第28話 大魔王城攻城戦

文字数 2,398文字

 情報では、大魔王城に籠もる兵力は2万弱。それを包囲するのは、人間の各国王侯貴族の騎士、兵と傭兵、亜人の傭兵、さらにエルフやオーガ等の亜人の小国家の軍で10万以上。ここ最近の七星の勇者達の勝利や魔族の一部が加わることで、どの国も積極的に、出来るだけ多くの兵力を率いて参加し、日頃直接参加しないエルフ等の亜人の小国家も参加してきたので兵力が膨れ上がったのだ。さらに、2人の魔王が率いる魔族の軍が加わり、さらに大魔王軍の離反者が加わっている。魔族の3倍の数がなければ、人間・亜人は勝てない、攻城戦では攻める側は守る側の3倍は必要とされているが、七星の勇者達がいる以上、兵力差は圧倒だといえた。
 それでも、大魔王城の威容は圧倒する感じがした。山の麓から頂上の本丸まで、幾重もの城壁、堀で守られている。いや、目の前の巨大な堀と城壁だけを見ても、どうやって突き破れるか不安に、誰しもがかられていたのだった。
 それでも、攻城兵器の設置と城からの反撃に備える壕や土塀の工事、兵営の建設工事が進んでいた。
「せっかく分捕ってきてやったんだ。早く持って行け!」
「これで納得しないのであれば、こちらにも考え方がありますよ。」
 いたるところで、メドューサとマリアンナの声が聞こえていた。物資の調達交渉、魔族間の調整、魔族と人間関係との調整、仲裁、配置や物資の取り扱いの命令等あることが次々に出ていた。ゴセイが、連合軍幹部、王侯達との会議や交渉、魔王達との協議、訴えごとの判断などに時間をとられることが多いため、現場の厄介ごとの始末にマリアとメドューサがそれぞれ、ゴセイの指示で担当することも多かった。
「そちらの状況は、どうですか?」
 トーマスが、一段落したマリアに尋ねた。七星の勇者も、調停などを頼まれたり、各軍の幹部と話しをしなければならず、結構歩き回っていた。また、全軍の状況も把握する必要もあり、そのための巡回もあわせて行っていた。
「足りないことばかりですね。魔族と人間達との紛争よりも、魔族間の方が多いくらいですが。人間は割り切ることができるのですが、エルフ達亜人は、そうはいかないようですから。」
 マリアの答えに礼と疑問を言おうとしたトーマスを遮るようにやって来たエルフ達4人がいた。その内のハイエルフの女が、ユダだったが、
「姐さん!ダンナは何処ですか?」
 それを聞いたマリアは、怪訝そうな表情で、
「どうしたと言うの?エルフ達のことはあなた方に任せたはずですよ。」
 微笑ながら、かつ、丁寧は穏やかな調子だったが、ユダをはじめとして、全員が緊張したように、表情を強ばらせた。“怖い。”トーマスとシルビアは分からなかった。マーガレットだけは、何となくユダ達の表情から、マリアのこのような表情が、外見とは裏腹なものだったのであるものなのだろうことを理解出来た。
「ここの人間連中も役に立たないもんで、…それにつけてもハイエルフが特にうるさくて、本当にハイエルフっていうのは、どうしようもない連中ですね、本当に。」
 ハイエルフのお前が言うな!なのだが、ユダは、それでも悪びれずに弁解した。マリアの表情は、表面は優しく“それでどうした?”という感じだったが、その怖さは彼女らはよく知っていた。だから、
「ハイエルフのあんたが言わないでよ。ハイエルフの傲慢さは、それ以外の部族は反発しているんですが、これがまた互いに見下し合って、ハイエルフの側に自分達だけがつきたがっていたりという有様で。」
「それに、魔族のエルフの中で、本来自分達こそがハイエルフだと言って、これがまた騒動になって。」
 山エルフと里エルフのパウナとペタが泣きつくように言った。ハーフエルフのマグダレナが大きなため息をついて、
「こんな具合で神族も加わって。」
「神族の方々が。」
 シルビアが思わず声を上げて目を輝かしたが、マリアの仇名を思い出して身をこわばらした。それを無視して、
「何人ですか?」
「12人すよ。」
 答えたのはユダだった。
「単に神族だと言っているだけのことですよ。」
 マリアは、シルビアの方を見ることなく、吐き捨てるように言うと、
「わかりました、ゴセイのところにいきましょう。メドゥーサ!」
 何だよ、という顔でやってきた彼女にことの次第を話し始めた。
「エルフ達はどうなるんだろう?」
 トマスは、今まで聞いていたヨウのやり方を思い出し不安に思って、無意識に口から出てしまった。
「あいつらが馬鹿なら、半分になるだろうさねえ。」
 ユダがにやにやして言ったが、青ざめたトマス達を見て、
「彼らが最悪の馬鹿だった時の場合ですよ、あくまでも。」
 安心させようとするように、マグダレナが言った。
「あんたがた。行くわよ!七星の勇者様。失礼いたします。」
 彼女らは、背を向けると歩み去った。翌日、心配になったマーガレットとトーマスはエルフ達の様子を見に視察におもむいた。シルビアも当然ついてきたし、カルロスも話しを耳にして、同行した。エルフ達は、特にハイエルフ達が、誇り高い、悪く言えば高慢、傲慢な彼らが、彼らを整列して迎えたので、流石に驚かされた。いち早く、何時でも攻城戦に出る準備ができているという印象だった。彼らの表情には、一様に緊張していた。さらに、神族10名も並んでいた。
「大したことなく、終わりましたよ。呆気ないほどに。神族2人とエルフ達が数人死にましたがね。それだけですみましたっすよ。」
 たまたまか、その場にいたユダが問われることもなく説明した。
 その後、シルビアはそっと神族の何人かに話しかけた。彼女が勇者だと分かっていたので、彼女に対してかなり敬意を持って答えた。つい、彼女がマリアのごとに触れると、彼らは真っ青になり、
「マリア様は、マリア様ですから。」
「マリア様は、ゴセイ・ミョウ・ヨウ様のあらゆる面で大切な方ですから。」
としか言わなかった。
  
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