第77話 恐喝
文字数 1,059文字
ライスレンの想像したとおり、過去への回帰を阻止する妹尾の計画は進行していた。
深夜の六本木のバー。若い女性が仕事を終えて、いそいそと妹尾の隣に腰を下ろす。
妹尾は労いの言葉も掛けず不躾に訊ねた。
「首尾良くいったか?」
「ええ、あの物件は転がすにはちょうどよかったそうよ」
「そうか、俺たちのことバレてないな?」
「大丈夫、バレてないわ」
相手は朝比奈莉夢。妹尾が彼女を芸能事務所『HAPPY DAYS 100⤴』に差し向けていた。ここのところ彼女はずっとこの事務所の近辺調査にあたっていた。
すると、思わぬ発見があった。なんと、物件の所有者に大きな傷があることが判明したのだ。所有者は家賃収入の多くを確定申告しておらず脱税していたのである。
これに目をつけた妹尾と朝比奈莉夢は、闇のブローカーを使って所有者を脅しにかかった。物件を手放さなければ親類縁者にまで害を及ぼすと。
明らかな恐喝である。しかし、傷を持つ所有者は訴えることもできず、夜逃げ同然で土地とビルを手放した。
この物件を扱うことになったブローカーは、一見まともな不動産会社に見える反社会的団体に物件を売り渡した。
こうなると、賃貸契約を結んでいた『HAPPY DAYS 100⤴』にも魔の手が忍び寄る。身に覚えのない保証契約を突きつけられ脱税に加担していたと言いがかりをつけられ、債務者が債務を履行しなかったのであるから脱税分支払うか、ここを立ち退けと迫られた。
「やつらの反応は?」
「法的手段も考えたようだけど、場所が場所だけに立ち退きに応じるつもりみたいよ」
「よし、まずは寝ぐら潰し成功だな」
「だけど、連中、すぐに違う物件探すわよ」
「事務所移転の噂はすぐに広まる。どうして移ったのかと。そこをうちが突くんだ。『HAPPY DAYS 100⤴』と反社の怪しい関係を」
「でも、否定するでしょうね」
「ラバーズショックの後だ。引き継いだあの事務所に国民の眼は厳しい。そうなるといくら否定しようが霧を払うのに躍起になる」
「そううまくいくかしら?」
「いいんだよ。目的は鷹の求心力を奪い、事務所からタレントを引き剥がすことだから」
「そんなことですでに加入を決心した來嶋詩郎、福田剛士、門川慎之介が翻意するかしら?」
「あいつらが離れなくても、ツートップが加入しなければ再結成はない」
「吉岡と笑原ね」
「聞けば、手こずっているらしいじゃないか、鷹も」
「あちらにも手を回してるんでしょ?」
「さあ、どうだかな」
妹尾の不敵な笑みに、莉夢は上司ながら背筋にぞくっとしたものを感じた。
深夜の六本木のバー。若い女性が仕事を終えて、いそいそと妹尾の隣に腰を下ろす。
妹尾は労いの言葉も掛けず不躾に訊ねた。
「首尾良くいったか?」
「ええ、あの物件は転がすにはちょうどよかったそうよ」
「そうか、俺たちのことバレてないな?」
「大丈夫、バレてないわ」
相手は朝比奈莉夢。妹尾が彼女を芸能事務所『HAPPY DAYS 100⤴』に差し向けていた。ここのところ彼女はずっとこの事務所の近辺調査にあたっていた。
すると、思わぬ発見があった。なんと、物件の所有者に大きな傷があることが判明したのだ。所有者は家賃収入の多くを確定申告しておらず脱税していたのである。
これに目をつけた妹尾と朝比奈莉夢は、闇のブローカーを使って所有者を脅しにかかった。物件を手放さなければ親類縁者にまで害を及ぼすと。
明らかな恐喝である。しかし、傷を持つ所有者は訴えることもできず、夜逃げ同然で土地とビルを手放した。
この物件を扱うことになったブローカーは、一見まともな不動産会社に見える反社会的団体に物件を売り渡した。
こうなると、賃貸契約を結んでいた『HAPPY DAYS 100⤴』にも魔の手が忍び寄る。身に覚えのない保証契約を突きつけられ脱税に加担していたと言いがかりをつけられ、債務者が債務を履行しなかったのであるから脱税分支払うか、ここを立ち退けと迫られた。
「やつらの反応は?」
「法的手段も考えたようだけど、場所が場所だけに立ち退きに応じるつもりみたいよ」
「よし、まずは寝ぐら潰し成功だな」
「だけど、連中、すぐに違う物件探すわよ」
「事務所移転の噂はすぐに広まる。どうして移ったのかと。そこをうちが突くんだ。『HAPPY DAYS 100⤴』と反社の怪しい関係を」
「でも、否定するでしょうね」
「ラバーズショックの後だ。引き継いだあの事務所に国民の眼は厳しい。そうなるといくら否定しようが霧を払うのに躍起になる」
「そううまくいくかしら?」
「いいんだよ。目的は鷹の求心力を奪い、事務所からタレントを引き剥がすことだから」
「そんなことですでに加入を決心した來嶋詩郎、福田剛士、門川慎之介が翻意するかしら?」
「あいつらが離れなくても、ツートップが加入しなければ再結成はない」
「吉岡と笑原ね」
「聞けば、手こずっているらしいじゃないか、鷹も」
「あちらにも手を回してるんでしょ?」
「さあ、どうだかな」
妹尾の不敵な笑みに、莉夢は上司ながら背筋にぞくっとしたものを感じた。