第1話 緊張感のない学芸会・・・?

文字数 983文字

 東京六本木。人気バラエティ番組の撮影の合間、の小休憩、のスタッフ控室。アイドルの二人が話している。
「慎之介さあ、さっきのリハだけどよ、台本(ホン)にない動き多すぎて、ドタバタしてるだけって感じだったぜ。あれ、ぜんぜん笑えねえよ」
 ラストのオチを笑原拓海(えみはらたくみ)に指摘され門川慎之介(かどかわしんのすけ)はコント演者の顔から一瞬素の顔に戻った。
「ドタバタしてるだけ?」
 毎回いちいち文句をつけてくる拓海に慎之介は腹立ちを覚えていた。そんな慎之介にお構いなく、拓海はスタバマークの入ったタンブラーを啜りながらダメ出ししてくる。
「おまえわかんねえ? あの大声張り上げてるだけのみっともねえやつ。素人じゃねえんだからさ」
 国民的アイドルにのし上がった彼らグループ『笑門来福(しょうもんらいふく)⤴吉日(ヨッシャー)』は、それまでのアイドルが誰もやらなかったお笑いを芸に加えた。もちろん彼らだって歌やダンスもやるのだが、お世辞にも本業がうまいとは言えなかった。
 毎度のことながら慎之介は拓海のこの人をバカにしたような言い方にカチンときた。それでもメンバー間で揉め事を起さぬようできるだけ我慢してきた。それは『笑門来福(しょうもんらいふく)⤴吉日(ヨッシャー)』を結成した時、はじめにマネージャーの飯倉三津郎(いいくらみつろう)に戒められたことだ。ファンや視聴者や業界関係者の前では仲の良いグループだと思われるよう常に笑顔を振りまけと。グループ名に恥じぬよう。だから慎之介は苦しい作り笑いを浮かべて言った。
「大声張り上げてるだけだった、俺?」
「ああ」
「ありがと。つぎの撮りで修正するよ」
 しかし、拓海は容赦なかった。
「それだからだめなんだぜ。撮り直しが利くって思ってるから、あんな下手な芝居になるんだ。生撮り一本で決める、後がないって思ってやれや。他の演者にも失礼だぜ」
(くっ・・)
「代わりなんていくらだっているんだぜ。斎藤Dにおもしろくねえって思われたら、この番組年内で終わんぞ」
「それって、俺のせいかな?」
 慎之介はふるえる声を押し殺し訊ねた。拓海はこれ見よがしと大きなため息をついた。
「あんな緊張感のない学芸会してたらてめえの責任だな、間違いなく」
「学芸会・・・?」
「あれはハイスクールでアドリブでやっている演技だ」
 ついに慎之介が切れた。
「ちょっと待てよ!」

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