第70話 鷹が獲物を見つけた

文字数 930文字


 飯倉が『笑門来福⤴吉日』の元メンバー、なかでも來嶋詩郎、福田剛士、門川慎之介の3人にまず狙いを定めたのは、彼らがいまも独立事務所を保ち、グループとして芸能活動を続けているからだ。リーダー格の來嶋詩郎の説得に成功すれば、福田剛士と門川慎之介の同意が得やすい、そう飯倉は考えた。だから詩郎から攻めたのである。
 一方、先の参院選挙で政界進出を目論むも、民政党から推薦が得られず、行き所を失い暫くフリーの状態になっていた吉岡正志と笑原拓海の二人は、いまだ根強い人気を博し、ラバーズ事務所の解体と同時に、それぞれが別々に個人事務所を開き、芸能界に復帰してきた。
 果たして国民が彼らを受け入れるのかどうかだったが、やはり、二人の人気は『笑門来福⤴吉日』の中でも首一つ抜け出ていた。たちまち二人に仕事が舞い込んできた。過去の不始末などなかったかのように。理由は簡単である。彼らを使えばまだ視聴率が稼げるからである。
 ただ日下部悠斗はというと、彼は芸能界から遠く身を置き、民間旅客機のパイロットを勤めてもう9年になっていた。彼を芸能界に戻すことが最も難しい。
 だから飯倉は可能性の高いところから動き始めたのである。
 このスニーキングな『笑門来福⤴吉日』再結成の動きをキャッチする者がいた。
「どうだった、莉夢?」
「いたわ、赤坂のワインバーで二人会っていた」
「やっぱり噂は本当か・・・」
「飯倉って男、やるわね。あれほど抵抗を見せていた來嶋詩郎をとうとう落としたわ」
「一人ゲットか」
「あの調子じゃ、福田剛士と門川慎之介も時間の問題ね」
 赤坂から新宿のアジアンニュースJPにいま帰社したばかりの朝比奈莉夢を捉まえて訊ねるは妹尾元親。
 ラバーズ事務所に決定打を与えた元女子アナ朝比奈莉夢は、いまは妹尾の忠実な部下である。妹尾は莉夢が吉岡正志と海堂メイコに仕掛けたスパイ活動による諜報能力の高さを買って、ラバーズ事務所を整理した飯倉三津郎の動きを探っていた。
「あの男、本気なのか?」
 詩郎とのやり取りを背中越し盗み聞きしていた莉夢は、飯倉の本気度をこう表現した。
「鷹が獲物を見つけた時みたい」
「逃げるのは大変だな」
「逃したいんでしょ野ウサギを、妹尾さんは」
「いや、鷹の方を檻に入れたい」
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