第16話 メドゥーサの思い出3

文字数 3,573文字

 魚鱗の陣とも方陣ともいえる陣形をとり、魔王軍の来襲を待ち受けた。皇帝を、守ることを主眼とした陣形であった。50人の騎士、従者も含めると200名以上、は決死の形相だった。
「皇帝も幸せ者だな。」
 ゴセイは、呟いた。彼らがいれば、傭兵達も少しは戦う気になるだろうと思った。
「メドゥーサ。大丈夫か?」
「なにがだい?あいつらを八つ裂きにしたくてウズウズしているよ。分からないかい?」
 殺戮をわくわくしている、そういう彼女の顔は美しかった、少なくともゴセイには、そう見えた。
 魔王軍が迫ってきた。両軍から矢が放たれた。そのうち、投げ槍、つぶてが加わった。魔王軍の先方が早くも、突撃を開始した。情報を伝えられていたため、兵力は少なく、士気も低いらしいということで、目の前の軍を侮っていた。魔王軍の魔導師が詠唱を始めた。その時、空中で光がいくつも現れた。それは、少し意外ではあったが、防御結界が張られていたから、さほど心配していなかった。それが破られて、魔導師の隊列の中で炸裂し、隊列は総崩れになった。突撃を開始した先方の軍の後方にも、攻撃がされた。それでも彼らは突進した。その前に、火炎と電撃、真空の渦、超音波の振動を纏った戦士が飛び込んできた。彼の周囲で魔族の戦士達が、焼け焦げになり、切り刻まれて、彼の極長剣が次々一閃、二閃する度に数人の山が出来た。
「僕もやるよー!」
 切り進むゴセイの隣に、メドゥーサが飛び込んできた。巨大なミノタウロスを投げ飛ばし、片手で楽々と操る大剣で周囲から斬りかかってくる魔族をまとめて真っ二つにし、空いた片腕で、頭を、胸を一撃で砕いた。脚で踏み潰した、魔法で、周辺に絨毯攻撃しながら。この二人の戦いぶりに、皇帝近衛の騎士達だけでなく、傭兵達も奮い立って進んだ。
「ああ~、旦那がやられた!」
 誰かが、悲痛な叫び声を上げた。ミョウ・ヨウは、自身の長剣が折れたところを、3本の高位の魔槍で貫かれ、大柄な魔族騎士達に高々と掲げられていた。思わず、多くの者が目を覆った。
「何処見ているんだよ、馬鹿野郎ども。ゴセイは、元気だぞ。」
 いつの間にか、メドゥーサがいた。
 すると、彼らの視線の先には、血だらけのミョウ・ヨウが、いつの間に奪ったのか、魔槍を持った彼が、彼を殺したはずの3人の騎士を突き殺し、周囲の魔族達を次々に突き殺していく姿が映った。
「分かったら、進め!」
 答えようとしたときには、彼女は彼のそばで、彼の倍のペースで魔族達を倒していった。魔王軍の先方は、瞬く間に壊滅し、中軍は突き崩さた。彼らも無能ではなかったから、その勢いを挫こうと、左右の兵を動かしたり、迂回攻撃の兵を動かしたりした。しかし、その前に、二人が常に現れ、立ち塞がって、彼らの意図を挫き、そこの部隊を壊滅させてしまった。そして、押され続けた魔王軍は、ついに後退を始めた。
「こんなはずじゃなかった!話が違う!」
というのが、魔王、魔王軍幹部の本音だった。本軍に二人は突入し、将兵が続く。魔王軍は、後退を続けざるを得なかった。次第にそれは退却となり、総崩れとなっていった。
 軍をこのあたりでとどめて、まとめようとしたヨウは、メドゥーサがいないことに気がついた。
「あの馬鹿が。」
 その頃、彼の予想通り、周囲を囲まれ、力尽きかけていた。
 “もう、魔力も、体力も尽きるなんて、この僕が!”魔王を目の前にして、その親衛隊などの精鋭からの集中魔法攻撃で吹き飛ばされ、魔王秘蔵の魔獣に踏みつけられ、トロール達のハンマーを何度も食らって、足元がふらついていた。魔王の魔法攻撃の直撃も受けた。
「これだけやられて、まだ立っていられるとはな。褒めてやろう。どうだ、わしの部下にならないか?お前なら、将軍になるのも夢ではないぞ。」
 メドゥーサは、軽蔑しながらも、悔しそうに、優位に立っていると思い込んでいる、トカゲ顔の魔王を睨んだ。
「おまえには、魔族の血が流れ出ているのは分かっておる。力があっても、人間達は受け入れてくれまい。わしは違う、純血でなくとも実力で判断するぞ。だから、お前を認めてやる。どうだ?わしの家臣になれ。」
 メドゥーサは、小さく笑った。
「僕が誰か分からないのか?僕も、お前の顔に見覚えがないもんな。そうだよな田舎の自称魔王さんでしかないんだもんな!」
