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文字数 800文字

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 とその頃、藪千代さんはと言うと。
酒を飲んで良い気分でうたた寝をしていた。
だがふと目が覚めると、良三が帰ってきていない。あら?本当に殺されたかな?と、ここで、小心者の藪千代さん怖くなってきた。
いや、あいつを何とか万々寺に送り届けなければ、私が師匠から怒られる。
全く、ひでぇ話しさ、とおもむろに立ち上がると。自分の刀を腰に、師匠より預かった刀を、盗まれてはと手にもつと。
宿から吉岡邸へと向かった。

 肥後の町で、藪千代さんが良三とつるんでいた理由は。一人で町を彷徨くと、下級武士や、ならず者が声をかけて馬鹿にしたり、意地悪をされるからだった。
 良三を連れていれば誰も声をかけてこない。
喧嘩になっても、良三を置いて行けば済むこと。そして、直ぐに隠れて相手が倒れたり逃げた後で、姿を現すという。何とも忍者の様な処世術をやっていた男であった。

 だから良三が、こんな揉め事に巻き込まれて辟易していた。
殺されたなら殺されたで、奉行所に届けて、
斯々然々で、死にましたと師匠に言えば済むかと思っておりました。
 全く・・・。藪千代さん、
自分は今、日の本で最も不幸な男だ!
と思っておりました。それは案外、外れてはいませんでした。

 これから起こる事を知っていれば、で御座いますが・・・。
 さて路地を歩いておりますと、藪千代さんの前から、大男が血相を変えて走ってくるではありませんか。
良三か?と思っていると、後ろから武士達が刀を抜いて、キラキラと銀の刃を翻して走って追い掛けてくる。

『待てー!』

の声を聞いて藪千代さん。
事の次第を飲み込んだぁ!これは緊急事態だ!
と回りをキョロキョロ、隠れなければ、と思ったところで、良三が、

「藪千代!刀!」

と叫んだ。思わず師匠の大事な刀を良三に渡してしまった。
良三それを受け取ると更に走って逃げた。
 えっ??!!どうすんの俺!と藪千代さん。
さっと、路地の暗がりへと姿を隠したぁ!
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