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文字数 694文字

 お互いに道の真ん中を歩いております。
藪千代は余所者だからと、礼儀から端へと退きましたが。踏ん反り返り過ぎた良三は、上を向いて気が付きませんでした。
尤も気付いても、避ける気などまったく無いのでしょうが。

「武良!」

と、藪千代が言った時には、既に遅し。若武者集団の先頭の人にぶつかってしまいました。
相手も避ける気など、端なっから無かったのです。

「おい!貴様。何処の田舎者だ。
我らを、吉岡一門と知っての無礼か?!」

さて、ぶつかった先頭の男、スラッとした身長に、小綺麗な着物。何より顔が良い男。
正に若武者の鑑の様な男で御座いました。
良三、田舎では腕っぷしだけで、あの良三に関わるとろくな事が無いと。皆、道を譲ります。
従って、日頃の癖で横着な態度で、

「何だと?ぶつかったのは、そちらであろう」

などと言ってしまったのです。藪千代は、

「ああ〜」

と顔を手で覆い頭を抱えてしまったのでした。
 すると若武者、

「我が名は吉岡一馬。吉岡家の嫡男なるぞ。
貴様、礼儀をわきまえろ。名を名乗れ!」

と胸ぐらを掴まれて言われました。 
 すると、ハラリと書状が良三の胸元から落ちました。吉岡一馬は、それを拾うと中を見ておりました。
良三、慌てるどころか、何と名乗ろうかと考えておりました。何故なら武良と名は貰いましたが、姓を戴いておりません。そこで、

「我が名は・・・(多分、宮本を名乗って良いんだろうな)宮本!」

で、日頃ムサシ師匠の名が頭に有りましたので。

「我が名は、宮本武蔵!武良・・・」

と言ってしまいました。
 すると一馬、ハッ!としたように書状の裏書きを見て、2度ビックリ。そこには確かに、
宮本武蔵と書いてあったのでした。
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