 大声で叫んだ。プライドを傷つけられた魔王は、黙って手を動かした。トロール達の、ハンマーが振り下ろされようとした。“ち、動けない。防げないな。”しかし、ハンマーに振り下ろされなかった。苦痛の叫びとともに、いくつものハンマーが大地に落ち、周囲が揺れた。いきなり抱きすくめられて、唇を奪われた。舌が入ってきて、彼女の舌に絡みついた。ゴセイだった。慌てて、押し返して、
「何するんだよ、こんな時に!この変態助平野郎!」
 しかし、力が僅かばかり回復しているのに気がついた。
「何だよ、これ。」
「イシ…、リリスに教わった。あまり上手くはやれないが、少しは役に立ったろう。それから。」
 彼は、陶器製の小瓶と塊を彼女に投げ渡した。回復薬の入ったビンと木の実等を固めたパンだった。
「回復薬は気休め程度だが、ないよりましだろう?」
 何も言わずに、メドゥーサは飲み、そして、かぶりついた。
「もう一暴れするか?」
「もちろんだよ。」
 ゴセイは、メドゥーサをかばうように魔王達の前に立ち塞がった。
「おのれ!」
 魔族の弓兵達が一斉に矢を放つ。それも素早く連射して、無数の矢が彼に集中した。しかも、強弓で矢には魔力が込められている。中には、他の数倍、十倍の威力が込められているものもある。その全てを、防御結界と剣で叩き落とす。魔道士達の魔法攻撃が加わる。一旦受け流すが、彼らも失敗を見て、力を結集する。魔王も加わった一撃になった時、ゴセイの体が燃え尽きるように消滅した。魔王達は、それを見て大笑いをしようとした。その時、
「転真敬会奥義小退水!」
 そう叫んで突っ込んでくるゴセイがいた。彼の握る高周波の剣が、長く伸びた、渦を巻き、周囲を薙ぎ払った。次には、突然細く、長く伸び、魔王の脇にいた、腹心らしい女魔族魔道士の目に、彼女の防御結界を破って、突き刺さった。
「ぎゃ~!」
と地面をのたうちまわる彼女を魔王は助け起こそうとした。
「そのどブス女がお気に入りかい、田舎の自称魔王様!」
 心臓を貫いた大柄な人型魔族騎士から魔力を吸い取りながら、腕を体に突き入れた状態で吸い取れる、メドゥーサは言った。こうやって吸い取るといっても、大しては吸い取れない。それでも、何体からもやれば、ある程度の量になる。
「どうだ?」
「もう一暴れできるよ。」
「ではいくか!」
 二人は、暴れまわった。メドゥーサは、やはり消耗を回復するにはほど遠いらしく、相手の攻撃力を避け、受け流し、最小限の力で、的確に相手を動けなくさせた。完全に殺していたら、魔力、体力を失ってしまうからだ。剣の使い方も、体術も超一流だ、とゴセイはあらためて思った。魔王は、本格的に退却を始めた。なおも追おうとした彼女を彼は止めた。メドゥーサは、今度はあっさりと、素直にそれに従った。
「あいつら、僕のことを思い出そうともしない!」
 体を震わせて小さい声で言った後、振りかえって、
「あんな奴ら、もうどうだっていいよ。僕は、おまえの、お前だけの最強、最凶の魔王でいいんだ。」
 彼に歩み寄って、心持ち顔を上げて彼を見上げた。
「お前は、ずっとまえから私の最強、最凶の魔王様だ。」
 後ろを振り向いて、
「追撃はしない。後退して陣形を整え、皇帝閣下を守れ。我らはここにいる、しばし魔王軍が引き返して確認してから合流する!」
 ゴセイが再び、自分の方を見ると、メドゥーサはゴセイに飛びついた。激しい口づけを何度も交わし、互いに唾液を流しながら、体を離すと、急いで裸になると固く抱きしめ合い、体を弄り、なめあった後で、一体になって激しく動き、メドゥーサは喘ぎ声を出し、何度も体を大きく動かしてからぐったりすることを、繰り返した。何度目かで、上になって動いていた彼女は一段と大きな声を上げてから、彼の上にお覆い被さった。
「僕はお前の最強、最凶の魔王だからな、わかってるよな。」
「ああ、お前は私の唯一無二の魔王だ。」
 ことが終わってから、二人は部隊に戻った。二人の姿を見て、安堵と冷やかしが混じるどよめきが起こった。彼の元に駆けつけてきた一団があった。皇帝とその側近達だった。
 跪いて報告する彼に、ねぎらいと感謝の言葉を与え、恩賞を約束した。ヨウは感謝の言葉を返しながら、まだ安心出来ないこと、魔王に皇帝を売った諸侯との戦いがあるだろうことと、全員への恩賞を約束を口にした。皇帝は、大きく頷いた。隊列を立て直して、小休止の後、彼らは出発した。
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