第4話 それって、アイドル失格ってことだよね

文字数 640文字

「それって、アイドル失格ってことだよね」
 雅樹は行き交う局の人たちの目を気にして笑顔を崩さない。
「ん〜〜 ダンスだけはね」
 それも皮肉だが、雅樹は冗談のつもりである。しかし詩郎は気分害された。自分が一番わかっている。『笑門来福⤴吉日』の中では最も踊りが下手だって。駆け出しのころはよくメンバーにおちょくられた。なかには、詩郎のレベルに合わせてたらクオリティ下がるからメンバー変えてくれと事務所に直接訴える者もいた。笑原拓海だ。いまはメンバーの中でも最も機転の効くマルチタレントと評判の吉岡雅樹だって、当初はヤンキーみたいな口の聞き方で恫喝していた。
「シメてやっから、てめえらこの後残れや!」
 いい気になって他のメンバーにダンス指導してた。歌は一番下手なくせにだ。
 詩郎はさっさと現場に戻りたかった。メンバーと話すくらいならドラマの共演者と話してる方がずっと楽しい。なので・・・
「雅樹くん、またね、俺まだ仕事残ってっから」
 演技よりずっと下手な作り笑いを残したまま、詩郎は雅樹とのお喋りを切り上げた。雅樹は微妙な笑みを浮かべてこう問うた。
「つぎ、いつだっけ?」
 詩郎はちょっと考えてから呟いた。
「来週まで会わなくて済むよ」
(会わなくて済む・・・)
 そう、こんなぎすぎすした関係のメンバーとはできるだけ会いたくない、そう思ってるのは自分だけだろうか? 詩郎は雅樹のやけに業界風吹かせた顔に嫌悪感を覚えつつ、無言でその場を立ち去った。背を向けた瞬間、雅樹の表情も笑顔が消え強張っていた。

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