第37話 話が違うだろ!
文字数 800文字
深夜零時を回ったラバーズ事務所。次世代のアイドルの卵たちは夜半のレッスンも欠かさない。
トップアイドルグループ『笑門来福⤴吉日』解散の後、ポスト『笑門来福⤴吉日』を狙って次々と新たなグループがここラバーズ事務所から生まれていた。純真な彼らは誰よりもたくさんスポットライトを浴びることを願い、日夜厳しいレッスンを続けている。かつての『笑門来福⤴吉日』がそうであったように。
その夢見る少年たちの頭上では彼らをマネジメントしているエギュゼクティブたちが現場から遠く離れた企てを画策していた。
「鶴岡から連絡があったわ」
海堂メイコが兄である社長の海堂丈太郎に呟く。この部屋には二人の他誰もいない。
「あの件か?」
「ええ、そうよ」
鶴岡とは民政党安西派の代議士緒沢謙次郎の私設秘書のことである。
「検察庁が本腰入れ始めたって。それと厄介なメディアも」
誰かに聞き耳を立てられていないかと思い、丈太郎は慎重だった。
「うちは一切政治に関わってない」
メイコは周りを確認するようにぐるりと部屋を見渡してから言った。
「兄さん、大丈夫よ。ここは」
そんな部屋がラバーズ事務所にはどうしても必要だった。つまり、盗聴も外への音漏れも、他いかなる通信傍受もされていない部屋が。
「誰か検分したのか?」
メイコは自信ありげに頷き言った。
「Q3が」
「・・・なら間違いはないな」
二人が使っているその隠語は社内警護を意味する。Q3とは機密情報を守る役割の人間のことで、ラバーズ事務所お抱えの元公安調査庁の役人である。国家の機密管理を任されていた最高レベルの警護人を雇えるほどにラバーズ事務所は潤いまた政治と癒着していたと言える。
そこでようやく丈太郎は安心して癒着元を口にする。
「緒沢さん側からはなんと?」
メイコは顔を曇らせて言った。
「タイミングが悪いので、あの話は次の機会に回して欲しいと」
「話が違うだろ!」
丈太郎が声を上げる。