第7話 なんでもさせますから
文字数 755文字
飯倉は彼らにアイドルとしてのプライドを捨てるように言ったのである。これは画期的なことだった。当時のラバーズ事務所にアホになりきれるアイドルなんて一人もいなかった。そんなことをすればルッキズムで売っている社是に反すると社長や副社長、なによりマイナーな彼らを応援してくれているありがたいファンからこっぴどく叱られる。しかし、飯倉は思った。
(この世界、売れたもん勝ちだ。そうさ、評価は後からついてくる)
売れさえすれば、きっとみんな許してくれると信じた。
その飯倉の思いを『笑門来福⤴吉日』は理解した。自分たちに残されているチャンスは他にない。ならば次の仕事はそれで行こうと。
腹を決めてくれた彼らのために、飯倉は放送局を駆けずり回り『笑門来福⤴吉日』を懸命に売り込んだ。
「アイドルだと思わないでください。芸人と同じように笑われる役をください。無茶振りしてもらって結構です。どついてもらっても結構です。彼ら若いので体張ってなんでもさせますから」
さしづめ駆け出し芸人のセルフプロモートだった。
しかし、その甲斐あってか、『笑門来福⤴吉日』にバラエティ番組の仕事が舞い込んできた。キー局の『わんさかYUME✕YUME』だった。この番組のディレクターが売れっ子の在阪の芸人と比較的トークの上手い女性タレントを組み合わせ、ダブルMCに、『笑門来福⤴吉日』を絡ませてドリフを彷彿させるコントを組み入れてみることにした。コメディタッチのドタバタ劇を『笑門来福⤴吉日』に要求したのである。
彼らは覚悟を決めていた。これはラストチャンスだ、絶対にしくじらないと。そして彼らはアイドルを捨てアホに徹した。熱湯にも冷水にも浸かった。顔中クリームだらけにしてハリセンチョップも食らった。川底に落ちていくバンジージャンプも恐れず飛んだ。