第51話 やつらは使い終わった

文字数 1,538文字

 解散した『テイクプレジャー』だが、シュン(珠原俊一)とヨシくん(佐々木義和)の二人はラバーズ事務所に残るつもりだった。
 そもそも勝手にマッキーが飛び出しただけで、二人はもとよりラバーズ事務所と折り合いが悪かったわけではない。来たる契約更改の日には、二人とも現状維持でサインをするつもりだった。
 実のところ、二人にとってマッキーが抜けてくれたことはラッキーだった。彼がいることでいつもいざこざが絶えなかったし、つっぱっているマッキーのせいで彼らは他のタレント、特に厳ついロック系バンドやアスリート出身のタレントたちと無用な牽制をし合わなければならなかった(実際楽屋裏ではよく喧嘩をして関係者を困らせていた)。
 役柄もあってシュンとヨシくんは不良を演じていたが、本当のところは二人とも穏やかな大人しい少年だったのだ。『テイクプレジャー』を結成した時、彼らのセールスポイントを事務所が社会に反抗する不良少年を要求したので二人はそれに自らをはめ込んだだけだ。望んで不良になったわけではない。
 だから本当は二人だけで平和に『テイクプレジャー』を続けたかったのだが、事務所から告げられたのはグループの解散、それに加え『テイクプレジャー』として持っていたすべてのレギュラー番組および出演していた番組を強制的に終わらされた。
「冗談だろ!」
 当然、シュンは納得いかず飯倉に詰め寄った。
「俺たちがなんかしたのかよ!」
 ヨシくんも声を荒げた。
 彼らの代わりに出番をかっさらっていったのはアイドルグループの『エクストラパラダイス』。メンバー7人全員がローラースケートでステージを目まぐるしく滑って踊るパフォーマンスは斬新かつ清新さがあった。『テイクプレジャー』の後輩だが、瞬く間に人気が急上昇し、無骨な不良を売りにした『テイクプレジャー』に代わって爽やかでスポーティな『エクストラパラダイス』が新時代を築きトップアイドルの座を奪った。
 彼らが新しい番組を全て持っていったのだ。
 交代劇の真相を知る飯倉は、眉を顰めたままシュンとヨシくんの怒りの眼差しを受け止めていた。
「社長がお決めになったのだ。仕方がない」
 それだけ言うが精一杯だった。
「なんでぜんぶ変えられるんですか! マッキーだけでしょ、交代するなら」
 シュンの言いたいことはよくわかる。飯倉も同じ理屈を海堂丈太郎にぶつけた。
 『テイクプレジャー』解散を告げられた日、飯倉は社長室の前で丈太郎を捕まえ必死で食い下がっていた。
「シュンとヨシくんは、マッキーと違って事務所に一生懸命尽くしてきました。無茶な高望みもしません。彼らを替える道理がありません」
 しかし丈太郎は言った。
「やつらは『テイクプレジャー』だから売れたのだ。もう『テイクプレジャー』じゃない」
「それはマッキーの裏切りであって、彼らの責任ではありません」
「グループは連帯責任だ」
「しかし、うちの事務所は個々のタレントも適性に応じ育成してきたじゃありませんか。シュンにもヨシくんにも」
「一番星が存在すればこそだ」
 確かにマッキーがいるから『テイクプレジャー』は売れた。だが、抜けたなら次の一番星を作ればよいではないか、飯倉はそう思う。
「シュンかヨシくんを頭にして、もう一人ジュニアから入れるというのはどうですか?」
 だが、丈太郎は同意しなかった。
「数合わせじゃないことぐらいわかるだろ! そもそもあの二人にそんな力があると思うか?」
「し、しかし、社長」
 目まぐるしく変わるアイドルの座。それはよほど力をつけない限りすぐに新しくデビューしてくる新人に奪われる。
 言い淀む飯倉に、丈太郎は最後にラバーズの掟で黙らせた。
「やつらは使い終わったんだ」
 そう言うと社長室の扉をピシャリと閉めた。
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