第95話 一石二鳥の奇策

文字数 1,138文字

 妹尾はもう一つ別の窮地にも立たされていた。それは例の反社組織だった。『笑門来福⤴吉日』の再結成を目論む飯倉の計画を阻むため妹尾が差し向けた闇ブローカーが、あれ以降、妹尾に刃を向けていたのだ。特定の芸能事務所に対し仕掛けた奸計を黙っておいてやる代わりに30万ドル寄越せ、寄越さなければすべてリークすると。
 困り果てた末、妹尾は、これを秘匿することと、『笑門来福⤴吉日』の再結成を阻止することと、一石二鳥の奇策を練った。
 執拗に送られてくるチャットメッセージに妹尾はこんなことを返している。
>>ある人物を整理してくれるなら,これまでのことと併せて100万ドル払うがどうだ?
>>youの言うことは信用できない
>>俺にはそれを払うだけの資力がまだある
>>信用ならん
 この直後、妹尾は誰かの個人預金口座に勝手にアクセスして闇ブローカーに手付金30万ドルをリアルタイムで送金している。
 実はこの口座、ラバーズ事務所元副社長海堂メイコの隠し資金だった。彼女が友人の名義を借りて(友人になりすまし)アメリカの銀行口座を使って投資していた。メイコの逮捕前、妹尾はこのことを嗅ぎつけ、いち早く朝比奈莉夢を差し向け、検察に見つけられる前に友人名義のスマホを押収した。ご丁寧にスマホ本体に銀行口座へのパスワードなどアクセスコードを記したメイコのメモの画像があったため難なく突破した。最後の砦は生体認証だが、これも友人になりすましたメイコの顔そっくりのレプリカを作り、Face IDを潜り抜けまんまと投資口座に潜入できた。
>>どうだ信用してくれたか?
>>いやまだだ.あるならどうしていままで払わなかった?
>>応援政党への選挙対策に使うつもりでいたんでな
 もし吉岡正志と笑原拓海が参院選に出てくるなら、妹尾はこの金を使って、両名の陣営に行き渡るようこっそりとばらまき公職選挙法違反で訴追するか、あるいは単純に対立候補に票が流れるよう運動員を増やし無党派層を取り込む戦術を考えていた。それは鶴岡にはもちろん内緒でである。いざとなれば彼にも袖の下を渡してあるので謗りは受けない。
 妹尾の計画は当初から芸能界から吉岡と笑原を引き剥がし、なおかつ選挙でも敗北させ、『笑門来福⤴吉日』再結成ルートを完全に断つことにあった。
>>選挙応援はもういいのか?
>>アテが外れたんでな
 立石が引いたことで吉岡と笑原の参院選出馬は完全に消滅した。
>>わかった.信用しよう.で,整理して欲しい人物とは?
>>Mitsuro IIkuraだ
>>近日中に整理する.70万ドル用意して待ってろ

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