第10話 殴って解決する問題じゃねえ
文字数 675文字
慎之介もやられっぱなしではない。やり返す。捩れた体を戻した勢いで拓海の顔面に正拳を突き入れた。拳は拓海の額にドンと撃ちつけられた。拓海より体一回り大きい慎之介の一発は重みがあった。拓海は上体を反らして2歩ほど後退りした。
体勢立て直して拓海が不敵に笑う。
「おもしれえ。こうなりゃとことんやろうぜ」
「望むところだ! 今日はギッタギタにやってやるぜ」
二人が互いの胸ぐらを掴み合い激しい取っ組み合いになった。
そこへ局の者から騒ぎの知らせを聞いて駆けつけてきたのは、吉岡正志と來嶋詩郎だった。
正志が叫ぶ。
「やめろ二人とも! なにしてんだ!」
慎之介が叫び返す。
「とめんな! こいつもう許せねえ、我慢にも限度あんだ。ぶっ殺してやる!」
「ここどこだと思ってんだ!」
リーダーの正志はあくまでも冷静だった。
「コンプライアンス違反で退所させられんぞ」
それはラバーズ事務所の社長、海堂丈太郎から厳に戒められているルールだった。プライベートでいくらケンカはしても構わない。しかし仕事での、とりわけ暴力によるケンカは絶対許さない。すればラバーズ事務所を退所させる。
しかし、慎之介はそんなルールなどもうどうでもよくなっていた。
「かまうもんか!」
正志が制止する。
「やめろって!」
そして、正志が慎之介を、詩郎が拓海を抱き留め二人を引き離した。
「離せよ!」
慎之介の方が治りがつかなかった。
正志は興奮する慎之介を抑えて叫ぶ。
「落ち着け、慎之介! 殴って解決する問題じゃねえ」
拓海が呟く。
「あと、5、6発も殴ってやっても、学芸会野郎は目覚めねえだろうがな・・・」