第100話 例の毒殺ルート

文字数 793文字


 東京地方検察庁。
「小坂部さん、例の毒殺ルート見えてきましたよ」
 3年前、検察官特別考試に合格した和田彰良は小坂部和樹と同格の検事になれた。副検事を5年経たあとの合格にアメリカ留学中の娘を持つ和田は内心ホッとしていた。娘の学費支弁が決して小さくはなかったからだ。
 和田とのコンビが長い小坂部は、和田の表情から疑惑の本丸を遂に突き止めたのだと悟った。
「どこだ?」
「フィリピンです」
「フィリピン?」
「実行役は日本で働いているフィリピン女性アシュリー・サルバドールですが、胴元はフィリピンで不動産業を営んでいる中国人実業家です」
「するとブツはフィリピンから運ばれたのか?」
「製造はフィリピンですが、中国の大連を経由しています」
「中国であろうがフィリピンであろうがダメだろタリウムは」
 小坂部たちは先日都内の病院から通報のあった患者の体内からタリウムが検出された事件を調べている。通常体内で生成されることも外から入ることもないこの物質が体内に入るとカリウムイオンと置き換わり強烈な毒性を示す。少量でも投与し続けると死に至る。
 重篤に陥っているその患者とは『HAPPY DAYS 100⤴』飯倉三津郎であった。
「おっしゃる通り。ただ、殺鼠剤(さっそざい)としてなら輸入は簡単です。現に日本の市場には中国から殺鼠剤が山ほど入ってきている」
 ネズミを駆除する薬剤と聞いて小坂部は納得がいった。
「すると闇グループは殺鼠剤からタリウムを抽出して飯倉に飲ませたということだな」
「ええ」
「しかしどうやって?」
「実行役のアシュリーが飯倉たち行きつけの定食屋で働いていました。わずか2週間ですが、毒物を盛るには十分な期間でしょう」
「なるほど、調べたわけだ。飯倉が出入する店を。で、そこで給仕の際にタリウムを混入させた。毎日少しずつ。店の者も知らないうちに」
「そういうことです」
「飯倉だけか? 盛られていたのは?」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み