第48話 理由なき反抗

文字数 1,133文字


 こうした中で、固定ファンを他に譲らず、どんどんファンを膨れ上がらせてきたアイドルグループが『テイクプレジャー』だった。青春学園ドラマから生まれたマッキー、シュン、ヨシくんの3人は、他のアイドルグループの追随を許さぬ絶大な人気を誇った。
 その理由は・・・彼らが不良だったからである。
 80年代という時代を象徴する一つに校内暴力というものがあった。第2次ベビーブームに生まれた当時10代の若者は、競争に晒され画一的に扱われ、やれ受験だ、やれ一流企業だと息する間もなく追い立てられた。そんな彼らが、堅苦しい身近な学校や先生、そして親たちに、やり場のないエネルギーを暴力に変えぶつけるのは尤もなことだった。先生を殴り、学校を破壊し、親に歯向かい、力で得られるものがなんなのかを探し求めた。大人が作った社会を壊すことで自分たちの自由を勝ち取れる気がした。
 暴力はかっこいい。暴力は正義だ。大人たちに立ち向かえる奴は勇気があり自分たちのメシアだ。
 そんな風潮が社会を支配していた最中に、『テイクプレジャー』はデビューした。ドラマで演じた影のある不良生徒の憂鬱そうな瞳は少女たちのハートを鷲掴みにし、そのままアイドルの世界に飛び込んできた。
 染めたリーゼントヘアーに洋ランを思わせるキンキラのマント。マッキー、シュン、ヨシくんはどこからどう見ても立派な不良だった。
 時に礼儀を知らぬ反抗的な彼らの態度も、ブラウン管の中では許され若者たちは心躍らせた。いや、大人たちでさえ、彼らの挑戦的な態度に、自分が為し得なかった革命の再来を見た気がした。
 つまり、『テイクプレジャー』は革命児だったのだ。あの時代に人々が望んだ偶像を彼らが具現化していたのだ。
 その3人の中でも、特にマッキー、即ち近見真紀の人気が一番凄まじかった。ファンレターが毎日トラックの荷台が埋まるほどに届いた。マッキーはルックスも『テイクプレジャー』の中では一番よかったが、何より彼は喧嘩が強かった。本当に強かった。グループ内でもシュンやヨシくんを圧倒していたし、ラバーズ事務所の血の気の多いタレントの中には、喧嘩が強いと噂の彼に喧嘩を売って、逆に伸された者が実際にあったと聞く(事務所のコンプライアンスに抵触するため秘匿されていたが)。
 マッキーは和製ジェームス・ディーンだった。彼がこの世界を変えてくれると若者たちは信じていた。
 そして、彼はその脆くも危ない階段を昇ってしまったのである。
 マッキーは、理由なき反抗の刃を向けてはならないものに向けた。強い者に立ち向かう姿に陶酔して、そんな自分を社会が共感してくれると思って、マッキーは親ではなく自分という偶像を生み育ててくれたラバーズ事務所に反旗を翻したのである。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み