との戦いに加わっていただきたいと思っているのです。」
 その言葉が終わるか、終わらないかの後に
「足手まといはいらない。女に頼っているものを除いてだ。」
 チャールズだった。
「清廉な勇者様方には男女の夜のお仕事はわからないんだよ。」
 後ろから声があがった。
「坊やや嬢ちゃん達に、詳しく教えてあげようか、僕が。」
「下品な大声ばかり上げるあなたでは駄目ですわ。私が教えて差し上げた方がずっといいですわ。」
「あんな恥ずかしく甘える姿のどこが上品なんだよ。」
「ヨウ殿!」
 あきれてボッカチオが助けを求めた。
「皆酔っているのです。飲んで、食べて、酔いたい時、場所ですから、お許し下さい。」
 弁解しつつ、メドーサとマリアをなだめるように、ジョッキと杯にそれぞれの酒を注いだ。そして真面目な表情に戻り、
「私の実力が疑問のようですから、試してみませんか?」


 
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