第13話 解散するしかないです

文字数 864文字


「はじめから?」
 飯倉は驚く仕草を見せた。
 悠斗は言った。
「坂を登っている時はごまかせても、登り切ったら通用しない。なんでかわかりますよね?」
「なにが言いたい?」
 來嶋詩郎が付け足す。
「僕たち、売れたとはいえ、そもそもが自分たちで選んだ仲間じゃないんでね。作られた環境下で作られた友情ごっこ、どうしたってボロがでるに決まってる。売れて自分が一番偉いって勘違いしてるメンバーだっているし」
「勘違い?」
 飯倉の目が二人に注がれる。彼はわかっている。『笑門来福⤴吉日』がどこから崩壊し始めたかを。
 彼らの座る位置は飯倉の目から見て、リーダーの吉岡正志を歪な三角形の頂点として、右に來嶋詩郎、福田剛士、門川慎之介、日下部悠斗。左に笑原拓海が孤立していた。
 詩郎は言う。
「慎之介が一番正直だっただけで、あとのメンバーも本心は大嫌いだったはずだ。いままで我慢してたのは、飯倉さん、あなたへの恩義があったからだ」
「私への?」
「そうです。メジャーになりたかった僕らをここまで連れてきてくれたのは飯倉さんだ。それを僕らはぶち壊したくはなかった」
 慎之介が少しの後悔を口にする。
「俺だってぶち壊したくなんてなかった。でも、この二人はいつだって俺たちを下に見て蔑んでいる。それだけじゃない。社長と通じていて自分たちだけ仕事を取っている。でしょ?」
「・・・」
 飯倉は黙った。事実だからだ。しかし、ここに彼らを集めた以上、全部吐き出させなければならないと彼は思った。
「さっきから誰のことを言ってる?」
 詩郎が呆れたように呟く。
「なにをいまさら」
 その視線が自分たちを怖い目で睨みつけている笑原拓海と吉岡正志に注がれている。
「この二人がいる限り続けられない。今日の慎之介の行動はそれを赤裸裸にしたまでだ。僕も思いは慎之介と同じです」
 詩郎の言葉に、慎之介、剛士、悠斗が同時に頷いた。
「ならば、どうしたらいいと思う?」
 この後に及んで解決策を探る飯倉に、詩郎はきっぱりと言った。
「『笑門来福(しょうもんらいふく)⤴吉日(ヨッシャー)』は解散するしかないです」
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